35 - カッセル伯爵家
深夜に突然現れた謎のローブの二人組は、一人は突然のことに力加減の出来なかったアミーによる圧死、もう一人はアイビーに制圧されていたものの、屋敷の騎士に引き渡される頃には自前の毒でこちらも死んでしまっていた。
そのため二人から話を聞くことが出来ず、今は何か少しでも手掛かりがないか身体の隅々まで見て探させているらしい。
「実は、城で少し問題が起きてな。それに頭を抱えていた時にオルブライト公爵邸で襲撃事件があったと聞いて、どれだけ驚いたか。本当にヴィーが無事で良かった」
「えぇ、本当に。アミーと契約していて良かったと言うべきか、それが原因で犯人が来たのか。調べることは多そうですが、城では何が?」
「それがだな……、言いにくいのだが、以前公爵から預かった変質した魔石。あれが全て盗まれたのだ」
そんな不穏な殿下の言葉から始まった話し合いは、明け方近くまで続いたらしい。
私は割と早い段階で、気疲れしたらしいレティに付き添って部屋へと戻ったので、詳しい話は知らない。
その日はレティの部屋のベッドで、アミーとアイビーと一緒に眠った。
◇◆◇
次の日のお昼前、突然母が二人の壮年の男女を引き連れて現れた。
屋敷の玄関が騒がしく、レティと様子を見に行ったところ、こちらに気づいた母が飛びついてきて、それはもうペタペタと至る所を確認された。
その表情を見ると何も言えずされるがままになっていると、後ろから苦笑いを浮かべた奥様が助け舟を出して下さった。
「ミモザ、カミールは大丈夫だって教えたでしょう?」
「でもカリン——」
「心配だったのは分かるけど、もう十分確認は出来たでしょう? それよりこちらの方たちをいつまで放っておくつもり? あなたが連れて来たのでしょう?」
「……あっ」
「あらあら、ふふふ。私たちは大丈夫よ。ミモザのそんな姿を見るのはとても新鮮だもの。ねぇ、あなた?」
奥様の言葉に母と共に視線を向けた先にいたのは、私と同じ黄緑色の髪に茶色の瞳を柔らかく細めた優しそうな女性。そしてそんな彼女が見上げる先には、オレンジの髪に紺色の瞳をした男性。少し困ったような表情をしているが、その見慣れた色彩と面影に、一目みて分かった。
彼はブラーム・カッセル伯爵。母のお兄さんだ。
応接室にて座って話を聞くと、早朝、カッセル家から届いた便りにて、昨夜のことを知った母はすぐさま実家を訪ねた。
そして今は平民となった自分が、公爵家に押しかけることは出来ないため、兄を急かして連れてここまで来たらしい。
伯爵夫人は面白そうだからと、一緒について来たと本人が言っていた。ふわふわおっとりとした感じに見えるが、行動力があるらしい。
その話を聞いて恥ずかしいやら嬉しいやらで、取り敢えず隣に座っている母の手を握り、照れながらも心配してくれたことへの感謝を伝えた。
「ふふふ、いいわね〜。本当にいい子。ミモザにそっくりだわ〜。そう思わない? 彼女は紛れもなくミモザの娘よ」
そう言ってニコニコしている伯爵夫人であるサンドラ様と伯爵様には、この部屋へ入ってからきちんと言葉で挨拶をしている。
思わぬ急な顔合わせとなってしまったが、この二人が私の書類上の両親になってくれるのだ。
サンドラ様は笑顔で挨拶を交わしてくれた上に、私と同じ髪色だと嬉しそうにもしてくれた。しかし、伯爵様は挨拶は返してくれたもののずっと目元に力が入っており、厳しい表情をしていた。
今もサンドラ様の言葉に「そうだな」と素っ気なく返すと、紅茶を口に運ぶ。
この様子だと、あまり私のことは歓迎していない感じなのかもしれない。元々そんなに関わる予定は無かったけれど、迷惑をかけないようにしようと改めて思った。
「本当にそうなのよ。ここでの様子を見たり話を聞くとね、とても優しい子なのが分かるし、面倒見もよくて、周りを凄く気遣ってくれる。度胸があって少し頑固なところまでミモザにそっくり。子供は親を見て育つって言うけれど、本当に、ふふっ」
「あらあら、本当にミモザそのままじゃない。ふふふ」
奥様の言葉に母と二人で目を合わせ少し照れていると、どこからか“ぐすっ、ぐすっ"と変な音が聞こえた。
不思議に思い音の出所を探すと、正面に座っていた伯爵が号泣していた。それはもう、……凄く泣いていた。
「あらあらあら。もう〜、ついに我慢出来なくなっちゃったのね」
「ぐすっ、ミモザが、赤子を抱えて帰ってきて、きゅ、急に孤児院で働くって言い出して、ずずっ、家の籍まで抜けるって、ぅゔっ」
「そうね、悲しかったわね。全然頼ってくれなくて、支援も最低限でいいって言われてしまって。あなた何回も、こっそり様子を見に行ったものね」
「……お兄様」
「! そうだ! 私はお前の兄だ! それなのにっ、ぐすっ、普段は伯爵様なんて、他人行儀に……」
「そうね、寂しかったわね。私もお義姉様と呼んで欲しくて輿入れしたのに「え?」ほら、続けて。あなたの気持ち伝えましょう」
「……お前が、孤児院で、苦労しながらもしっかりやっているのは、知っていた。でも、こんなにしっかりとした子を、育てて……っ」
「そうね、嬉しいわね。こんな子なら喜んで家の子にしたいわね〜」
「……あなたたちも変わらないわね」
初めて見る男の大人の人の泣き顔に驚いていると、その涙をサンドラ様がハンカチで押さえながら相槌を打ち、母と奥様は呆れたように見ていた。
あんなに厳しい顔をしていた伯爵様、ブラーム様は泣くのを我慢していただけだったようだ。
最後には笑顔で、会えて良かったと、何かあればいつでも頼ってくれと言って帰って行った。
その際に母の子ならば呼び方は、叔父と叔母で構わないと言われたが流石に突然すぎて、せめて名前呼びにさせて貰った。
母も私の様子を見て安心したようで、奥様と、自身の兄夫婦と少し話して帰って行った。
今日の出来事は驚いたけれど、母の育った環境が少し分かって嬉しかったし、その輪に私も入れてくれたのがとても嬉しかった。




