14 - 噂をすれば……
シーラから聞いたこの国の内情はとても衝撃的だった。
王家と神殿、オルブライト公爵家とカースティ公爵家、神獣と聖女。
どれも私には遠い話に思えて、とても近い。
レティは周りからの多少のやっかみはあれど、好きな人のもとに嫁ぎ、大変ながらも幸せな日々を過ごすのだろうと思っていた。
しかし実際はどうだろうか、問題の渦中に飛び込むような感じとは。優しい彼女の未来を案じた
それでも、私に出来る事など何もない。
何があってもレティの傍に付いていること、私にはそれくらいしか出来ることはない。
「ごめんなさい! 私何も考えずいろいろ話しちゃって。姉様のことを何も考えずに……。こんな話聞いたら色々と心配になって当然ですよね。でもまだ争いごとになると決まった訳じゃないのでっ」
〈大丈夫、少し考え事をしていただけだから。それに私そういった話は全く知らなくて、というか興味も無かったから、シーラの話は凄く有難かったわ。もう興味無いなんて言っていられない立場だものね。だからありがとう〉
少し考え込んでしまっていたらしく、シーラには誤解させてしまったが、教えて貰えて本当に良かった。
知っているのと知らないのとでは、何かあった時の対応が変わるから。
〈シーラは色々な話を聞いているみたいだけれど、危なくはないの?〉
「一応気をつけてます。あまりにも高位な方の話とか、結界や遮断の魔道具、風魔法の気配を感じたら流石に離れるようにはしてるので!」
気をつけている様だが何だか少し心配なので、今まで以上に注意して欲しいと伝えてこの話は取り敢えず終わった。
そして最初の内容に戻る。
〈さっきも少し聞いたけれど、シーラは魔獣が怖いのでしょう? 魔獣舎なんて付き添い嫌なんじゃない?〉
「あ、それは大丈夫です。襲われたーとかそういった話が怖いなってだけで、管理されている魔獣が危険なものじゃないのは知っているので。それに、たまに見かける愛玩魔獣などは可愛らしいものもいますし、怖さは種類によるって感じですかね〜。ちなみにここ数年、リナリア様の影響か、綺麗だったり可愛い感じの鳥型の契約獣を持ちたがるお嬢様方が多いみたいですよ」
例え綺麗で可愛いくとも、生き物である以上面倒や苦労もあるだろうし、お嬢様となるとアクセサリーのように飽きが来そうで少し怖いと思った。
〈シーラは持ちたいとは思わないの?〉
「うーん、やっぱり興味はありますけど私にはとても! 買うとなればそれはもう高いですし、面倒を見るのにもお金がかかりそうですからね〜」
魔獣は長命のものが多いため、稀に親から子へと受け継がれたりすることもあるようだが、基本的には専門の商人から購入する。
公爵家で保護しているものや、国で管理しているものとの契約も出来ないことはないが、こちらは審査が必要になる。
その点商人が扱うのは低位の魔獣が多く、たまに中位が混ざる程度。審査はほぼ必要なく購入可能だ。
しかし捕獲と契約も店側が行うためそれなりに高い。最近は軽く調教されているものも多いらしく、それもあるのかもしれない。
国で管理しているのは中位の魔獣が多く、もちろん魔法陣での契約だが、魔獣も騎士もしっかり管理しているのだから簡易契約でいいのではと、少し前から議論があるらしい。……それがきっとカースティ公爵率いる革新派だろう。
公爵家に務めるためエドラさんから魔獣との契約関係について沢山教わったが、よく思い出せばシーラに聞いたこともチラチラと出ていたかもしれない。
「私は今のままでいいと思うんですけどねぇ。あまりポンポン魔獣使いの人がいても少し怖いですし。そもそも彼処の部隊の人苦手なんですよね〜、なんだか最近みなさん少し攻撃的と言いますか……。そんなに戦力集めて戦争でもするのかーって感じですよね」
〈……〉
「はっ! 私ってばまた余計なことをっ! 誰も聞いてないですよね!?」
あたふたと周囲を確認するシーラだが、確かに私も嫌な予感を感じた。
——————
