19 - 運命の羽
色々ありつつも続くお茶会の中、シーラの話で気になる話題が二つ程あった。
まず一つ目は、この前も軽く言っていたが最近魔獣による被害が少し増えているというものだった。
それはこの辺りの話ではなく、領地を持つ貴族同士の話を少し聞いたのだという。
魔獣の被害は普段からそれなりにはある。
この辺り、王都周辺の森は神獣や聖獣がいるとされるためか、少し土地の魔力の質が違うのか、割と大人しめの魔獣が多い。
もちろん魔獣である以上、森やその付近で遭遇してしまえば襲われることもあるが、あまり積極的に人の生活圏へと現れることはない。
しかし、王都との距離に比例して危険度は上がり、辺境に至っては積極的に襲って来るという。なので群れを作らせないため、定期的に討伐隊を組み森へ入るのだとか。
そのため辺境までとはいかないまでも、それぞれ自分の家に仕える騎士や兵士が対処するようになっていたのだが、ここ最近、その頻度が増えた気がすると話すものが何人かいたようだ。
幸い、今のところ少し頻度が増えた気がするだけで今まで通り対処は出来ているのだが、そうした者たちが魔獣使いの在り方を少し考えつつあるらしい。
このままいけば、カースティ家の意見に賛同するものが増えてしまうのではないかとの事だった。
「そうなのね、実はうちの領でも魔獣に関する問題が少しあったみたいで……」
そうなのだ。
奥様が遅れているのはそのことについてだった。
詳しくはレティも聞かされていないようなので、少し心配なのだろう。
〈でも奥様が戻られるということは、それ程深刻でもないのでしょう? それとももう解決したとか〉
「そうなのかしら……?」
〈気になるのなら聞いてみたらどう? レティももう成人したのだし、聞けば教えてくれるかもしれないわよ?〉
「うん、そうね。そうするわ。確かに今まで私も遠慮して聞いてこなかったもの。お父様なら聞けば教えてくれるだろうし、ダメならダメでそう言ってくれそうだわ」
そして二つ目。私にかなり関係する話だった。
「そう言えば! 先輩方が話しているのを聞いたんですが、フェルセン子爵家とルンデバリ伯爵家が今、凄く熱いんですよ〜!」
〈熱い?〉
「なになに? 何かあったの?」
少し興奮気味に話し出すシーラと、話の雰囲気から何かを察したのか興味深々に少し前のめり気味になるレティ。
「それがですね、姉様の為に少し詳しく説明すると、フェルセン子爵家はお金持ちで有名なんですけど、そこの御子息様がルンデバリ伯爵家の御令嬢様に結婚の申し込みをしたらしくて!」
「まあっ!」
「しかもしかも、その時御令嬢様に送った品が、クツァールの羽を使った髪飾りだったんです!」
「それは素敵ね!」
どことなく心当たりのある品だが、二人がここまで興奮している訳が分からない。
高価な品らしいので、それでだろうか。
〈お金持ちは凄いわね〉
しかしどうやら違ったらしい。
なんだか残念なものを見るような視線を感じる。
「姉様はこういったことには、本っ当に、ご興味がない様ですね。いいですか、クツァールの羽は——」
シーラの説明によるとクツァールはその希少さと綺麗さからとても人気があるが、羽の入手はとても困難でほとんど運なのだという。
そもそも入手が困難なのは、希少性もあるが羽の特異性でもある。
それだけ人気なのだから、当然飼育を試みた者もいた。
しかし連れ帰った途端に死んでしまう。
何より、その羽は無理に抜くと忽ち輝きを失くしてしまい、とてもクツァールの羽とは呼べないものになってしまう。
どうやらあの鳥は北の森でしか生きられないらしく、魔力が原因なのかと研究している人もいるとか。
なので羽は、自然に抜け落ちたものを手に入れなけばならない。
そして不思議なことに、自然に抜けた羽の輝きは長い時が経っても変わることがない。
なので相手に想いを伝えたり、結婚の申し込みの際に羽や羽を使った装身具を渡すのは、“運命の出会い”“永遠の愛”を意味するのだとか。
運良く手に入れれば幸運が訪れると言われているが、無理に手に入れれば不運を運んでくる。
そのため運命の羽とも呼ばれており、一般人が持つには少し怖い羽だったりもする。
「この話は割と有名で、求婚の際にクツァールの羽を模した物を使ったりもします」
何ということか。
北の森に行けば恐らく、今の時期運命の羽はそれなりに落ちている。
