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週末勇者とひも付き魔王様 ~前世で殺し合った相手と世界を救うことになった件~  作者: 浦賀やまみち
第二章 週末異世界旅行

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第09話 勇者のお値段




「お前……。金、取るの?」



 また石畳が微かに揺れた。


 城門での戦乱は、さらに激しさを増している。

 ここまで届く雄叫びや怒号、悲鳴の数も、明らかに増えていた。



「当然でしょ?」



 騒がしさをよそに、名香は肩をすくめるようにして、あっさりと言った。

 彼女は一度、軽く息を吐く。



「だって、いきなり拉致されたんだよ?

 それも、自分とは無縁の世界にさ」


「……で、『勇者』って煽てられて、命を賭ける?」



 名香は右手を横に振った。



「ないない。あり得ないよ。

 命を賭ける理由がないんだもん」

「……だな」



 俺はゆっくりと頷いた。


 何かが崩れる轟音が響いてくる。

 神官たちの顔が青ざめ、そのうちの一人は尻もちをついていた。



「まあ、死んだところで勝手に蘇生するけど……。」


「あれ、すごい痛いし、苦しいんだよね」


「……とはいえ、最初の頃は使命感に燃えてやったけどさ」



 名香は西の城門へと顔を向けた。


 だが、その苦笑いを浮かべる視線は、わずかに上を向いている。

 どこか、遠いものを見るような目だった。



「でも、国守君も前世で言ってたじゃない?

 強い力は畏怖を呼ぶって……。覚えている?」

「当然だ」



 それは覚えるまでもなく、胸に刻んだ持論だった。

 だからこそ、俺は幾度も世界を支配する上で、その畏怖を利用した。


 俺を『魔王』と最初に呼んだのは愚民たちだ。

 俺は効率のいい支配手段として、『魔王』になった。



「世界を救った途端、後ろからブスリッ! ……は、もう懲り懲り」



 名香は肩をすくめた。



「……お前も、苦労したんだな」

「ああいうのは、痛みより心に『くる』よね……。」

「……まあな」



 俺は肩を震わせ、静かに笑った。

 俺自身も、魔王となる以前に裏切りを何度か経験している。



「だからね。対価を得たほうが健全なんだよ。

 その方がスポンサーも気兼ねがなくなるし、こっちにも注文が出せるようになるしさ」

「一理ある」



 返した言葉とは裏腹に、内心では深く頷いていた。


 無償の愛、絶対の忠誠、果てない信仰ほど、恐ろしいものはない。

 それが熱く、深く、高いほど、人は勝手に期待し、勝手に裏切られたと嘆く。



「それに、この世界の脅威度にもよるけど……。

 下手したら、何年も滞在することになるんだから、生活費は必要でしょ?」


「世界を救うために戦っているのに、生活費を心配しなくちゃいけないなんて、変じゃん」



 考えさせられる言葉だった。


 勇者が現れたと知れば、花を愛でるように、その活躍を聞いては楽しんでいた。

 だが、その日常の事情など、これまで一度も考えたことはなかった。


 俺が殺し、殺された勇者たちは、満足に至っていたのだろうか。



「あとどうせなら、最高の環境で暮らすのが当然だよ。

 最前線で戦うんだからね。ひもじかったら士気に関わるよ」

「理解できる」



 腕を組み、今度は深く頷いた。


 戦いにおいて、兵站は最も重要な要素だ。

 そこを満足させるのが支配者の務めであり、満足させられない者は支配者とは言えない。



「それに、戦った結果で街が壊れたり畑が荒れたりして、文句を言われても困るんだよね」

「そんなやつがいたのか?」



 ふと神官たちを見ると、幾人かが視線を伏せていた。


 大方、勇者という存在を便利な道具くらいに考えていたのだろう。

 そこに現実を突きつけられ、良心が咎めていると見た。


 思わず腹を押さえ、吹き出しそうになる。



「居たんだよ……。

 その王様、魔王を倒せって言いながら、渡したのが当日の宿代だけ。しかも安宿ね」

「度し難いな」



 しかし、名香に上手く利用された感は否めない。

 これで、この場にいる者たちは報酬を支払わざるを得なくなったが、少し癪だった。



「それが、初めての集団転移だったよ。

 勇者が大勢いたから面倒を見きれないってのは分かるけど、さすがに酷いよね」

「そんなもの、王ではない」



 だが、寛大な心で許してやるとする。

 なぜなら、その報酬は、今後の俺の生活費でもあるからだ。



「まあ、世界を救ったらどうせいなくなるんだから、必要以上は要らないけどさ。

 せめて必要経費くらいは認めてほしいよね」

「ふっ……。そうだな」



 一呼吸の間を置き、名香は肩を軽く揺らした。



「さて、王様?

 松コース、竹コース、梅コースとあるけど、どれにする?」



 その視線が王へ向けられると、王は肩をビクッと震わせた。

 一方、俺は膝の力がカクンと抜けた。


 ネーミングセンスが悪すぎる。

 この俺を感心させたというのに、この女はやっぱり駄目だ。


 そもそも、『松竹梅』の評価は日本人以外には通じない。

 いや、俺たちのような若い世代でも、知らない可能性はある。



「……最高はどれなのですか?」



 案の定、王は困惑した。

 それでも、最高を求めるあたり、王として及第点は与えられる。



「おお、豪気!

 じゃあ、スーパーデラックス松コースをいっちゃう?

 国家予算くらい、軽く吹き飛ぶけどね」

「支払います!」



 王の声が、即座に響いた。



「本当にいいの? 神を介した契約だよ?

 私がいなくなっても、縛られるよ?」

「どうせ、このままでも国は滅ぶのです!

 子々孫々に至るまでかかろうと、必ずお支払いします!」



 名香は満足げに目を細め、微笑んだ。



「その言葉が聞きたかった……。」



 手本のようなドヤ顔だった。

 俺はこらえきれず、腹を抱えて肩を震わせる。



「くっくっ……。勇者というよりは、傭兵だな」

「あっ!? ぴったりかも!」



 名香は柏手を打ち、人差し指を立てた。

 その仕草は、どこか楽しんでいる者のそれだった。





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