私が任された仕事はレバンの様子見だった。
それなりに人に慣れてきたレバンを見た公爵様が、今日の朝仕事に行く際に一緒に連れて行かれた。
いきなりここに移すのではなく、何度か連れて来ては様子を見るらしい。
今日がその一回目なのだが、レバンは少し気難しい性格のため、無理そうならばこのまま私が連れ帰る予定だった。
城内にあるここは戦闘ではなく、別の能力が秀でているものが集められているらしい。
公爵家にあるものよりも豪華で大きく、入り口付近には当然見張りの兵士がいた。
彼等の服はアルヴィン様とは違い茶色の上下で、上着の丈も普通に腰あたりまで。街中でも見かける見慣れた制服だった。
「あれ? シーラじゃないか。こんな所まで来て、今日は何の雑用だ〜?」
「雑用じゃありませんよ! 今日はしっかり、仕事を任されてここに来たんですから」
「なんか威張ってるぞ」
「また上手いこと言われただけじゃないのか〜?」
「威張ってても小さいから微妙だがな……」
「ちょっと! 最後誰ですか! 酷いじゃないですか!」
シーラは流石務めて長いだけあり、顔見知りも多いみたいだった。
それも随分可愛いがられているみたいで、とても気安いやり取りに少し驚いた。
「ん? なんだ、今日は一人じゃなかったのか」
「はっ! そうでした。私は仕事をしているんです! 此方、公爵家の方です。案内を頼まれましたので、お連れしました」
「これは失礼致しました。お話しは伺ってますので、どうぞお入り下さい」
シーラの説明に彼等の態度が変わる。
彼女に対しての気安い態度から一転、少しの警戒を覗かせた硬いものになる。
多少の居心地の悪さを感じつつも、頭を下げて横を通り過ぎ中へと入る。
案内は終わったが帰りのこともあるので、シーラは外で待っていてくれるらしい。
そして結論から言うと、レバンにはまだ早かったようだ。
私が中に入った途端、何処からともなく現れて近くにある木の枝に止まった。
そして少しして奥からボロボロになったここの職員だろう人も来て、なんだか申し訳なく思いながらも旦那様から預かった手紙を渡し、レバンを引き取ることが分かると凄くホッとした顔をされた。
屋敷から持ってきた少し厚めの手袋にレバンを留まらせて、胸の前に持ってきて歩く。
少し目立つ気もするが、自由に飛ばせる訳にもいかないので仕方がない。屋内に入る予定はないので、ギリギリ大丈夫だと思いたい。
「結構大きいですね〜。重くないんですか?」
〈意外と重くないのよ。軽い訳でもないけれど、見た目ほどって感じかしらね〉
「へぇ〜。……実はさっきからずっと気になっていたんですが、このこの瞳! 色味は少し違いますが、私とフィリップさんと同じ紫です! このキリッとした表情もとても美人さんです〜、頭も良さそう!」
このこの見た目はシーラの好みだったようで、隣から少し締まりのない顔をして覗き込んでいる。
そして今の言葉で珍しくレバンもシーラに好意を抱いたようだった。彼女は少し気位が高いので自分を立ててくれる相手がいいのかもしれない。
この二人(一人と一羽だが)、相性が良さそうだと思った。
〈シーラ、このこと契約できるんじゃないかしら〉
「え? えっ! えぇっ!?」
〈少し難しいこだけれど、シーラとは相性が良さそうだし。なによりお金もかからないわよ〉
「わあ、タダですか? ……って、いやいや! 私には勿体無いですよ!」
〈私たちはレバンって呼んでいるけれど、これは個体名だから、契約したらちゃんとした名前を付けてあげて〉
「あ、はい。分かりました! ……いやいやいやいや! ちょっと待って下さい、姉様私の話聞いてます?」
やっぱり簡単そうに見えて意外と流されない。
「えーっと、そもそも保護されているんですよね?」
〈レバンは珍しい種類みたいで、何処かの御子息がそこに惹かれて無理矢理契約しようとして失敗したらしいの。それで怒った御子息に処分されそうだったところを保護されたみたいで、人嫌い〉
