↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/46

13 - 王家と神殿

 

 

 

 先ほどから、シーラの様子が何処か可笑しい。

 

 

 一応案内係としてしっかり歩いてくれているのだが、何処かそわそわしていて、何か言いたげにこちらをチラチラと見ている。

 さすがに気になるので聞こうとすると——

 

「よしっ! あの、カミールさん! 私、私の、……姉になってくれませんか!?」

 

 意味不明なお願いをされた。

 

「はぅ! 間違えたっ! あの、えっと、お姉様と、呼ばせて貰っても、いいでしょうか……?」

 

 言い直してくれたのだが、あまり変わって無いような気もする。それに自分で言いながら恥ずかしくなったのか声はだんだん小さくなり、最後はほとんど囁き声だった。

 しかし、赤くなった顔を隠そうともせずに真っ直ぐこちらを見つめる目は真剣で、期待の中に少しの寂しさが垣間見えた。

 

「私、ここへ働きに来る前はお城での仕事って華やかで、キラキラした物や人に囲まれた素敵な仕事なんだろうな〜って思ってました。でも、実際は全く違うんですよね。貴族って怖いと思いましたし、それ以上に女って恐ろしいって思いました。もちろん全員がそうとは言いませんが、すっごく疲れます。現実は甘くないって知りました。はぁ〜」

 

 遠い目をして語る彼女に、大丈夫?などと野暮なことは聞けない。

 

「でも、カミールさんはそんな人たちとは違うと思ったんです! 最初は、フィリップさんとも仲が良さそうなのをみて下心満載だったんですけど、嘘が無いあなたの近くは居心地がいい。それに、凄く優しい人な気がする。私の勘は当たるんです! だから……あ! 私よく雑用で城(ここ)を歩き回ってるので色々な情報持ってますし、持ってこれます! きっと役に立ちますよ! ……ダメでしょうか?」

 

 私に嘘が無いと言うが、彼女も随分と正直に見える。まさかフィリップが目当てで近づいて来ていたとは思わなかった。

 またもや前のめり気味に話しかけてくる彼女に、少し距離を取りながら落ち着くように両肩を軽くたたく。

 

〈そんなに売り込んでこなくても、仲良くしたいと思ってくれるのは嬉しいわ〉

「それでは!」

〈でも、何故友人でなくて姉なの?〉

 

 そう、何故フィリップといいこの子といい、人のことを兄や姉だのと呼びたがるのか……。

 

「あ、えと、ただ私が姉という存在に憧れているだけで……。さっき頭を撫でられた時に、雑用を押し付けてくるような姉ではなく、こんな優しい姉がいたらな〜と思いまして。後は、その、フィリップさんのマネといいますか…その……モニョモニョ」

 

 城(ここ)での仕事は随分苦労しているようだ。

 それでも何らかの情報を集めたりしているあたり、しっかりしているというか、ちゃっかりしているというか、転んでもただでは起きない子なのだろう。

 フィリップのマネというのもなんだか可愛らしい。

 

〈私はそんな褒められた人間じゃないわよ? 後、お姉様呼びは少し変えて欲しいかも〉

「では、姉(ねね)様で! 私が実家でそう呼ばれてましたので! あ、私のことはシーラと気軽に呼んで下さい!」

〈……分かったわ。よろしく、シーラ〉

 

 様を止めて欲しかったのだが、通じなかったようだ。思わず苦笑いが零れるが、そこは諦めて嬉しそうなシーラの頭を撫でる。

 

「これからの楽しみが一つ増えました。城(ここ)に来た時には、少しでいいのでまたお話して下さいね!」

〈手紙を書いてくれたりはしないの?〉

「いいんですか!? たくさん書きますー!」

 

 シーラは此処での仕事があるし、私も基本ずっと公爵家でレティに付いている。

 今日みたいなことが無ければなかなか会えないけれど、手紙のやりとりくらいは出来る。

 

 私にはそこまで親しい相手が居なかったので、これまで手紙というものを書いたことがない。

 以前は院を出た姉や兄がたまに手紙をくれていたが、それは院に届く物なのでみんなで読み、みんなで返事を書いた。

 手紙を出すのにもなかなかお金がかかるので、個人で出すことはなかった。

 

 しかし少し前、レティが可愛らしい便箋をくれたので、せっかくなので書いてみようかと思っていた。

 お金も今は余裕があるし、少し憧れていたのもある。

 

 シーラは手紙でも賑やかそうだな、などと考えて今から楽しみになった。

 

 

 

 流石に魔獣がいる場所なのでそれなりの距離があるらしく、せっかくなら着くまで話を聞いてみることにした。

 

〈シーラは魔獣ってどう思う?〉

「魔獣ですか? 話を聞く限りはやっぱり怖いんだろうなって思います。後は頭がいい、とかですかね。……はっ! もしかして派閥の確認ですか!? 大丈夫です! 私は勿論、保守派ですので!」

〈保守派?〉

「あれ? 派閥確認じゃなかったんですか?」

 

 詳しく聞いてみると今この王都では、魔獣を巡っての派閥による少し面倒なことが起こっているらしい。

 

