40 - 羽根に託す想い
40 - 羽根に託す想い
慌ただしく動き周る人々。
それぞれの契約獣を連れ森を出ていく。
彼らはみんな誇らしそうな顔をしていた。
この国とこの森を守ることが、自分たちの役目だからと。
私はそんな後ろ姿を見送っている。
彼らは笑顔で手を振り出て行った。
そして二度と、戻ることは無かった。
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目が覚めると同時、開いた瞼から涙がこめかみを伝い枕へと流れていった。
珍しくハッキリと覚えている夢の内容は、知らない出来事、知らない景色、知らない人、なのに感じる胸の切なさに気持ち悪くなる。
身体を起こし床を見るが、アイビーの姿はそこにはない。次に頭に浮かんだ姿は、どちらにせよ側にいないと頭を軽く振ってかき消した。
「カミール、なんだか顔色が悪いけれど大丈夫?」
〈えぇ、少し変な夢を見ただけだから〉
「そう? 無理しないでね」
心配してくれるレティに微笑み頷く。
正直、動いて何かしている方が楽だった。一人でじっとしていると、きっとあの夢のことを考えてしまうだろうから。
今までとは違い、起きてからもはっきりと覚えている夢は何処か怖く、落ち着かない気持ちにさせる。
(ダメね、結局考えてしまうわ)
そんな時にフィリップが持ってきた知らせは、何処か夢を連想させるようなものだった。
最初は殿下からの手紙だった。
最初は嬉しそうにフィリップが持ってきた手紙を読んでいたレティの表情が少し曇り、最後は私を気にするように見てくるので、何かあったのかと聞いた。
手紙には、少し忙しくなるため連絡が取りにくくなるということ、その関係でアルヴィン様がしばらく王都を離れることが書いてあったようだ。
ここで何故、レティへの手紙にアルヴィン様のことが書いてあるのかと尋ねるほどバカじゃない。
そして王家と神殿、カースティ家に魔獣の被害。側近であるアルヴィン様が殿下の側を離れることは、近頃耳にする情勢などを踏まえても、何かがあったのだろうと思わせた。
大丈夫かと心配そうに聞いてくれるレティに、問題ないと笑顔で頷いたつもりだった。しかし自分で思ったようには表情は動いてくれなかったらしい。
気を遣ってくれたレティが、自分も気になるからと詳しい情報を得るようにフィリップを王城へと使いに出した。
その帰りを待つ間、いつもと同じはずの部屋は、やけに静まり返っているように感じた。
「想像以上にやばい状況かもしれない」
戻ってきたフィリップの言葉に、落胆のため息が溢れたのは仕方がなかったと思う。
フィリップによると、城内は既に慌ただしく動き回る人で溢れていたらしい。
なんでも王都からそう遠くない街の近くに魔獣が大量に発生し、救援要請を受け昨日から騎士団が向かっていた。しかし普段とは違う様子の魔獣に手こずっているらしい。
そこで疑われたのは以前オルブライト領にて発見された、変異した魔石だった。奇しくも城にて調査中だった魔石は数日前に盗まれている。
更にこのタイミングでカースティ公爵が魔獣使いを増やすべきと、契約魔法陣ではなく契約魔法での魔獣の使役を提言した。
そして被害の場所が王都から近いこともあってか、普段は反対意見だった者たちにも迷いが見えた。
「殿下は今回のことは裏でカースティ公爵が糸を引いていると考えているみたいだった。承認されれば勿論、不承認の場合でも今回の被害が大きければ次は分からない」
「でも、騎士団が対処に向かっているのでしょう?」
「その騎士団が上手く対処出来ていない。今回行く追加の応援の構成は主に魔獣部隊だ。公爵の匙加減でどうとでもなる」
「そんな! 人命がかかっているのに!?」
「殿下もそこを憂慮していた。だから現場の状況をより正確に理解し、尚且つその場で指示を出せる者を行かせることにした。騎士団長はもしもに備えてここで待機、近衛は当然王族の護衛。他に殿下が信頼していて腕の立つ者は……」
