02 - お姫様と王子様?
初日のみ5話投稿。
今日から三日間、ここラドフォード王国は建国記念祭のため、どこもかしこもお祭り騒ぎになる。
といってもメインが三日というだけで二、三日程前からすでに、飾りつけなどお祭りムードではある。
王都ではこの時ばかりはみんな財布の紐が緩くなるため、そこを狙った商人が各地から集まってくるし、その商人たちの持寄る珍しい物などにつられさらに人が集まり、盛り上がりは凄まじいものだ。
二日目の建国記念日は王宮にて王家主催のパーティーがあるらしいが、こちらは勿論貴族のみが参加する。
そして三日目には王族の誰かが馬車に乗り街中を周る慣習があり、これがまた大変人気だった。
当然護衛の数は多く、騎士たちの純白の正装での一糸乱れぬ動きは、さながらパレードのようになる。いや、実際パレードなのかもしれない。
滅多にお目にかかれぬ王宮勤めのエリート騎士に加え、見目麗しい王家の人。盛り上がりは凄まじい。
「聞きました? 今年のパレードは王太子殿下ですって!」
「聞きました! お近くで見られる機会なんて滅多にないから楽しみです! でも、殿下といえば……」
「えぇ、ついに婚約なさるとか」
「なんでも明日のパーティーでお相手の発表らしいですわね。あーん! 私の王子様が〜」
「おめでたいですが、残念ですわ。でも私たちでは——」
すれ違いざまになんとなく聞こえてきた会話に、貴族のお嬢様たちもこの辺りを歩くのかと少しうんざりする。
そして厄介事に巻き込まれないよう、もう少し周りへと意識を向ける。
私たちは今王都の中心部に近い場所、普段は噴水と少しの出店があるだけの広場に来ていた。
今は露店や人の多さに、いつもの静かで落ち着いた面影は全くない。
「カミール見て! なんかあっちに変なお面が売ってるよー!」
「いてっ」
「それよりも向こうにあるやつ食べたい!」
「あそこにいるのなんだろう?」
「わっとと!」
「この飾り凄い可愛い〜!」
「こら! お前たちバラバラに動くな! はぐれたらどうするんだ! ラナはちゃんと前を向いて歩け! その内転ぶぞ!?」
本当に賑やかだ。
あの後臨時収入があった私は、お祭りへと出かける年長組にお小遣いを渡し、まだ子供たちだけでは心配な年少組の子らを連れて街へ出てきた。
私もよく母に連れて行ってもらったが、今では連れて行く側になったことが少し感慨深い。
子供を見るのに流石にフードを深く被っている訳にもいかず、帽子を借りて中に髪を詰めて来た。このお祭り騒ぎの大勢の中ならば、そこまで気にしなくても大丈夫だろう。
人の多いところは余り好きではないのだが、普段以上に興奮してはしゃいでいる子供たちを見ると、やはり来て良かったと思う。
五人の子供を集めてそれぞれに叱っている男の子の頭を撫でる。
この中での最年長、十四歳のエルマーはとてもしっかりしているみんなのお兄さんだ。私の手伝いをすると言ってついて来てくれた。
みんながこちらを向いたので一人ずつ指を差し、順番を伝える。
付き合いの長い彼らは、これで伝わるのが本当にありがたい。
「やったぁ! 最初は私のところね、早くいこう!」
「その次は私ね!」
「しょうがないなあー」
「こら! だからすぐに走るな!」
「待ってよぉ〜!」
「みんな元気だなぁ。まあ、僕もカミールと一緒で嬉しいけど!」
にこにこ笑うコリンが可愛いくて、柔らかい髪の毛を撫で回す。
「わあ! だからくしゃくしゃになるってば〜!」
はしゃぐコリンと、まだきょろきょろしているラナと手を繋いで四人の後を追いかける。
◇◆
子供の体力は恐ろしいと思う。
走り回っている彼らよりも、私の方が疲れている気がするのは何故なのだろうか。
一度飲み物を買い、休憩するために喧騒から少しはずれた所にあった階段に座ることにした。
「ねえねえ、次どこ行くー?」
「今休憩してるところだろう? 少しは落ち着けよ」
「でも面白そうなものが多いししょうがないよ! 気になるものばっかり!」
「コリンお前まで……。ん? ラナ? どうしたそんなとこ見つめて」