「そんな、無理矢理しといて自分勝手です! そんなやつ嫌いになって当然ですね」
〈本当にね。このこは頭がいいから、仲良くなれば凄く頼りになると思うわ〉
鳥型の魔獣はやはりどれも飛ぶことに優れているため、手紙などを運んだりと連絡手段に使われることが多い。届け先は魔力を覚えさせるらしい。
急ぎの時など、街中で馬を走らせるよりも彼らを使った方がスムーズにいくため、貴族家ではだいたい一人は契約しているらしい。
そして中には魔法を使うものもいるため、いざという時なかなか役に立ったりもする。
そしてレバンは恐らく魔法が使える。
それも風魔法だと思うため、その辺もシーラとの相性は良さそうだった。
〈でもこれだけ薦めといてあれだけれど、契約には旦那様の許可がいるのよね〉
「そうですよね、それは当然だと思います」
〈でも、私はレバンが契約するならシーラがいいと思うの。このこも珍しく気を許しているし〉
そう、先程から隣から手を伸ばしたシーラに大人しく撫でられているのだ。
少し眠たそうにしているのがまた可愛い。
〈だから、シーラが契約してもいいと思うなら旦那様に相談してみようと思うのだけど、どう思う? 無理強いはしないから、はっきり言ってくれていいわ〉
「私は……そうですね、この美人さんが私を選んでくれるのなら喜んで契約させて頂きます! あ、契約は許可が降りればでしたね。是非公爵様によろしくお願いします」
頭を下げるシーラに、今まで眠そうにしていたレバンが鳴きながら少し羽をバタつかせる。
喜んでいるらしい。
「わぁ! 喜んでくれてるんですか? 私も嬉しいです〜! 瞳もお揃いの紫ですし、紫がもっと好きになりますね!」
シーラを見ていたら私もなんだかアイビーに会いたくなってきた。
嫌な事があった時、森へ行くと金色の瞳はいつも私を暖かく迎えてくれた。
そういえば、彼の瞳も金色だった。
〈金色の瞳って、やっぱり珍しいのよね?〉
「金色ですか? あー、マスグレイヴ様ですね。珍しいと思います、私も他では見たことないので」
〈凄く綺麗よね、髪色と相まって夜の月みたい。彼自身の雰囲気も、なんだか夜に合うし〉
「そう言われると確かにそうですが、大半の方は少し恐く感じるみたいです。そう言う私も少し苦手だったりします」
そう言って苦笑いするシーラに少し驚く。
〈意外と苦手なものもあるのね〉
「えぇ!? なんですかそれ! 私はか弱い田舎娘ですから、苦手なものだらけですよ〜!」
なかなか強かで逞しいと思うのだが、本人がそう言うのならそういうことにしておこう。
〈それにしても、やっぱり恐く感じる人は多いの?〉
「お顔立ちはとても綺麗な方ですから、密かに人気はあるんですけど……無表情だからですかね? 綺麗な人の真顔は迫力があるというか……それによく怒っているイメージがあります」
〈優しい人なのに勿体無いわね。たまに覗く八重歯とか、ずっと見ていると目が泳いだりするところとか、凄く可愛らしいのに〉
「……あの方を可愛らしいなんて言う人初めて見ました。そもそもずっと見てるって……私には無理です。目が合った瞬間食べられそうです」
隣を見ると顔色を失くしたシーラがいた。
食べられるなんて、それこそアイビーじゃあるまいしと、彼女の顔を見てると可笑しくなってきた。
〈ふふっ。フィリップと仲がいいみたいで楽しそうにしてたわよ? それに食べられるって……ふふ〉
「なんだか草食動物の気持ちが分かるっていうか……いえ、自分で言っておいて少し恥ずかしくなってきました……。ホント改めてあの方と普通に話せる姉様凄いです。先輩たちも話してました」
〈あー、それで嫌われたのね〉
「嫌われてはないと思いますけど」
良く思われてなさそうだとは思っていたけれど、理由はそこにもあったとは。
苦笑いのシーラのフォローも少し頼りない。
〈まあ、気にならないから別にいいけれどね〉
「姉様かっこいいです〜!」
そう話しながら進んでいると、角からアルヴィン様が現れた。