それが、アルヴィン様なのだろう。
口を抑えて青褪めるレティと悔しそうなフィリップとは裏腹に、私は何の感情も湧いてこなかった。
それは状況を理解出来ていないからなのか、また別の理由があるのか。
「時間が惜しいから今日中、遅くとも深夜にはもう王都を立つらしい。その時に此処へ寄るよう殿下が言っていたから、少しは話せる。伝えることがあるなら伝えておけよ」
あの後レティから今日はもう下がっていいと言われ、部屋へ戻りずっと考えていた。
初めて会ってからこれまでのこと。自分の気持ちと考え。そして今朝見た不思議な夢。
ふと隣に感じた温もりに顔を上げ、もう夜になっていたことに気づいた。
〈……ねぇ、アイビー〉
何も言っていないのに尻尾で軽く叩かれた。伝えたいことは分かった上で、断られてしまったらしい。
しかし私の側を離れたアイビーは、棚の上を尻尾で器用に指し示す。そこにあるのは……
〈クツァールの羽根? ……確か、幸運を運んでくれるってシーラが言ってたわね〉
アイビーに断られてしまった今、これを御守り代わりに渡すのもいいかもしれない。問題は、私には幸運が来なかったことか。
そんなことを考えていると部屋がノックされ、裏門へ行くように言われた。
言われた場所へ向かうと、門の向こう側に人が立っているのか見えた。奥に目立たない馬車もある。
「夜遅くにすまない。こんな時間に訪れるのは失礼だと言ったんだが……」
こんな時でも彼は真面目らしい。
そのまま門越しに向き合う。
〈ふふ、周りにお節介な人がいるのはお互い様ですね。でも、それがとてもありがたい〉
「……そうだな」
〈事情は聞きました。……かなり危ないそうですね〉
「騎士の仕事などこんなものだ」
淡々とした物言いに少し腹が立った。
〈……。せっかく来て貰いましたが、私、あなたに伝えることはありません〉
「……そうか。ならもう——」
〈側に、近くにいなければ何も意味がないからです。だから、戻ったら、戻ってきたらあなたが言って下さい。あなたが私たちの関係に名前をつけて下さい〉
「カミール……」
〈私は待ったりしませんからね。……あなたが来なければ、次に行きます〉
「カミール」
〈嘘じゃありません〉
「……今日は一度もこちらを見てくれないな」
〈っ!〉
彼の瞳を見ることが出来ないのは初めてだった。
そして、まだ何か言おうとした彼を遮る声が聞こえた。
「アル。すまないが時間がない」
「……分かりました」
その言葉に急いで持ってきていた物を渡した。
〈待つことはしませんが、心配はしますし、無事は願います。御守りに持って行って下さい〉
「これは……。ふっ、ありがとう。これを貰った以上、無事に戻って来なければな」
〈? はい、お気をつけて〉
彼は最後に門の間から手を伸ばし、私の頭を撫でて去って行った。
最後まで視線を合わせることは出来なかった。
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「悪いな、アル」
「構わない。……お前も忙しいだろうに、わざわざ見送りなど来なくとも」
「……休憩を兼ねているんだよ。気にするな。あー、それよりどうだった? 流石のカミールも今回ばかりは行かないで欲しいと泣いていたか?」
「いや、何も言うことはないと言われたよ」
「……は? いやいや、え、嘘だろう? でもその割には嬉しそうな顔をしているな……?」
「まあな。それよりカミールのことについて聞きたい。養子の話はどこまで進んだ?」
「ん? あぁ、あれか。思ったより早く纏まってな、書類の記入まで終わってもう提出されている。後は陛下のサインのみだな」
「なら俺が戻るまでに終わらせておいて欲しい」
「何かあったのか?」
「他に行かれる前に捕まえる」
「は? というか、お前その羽根……」
彼の手には綺麗な羽根が一つ。
決意の籠った瞳と同様、キラキラと輝いていた。