「なんか聞こえた……」
「え〜? 裏の方から? 猫とかじゃないのぉ?」
「違う。……! やっぱりなんか聞こえる!」
「え!? ちょっ! ラナ待ってよー!」
「おい!? 待てって! くそっ、なんでこういう時は転ばないんだよ!」
突然のラナの奇行に驚きつつも、路地裏に入っていったラナを急いで追いかける。
少し奥に進むと確かに声が聞こえてきたが、あまりいい状況ではなさそうだった。全員気付いたのかペースが落ち、伺うように歩みを進める。
そして同じように様子を伺っているラナを見つけた。どうやら問題の場所は、そこの角を曲がったところのようだ。
「いい加減にして下さい……! 何なんですかあなたたち」
「何って、俺たちは頼まれた通り道案内してるだけだろぉ?」
「触らないで下さい! 確かに道はお聞きしましたが、案内までは頼んでいませんっ。しかもこんな場所に……」
「おいおい。俺たちの住む場所をこんな場所呼ばわりかよ〜! お嬢様にはさぞ汚い場所に見えるってか〜?」
「! わ、私はそんなつもりで言った訳ではっ、それに——」
「あーあ、傷ついたなあ〜。こりゃ責任とってもらわねぇとなぁ」
「ひひひ! 俺たちびんぼーだからなぁ。色々恵んでくれや〜」
「何言って…!? やめて、触らないで! 誰かっ!」
どうやらお嬢様がタチの悪い酔っ払いに絡まれているらしい。
しかし彼女には悪いが、こちらには子供たちがいる。この子たちを危険に晒してまで助ける義理はない。
幸いこちらには気付いた様子もないので、急いで戻り近くの衛兵を呼んでくるのがいいだろう。こういう日は見回りが多いから、きっとすぐ見つかる。
そう考えみんなを促して立ち去ろうとした所で、一際大きな悲鳴が聞こえた。
次の瞬間、一番前で様子を見ていたラナが飛び出したのが目の端に映る。
更に最悪なことに、止める間もなくラナを追いかけてみんな行ってしまい、慌てて私もその後を追う。
男たちは突然の乱入者に驚いた様子だったが、女一人に子供が六人増えたのみ。すぐに余裕な表情になる。状況は最悪だった。
「お姉さん、嫌がってる! 悪いことは、や、止めなさいよ!」
「ははは! いきなりなんだい嬢ちゃん、俺たちは悪いことなんてなんにもしてないぜ〜?」
「嘘つけ! 僕たちずっとそこで見てたんだからな!」
「それにおじさんたち、顔が悪者そうだし」
「こら! 余計なこと言うなよ!」
「いてっ!」
子供たちの言葉なんてどこ吹く風で、獲物が増えたとばかりにニヤニヤする顔がとても腹立たしい。
「なんだ見てたのか。ならそっちの姉ちゃんも俺たちに何か恵んでくれや。子供に怪我はさせたくないだろ〜?」
「その子達は関係ないでしょう!?」
「ここで会ったのも何かの縁ってな〜。あんたもついてねぇな、助けを呼んでも来たのがこいつらじゃな〜! ははっ!」
ラナは震える両腕を伸ばし、頑張って彼女を守ろうとしている。他の子供たちもそうだが、何人いても所詮は子供。
しっかりしているエルマーでさえ、まだ十四歳。みんなを気にかけてはいるが顔色は悪い。
建国記念祭という日のせいか路地裏に人の気配は感じず、助けを呼ぼうにも表の騒がしさに紛れてしまうだろう。
今日はみんな凄い楽しんでいたし、こんな事がなければいい日で終わるはずだった。
(あの人たちさえいなければ……)
——足下の影が、かすかに揺らぐ。
「はいはい、そこまで。おじさんたち離れてくれる?」
「……フィリップ!!」
「全く、お嬢さん何してんですか。少し目を離したらすーぐこれなんだから」
「うっ。ごめんなさい」
上から声が聞こえたと思ったら、家の屋根にしゃがみこみ、こちらを見下ろしている青年がいた。
「おいおい、なんだまたガキが一人増えたぜ。まあ? お兄さんたちは優しいから? 遊んであげてもいいけどな"ぁ“っ!?」
「おっと! すいませんねー、丁度下にいたもんだから。しかもお兄さんてとこ強調してるけど、どう見てもおじさんでしょ、っと」
「なっ!? この糞ガキっ! ぶふぉっ」
「お前らガキ一人に何してんだよ! くそっ、こうなったら——? あ?」