 元々はオルブライト公爵家と、及ばないまでもそれなりの魔獣使いを排出して来たカースティ公爵家による、魔獣の在り方を巡っての意見の相違が始まりだった。

 今まで通り契約魔法陣を使用しての安全な魔獣の管理を是とするオルブライト家は保守派。それに対し、近頃増えつつある魔獣の被害に備えるためにも魔獣使いの数を揃えるべきと、誰でも簡単に出来る契約魔法を是とするカースティ家は革新派と言われるようになった。

 そして貴族たちは何方《どちら》かに付く者、傍観する者に分かれた。

 両派閥は確かに対立していたが、今まで小さな諍《いさか》いはあれど特に大きな問題は無かった。

 

 ところが、最近その亀裂が大きくなる事が起きてしまった。

 

 恐らくの発端はレティと殿下の婚約にある。

 有名どころでは保守派にはオルブライト公爵家とマスグレイヴ侯爵家、彼の息子たちの在籍する近衛部隊。革新派にはカースティ公爵家と彼の息子が所属する魔獣使いの部隊、その部隊長であるフェルト侯爵家。という具合にそれなりに上手くバランスが取れていたのだが、レティが婚約者になったことにより、王家も保守派だと噂されるようになった。

 

 それというのも婚約者候補にはカースティ公爵の一人娘もいたためだ。王家が手をとったのは犬猿の仲のオルブライト公爵家。

 カースティ公爵の怒りは凄まじいものだったそうだ。

 

 そして最近、彼にはあまり良くない噂がある。

 

 

 この国には政治にはあまり関与して来ないものの、それなりの力を持つものがある。

 神殿だ。

 神獣様を祀るためこの国の始まりから存在し、今では国内の至る所に神殿はある。

 聖女が現れ、そしてそれに応えるように力を使った神獣。実際にあった話のため民衆からの信仰や支持が厚く、王位を継がない王族が代々そのトップについてきた。

 しかし神殿側は表に出ることはなく、裏方でのサポートに回ることで今まで上手くやってきていた。

 

 その神殿とカースティ公爵が繋がり、最近何やら良く会っているらしい。

 そしてやたらと国政について神殿側が意見をしてくるようになった。

 今まで影ながら国を支えてきた神殿が表に出てきて、最近は王家の求心力も落ちてきていることもあり、政治バランスがひっくり返るのではないかと、そしてカースティ公爵は王家を見限り神殿側に付いたのではないか、と言われているようだ。

 

 

「末端の一兵士などには流石に伝わってないようですが、各派閥に付いていたそれなりの権力者たちの間ではやはり大きな問題らしく、最近の城内は今までにない程ピリピリしてます。殿下もこれから、忙しくなるのではないでしょうか」

 

 何やらとてつもなく面倒くさいことが起こっているようだ。

 事の次第では、少なからずレティも巻き込まれるだろう。

 こうなってくると最初はあまり気にしていなかったが、シーラの情報はかなりありがたい。

 どこでそんな情報を集めてくるのか気になるが。

 

「私はただ掃除をしているだけですよ。彼等が私の近くで話すのです。周りを気にしてますが、ただの小娘は気にならないようで小声で話出すのです。だから私は少し得意な風魔法を使って傍聴しているだけです」

 

 そう言って笑うシーラに、呆れると同時に笑ってしまった。堂々とした盗み聞きの手口だった。

 

「後は先輩方の会話とか、結構聞いてると役に立ちます。侍女同士、メイド同士、横の繋がりは結構あるので、色々お家事情などもよく分かります。主に男女の話が多いですけどね〜、お話しますか?」

 

 あまりいい話では無さそうだったので今回は遠慮することにした。

 

〈それにしても、今まで上手くやってきてたのに何故神殿は今更王家と対立しようとしているのかしら?〉

「どうやら最近神殿長様の代替わりがあったらしくて、新しい方が少し今までの方と考えが違うみたいです。……私も聞いただけなのでよく分からないですけど、よく周りにこう言っているそうですよ。————と……」

〈どういう意味?〉

「分かりません。ただ、カースティ公爵の御息女であるリナリア様は聖女様の生まれ変わりだと言われているので、もしかしたらそれも関係あるのかもしれません」

〈生まれ変わり? 聖女の?〉

 

 この言葉を聞いた時、何故か心臓が大きく音を立てた気がした。

 

「はい。金色の髪に紅い瞳、古い文献にある聖女様と同じ容姿らしく、治癒魔法もとてもお得意で。さらに、神獣様には及びませんが美しい白色の鳥型魔獣と契約しているそうです。公爵家は過去何度か王家から姫が降嫁してますし、先祖返りもしくは生まれ変わりではないか、と」

 

 確かに話を聞く限り、そう考えるのも不思議ではない気がする。

 リナリア・カースティ。

 少し本人を見てみたいと思った。

 

 

 

 そして神殿長が言っていたという言葉に、いずれ何かが起こりそうな嫌な予感がした。

 

 

 

 

 

 

 

 “加護こそが正当なる血筋の証である”

 

 

 

 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。