表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
週末勇者とひも付き魔王様 ~前世で殺し合った相手と世界を救うことになった件~  作者: 浦賀やまみち
第二章 週末異世界旅行

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/19

第08話 何でもするなら




「おおっ! 伝説は本当だった!」



 石畳の足下。

 視線の先には、石造りの『神殿』と呼べる建物がそびえていた。


 祈りを捧げていたらしい神官たちが、俺と名香を中心に据え、円環を成すように取り囲んでいる。

 喜びの声をあげたのは、その向こう側にいる王冠を被った中年の男だった。



「どうやら、俺とお前の二人だけのようだな」

「一安心だね」



 一見して、俺がよく知る文明レベル。


 地球の時代区分でいう『中世』程度の文明のようだ。

 着ている服の生地に化学繊維らしさはなく、細部まで手作業で仕立てられているのが見て取れる。



「勇者様、お願いにございます!

 世界をっ、どうか世界を救ってください!」



 王冠の男が、神官たちの円を割るように駆けてきた。

 俺と名香の前で膝を折り、胸の前で組んだ両手を震わせる。


 この国の王で、間違いないだろう。

 愚かとしか言いようがない。


 事態がどれほど切迫していようと、王のとる態度ではない。

 もし、俺か名香が敵意を持っていたなら、どうするつもりだったのか。



「ほう……。」



 だが、それがこの愚者の魅力なのだろう。


 愚者に侍っていた壮年の騎士が、すぐさま腰の剣に手を置いた。

 主の背後まで駆けると、いつでも剣を抜けるように腰を落とし、警戒の姿勢を取る。


 殺気をわずかに帯びた俺の眼差しを受けても、なお動じない。


 手練れではあるが、猛者ではない。

 俺なら、死を感じさせる間もなく容易く殺せる。



「くっくっくっ……。」



 それを騎士も理解しているのだろう。

 眉間には皺が刻まれ、額に汗が滲み始めていた。


 死を覚悟しながらも、なお王を守ろうとする忠誠。


 実に美しい。

 その在り方は嫌いではない。



「おい、話くらい聞いてやったらどうだ?」



 俺は名香に苦笑を向けた。

 だが、名香は愚者を見てすらいなかった。



「見て、あれ」

「あん?」



 名香が指差す先へと、視線を向ける。

 召喚された直後から、戦乱の音は絶えず微かに届いていた。


 小高い丘の上に建つ神殿から見下ろすと、街は遠くまで広がっている。

 その街を囲む城壁の一角で、轟音と共に巨大な土埃が立ち上った。


 やや間を置き、揺れがここまで微かに届く。



「に、西の城門が!」

「ば、馬鹿な!」

「あ、あそこは最も堅牢なのだぞ!」

「も、モンスターどもが……。」

「お、押し寄せてくる!」



 神官らの間に動揺が走り、ざわめきが広がっていく。


 ようやく合点がいった。


 勇者召喚という大儀式を行ったにしては、人の数が明らかに少ない。

 勇者を一目見ようとする連中がいてもいいはずだ。



「も、もう、駄目だ!」

「ひぃっ!?」

「馬鹿! どこに逃げるというのだ!」

「……逃げ場など!」

「ああっ……。神よ!」



 しかし、その余裕がない。


 街の規模からいって、ここは国の首都だ。

 神殿から離れた場所には、宮殿と呼べる城もある。


 戦うか、逃げるか。

 それとも、諦めるか。


 ここにいない者たちは、そのいずれかを選んだのだろう。

 つまり、ここがこの国の最後の砦なのだ。



「勇者様、お願いです! 世界を救ってください!

 そのためなら、何でもします! この命が欲しいというのなら、差し上げます!」



 愚者が額を付け、土下座をした。

 少し悩み、騎士もそれに倣う。


 滑稽だった。


 勇者召喚には、神が関わっている。

 なぜ、それこそが神の悪辣さだと気づかないのか。


 この追い詰められた最悪のタイミングすら、神の思惑の内なのだろう。

 ここで救世を得れば、それは信仰心となり、神の力になるからだ。



「んっ!? 今、何でもするって言った?」



 俺が舌打ちするよりも早く、名香が声を弾ませた。



「はい! 私にできることでしたら、何でも!」



 愚者が顔を勢いよく上げた。

 その表情は輝き、涙と鼻水で濡れている。



「話が早いね。世界を救ってあげる」

「おおっ!?」



 安請け合いとも言える名香の軽さ。

 愚者との温度差が、あまりにも大きい。


 俺は眉を寄せる。


 転移直前とは様子が違う。

 勇者業にうんざりしていたはずの態度とは、どこか噛み合っていない。



「じゃあ、早速だけど、いくら貰える?」

「……えっ!?」



 すると、名香はにんまりと笑みを浮かべた。



「これだよ、これ。……お・か・ね」



 おまけに、胸の前で親指と人差し指で輪を作ってみせる。


 俺の知っている勇者たちは、いつも高潔な存在だった。

 だが、目の前の勇者はどう見ても俗物だった。


 俺を打ち倒した、あの気高さはどこへいったのか。



「お前……。金、取るの?」



 たまらず、俺は顔を引きつらせた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