「もしかしてコレ、探してる? 危ないなあ、酔っ払いがナイフなんて持ち歩いて。怪我するといけないから貰っとくぜ?」
「っ! くそっ、やってられっか……う“っ」
「逃がすわけないでしょーが」
なんだかとても凄かった。
一人の男を着地と同時に踏みつけて、体勢を整えたと思ったら、くるくると動いてあっという間に終わってしまった。
今は何処から出したのか、男たちを縄で縛り付けている。
「フィリップ! ごめんなさい、助かったわ」
「これが仕事なんでね。それよりも……」
「あっ! そうだったわ! あなたたちもありがとう、怖かったでしょう? ごめんなさいね」
「僕たちはラナに着いてきただけで何もしてないし」
「うん。ラナかっこよかった〜!」
「そうだ! ラナ危ないだろ! 今回はこのお兄さんがいたから良かったものの!」
「お姫様と王子様だ……」
「あははっ、聞こえてないみたい」
「ラーナー!!」
ラナは二人をキラキラした目で見つめていた。
改めて見た少女は、きめ細やかな白い肌に、一つに結んだピンクゴールドのふわふわとした綺麗な長い髪、薄ピンクの大きな丸い瞳をしている。
そして青年の方は紫紺の髪と、明るい紫色の垂れ目だった。
二人とも整った顔立ちで、絵本好きのラナがお姫様と王子様に二人を重ねて見ても不思議はないかもしれない。
いや、青年の方は王子様と言うには些か軽薄なように見えるが……。
エルマーの言うとおり今回は運が良かっただけだが、ラナの頑張りも本物なので頭を撫でながら改めて二人に頭を下げ、お礼を示す。
「全員無事みたいでよかった。うちのお嬢さんが巻き込んだみたいでホント申し訳ないね。まあ、俺がいなくても大丈夫だったかな?」
そう言いながらこちらを見るので、意味が分からず眉が寄る。
口元だけの笑顔が、どこかこちらを警戒しているように思えて、こちらも少し身構えた。
「あれ? 聞いてる?」
「あ、えーっと、カミールは声が出ないので、会話はちょっと、あの、出来ない、です」
「あー、そういう……」
「あ、えっと、こんなところにずっといるのは子供たちによくないですね! えっと、後は警備隊を呼びますので、、」
「ふぅー。なんかすみませんでした。後はこちらでやりますので、もうお引取り頂いて大丈夫ですよ。今日はせっかくのお祭りですからね。楽しんできて下さい」
何も言わない私の代わりに答えたエルマーの言葉に、微妙な雰囲気になった。
その後の少女と胡散臭い笑顔の男の言葉に、遠慮なくそうさせて貰う。子供たちもいるし、何より彼の私を見る目が不愉快だった。
最後にもう一度頭を下げてから、表へ続く道を戻った。背中への視線を感じながらも、気にしないようにして。
もう二度と会いたくない相手だった。
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「もう! フィリップ最低! デリカシーなさ過ぎよ!」
「いやいや。喋れないとか、さすがに予想出来ないでしょう」
「それはそうだけど……。でも、あれはなんなの? 俺がいなくても〜ってやつ!」
「……それ、俺のマネです? あれは、……近くに居て何も感じなかったか? あの時、あの女に」
「え? あの時? 特には何も……。私も冷静ではなかったから曖昧だけれど。何かあったの?」
「んー、いや。俺の気のせいかもしれないです」
そう言いながらも青年、フィリップの視線は依然、カミールが立ち去った方を訝しむように向いていた。
「ま、とりあえず警備隊呼んでこないとだな。こいつらの目が覚めたらそれはそれで面倒くさい。当然着いてきて貰いますよ」
「ここで待つだけなら大丈夫よ。目が覚めたら面倒くさいのでしょう? 見張っておくわ」
「待つだけのことも出来なかったのは誰でしたかね? それに目が覚めた時にお嬢さん一人とか、さらに面倒くさいことになる」
「うぅっ。分かりました! 行けばいいのでしょうっ」
「そういうことです」
少し奥まった路地での男女の会話
この出会いは偶然か、それとも必然か