そして私の手元にも少しある。幸運が訪れてくれるといいけれど……
「今回その羽がどうやら何処かの商会から買ったものだとの噂があり、もう一つくらいないかと、探りを入れている方が多いみたいですね」
私には面倒事という不運が舞い込んできそうだ。
カザルムさんは信用しているが、何処からどう漏れるか分からない。
貴族の情報網は凄そうなので余計に。
と、そこでカザルムさんに残りのお金を貰っていなかったことを思い出した。
受け取りに行く約束をしたものの、色々あり行けていない。
お金は別にいいのだが、今までお世話になっていながら挨拶もなくこちらに来てしまったことが気になった。
それにこれから納品が出来なくなることも伝えていない。
母から聞いたかもしれないが、私も一度直接しっかりとお礼などを伝えなければ。と、考えていたところに男性陣が戻って来た。
軽く水でも浴びたのか、鍛錬場に行っていた割に二人ともサッパリとしている。
「そろそろ城へ戻ろうと思うのだが、シーラ嬢はどうする?」
「えっ、あ、はい。では私もそろそろ失礼します」
「ならばまた一緒に乗って行くといい」
「あ……はい。お願いします……」
シーラの顔が少し死んだ。
「そうだわ。アルヴィン様少し待っててもらえますか、ユーリ様にお礼のお手紙を書くので」
「分かりました」
レティが手紙を書く間、暇だったのか話しかけられた。
「ここでの生活には慣れたか?」
〈そうですね、割と。でも皆さん良い人ばかりなので、いい職場に恵まれたと思います〉
「そうか」
笑ったのか僅かに目が細まった。
〈少しいいですか?〉
「外か?」
開いたガラス戸の方へと彼を誘導すると、庭の方からアイビーがゆっくりと現れた。
普段は見かけないので、何処にいるのか不思議なのだが、相変わらずアイビーには何処にいても私の言葉が届くらしい。
私の影からは出てこられないが、他の影からは案外自由に出入り出来るのかもしれない。
アイビーについてはまだまだ知らないことが多い。
そして呼びかけた私の目の前へとやってきて、こちらを見つめていた金色の瞳は隣へと移る。
「これは……」
私は少し見上げるのだが、彼は目線の高さが一緒のようだ。
交わる二つの金色になんだか嬉しくなる。
〈一度、アルヴィン様とアイビーを会わせてみたかったのです〉
「私と?」
〈はい。良く似ているので、仲良くなれるかなと思いまして〉
私の言葉にアイビーは鼻に皺を寄せると、撫でろと言うように擦り寄ってきた。
「どうやら嫌われてしまったらしい」
〈そんなことないと思いますけど……〉
首のあたりを撫でながら、若干眉の下がった彼とアイビーを見比べる。
〈同じ色でも、やはり少し違いますね。特に瞳はやはり人であるアルヴィン様の方が暖かみがあります〉
尻尾での攻撃を受けたが、痛く無い上にヤキモチだと分かるので微笑ましい。
アイビーのも大好きだと伝えると、喉がゴロゴロと鳴った。
「怖い、厳しそう、冷たいという言葉はよく聞くのだが……。暖かみがあるなんて初めて言われたな」
アルヴィン様はどういった反応をしていいか困った様子だったが、構わず続けた。
〈初めて会った時から思っていたのですが、まるで夜空に輝く月のようです。あなたとは、是非夜に会ってみたいです。月は暗闇でこそ映えますから、その瞳も更に綺麗に輝くのでしょうね〉
そう思っていたことを伝えると、彼は目を大きく見開き、何故か目元がうっすらと赤く染まったように見える。
どうしたのかと不思議に思い見ていると、突然後ろからフィリップに頭を軽く叩かれた。
「お前は〜、何を言ってるんだ、何を。まるで男が女を口説いてるみたいじゃないかよ」
〈え?〉
「夜に会いたいなんて、誘ってるみたいだろうが」
〈えぇ?〉
そんな風に思うのはフィリップくらいだろうと思ったが、シーラもレティも顔を赤くしてこちらを見ていた。
〈……機会があれば是非〉
「否定しないのかよ!」
〈冗談よ〉
長いため息をついているフィリップを横目に、アルヴィン様を見る。
目が合うと逸されてしまったが、怒ってはいないと思う。
曖昧に微笑んでレティの元へ行く。意図したことではないにしろ、流石に少し気まずい。
アイビーは尻尾でアルヴィン様を軽く叩くと、また庭の奥へと戻って行った。
そしてアルヴィン様もレティから手紙を預かり、シーラと共に城へと戻って行った。




