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週末勇者とひも付き魔王様 ~前世で殺し合った相手と世界を救うことになった件~  作者: 浦賀やまみち
第二章 週末異世界旅行

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第07話 もしもに備えて




「ふぅ……。」



 もはや、抵抗は無意味と悟り、身を任せる。


 自分自身は一歩も動いていない。


 だが、上っているのか、落ちているのか、

 それとも、押されているのか、引っ張られているのか。


 判別すらつかない。

 それでも、俺と名香は、どこかへ運ばれていた。



「あーあ……。この服、一番のお気に入りなんだけどなー」



 隣の名香といえば、暢気なものだった。


 白いトップスに、ラベンダー色の薄いカーディガン。

 淡いピンクのミニスカートが、魔力の奔流に圧され、裾をふわりと揺らしている。


 どう見ても、世界を救いに行く装いではない。



「こんなことになるのなら、『世界征服』のほうを選ぶべきだったな」



 その点で言えば、俺もそうだ。


 白いTシャツに、緩めの黒いボトム。

 胸には、極太明朝で『爆撃開始』と書かれている。


 今朝、母親に『着飾れ』と言われて選んだのだが、なぜか呆れられた。

 名香も出会い頭に目を丸くし、何とも言えない顔をしていた。


 解せぬ。


 Tシャツの裾を摘んで引っ張る。

 その完璧過ぎるデザインを眺めていると、白い目を向けられた。



「……もしかしてさ、そういうTシャツをいっぱい持ってるの?」

「ふっ……。この国の職人は優秀だ」

「来週、服買いに行こっか」



 鼻で笑い飛ばす。


 だが、名香の提案は受け入れてもいい。

 今日、買おうか悩んだ末に見送った『色即是空』のTシャツが、どうにも気になる。


 来週まで残っているか、それが少し心配だ。



「それより、お前。

 週末ごとに、こんなことを繰り返しているのか?」



 しかし、今気にするべきはそこじゃない。

 神社の御由緒が正しいなら、名香は週末ごとに世界を救っていることになる。


 達観した様子と、この光の中に飛ぶ直前に垣間見せた哀愁。

 俺を殺したあの前世でさえ、幾度も繰り返した末に辿り着いたものだったのだと察した。



「うん。もう何回目だっけなー?」



 名香は、力なく曖昧に笑った。



「前の世界で、お前の名が耳に届いてから、三年だ。

 玉座の前に現れるまでな」



 俺は視線を外さずに告げる。

 あのときの痛みと、剣が届いた瞬間の重みを思い出しながら。



「国守君の支配……。

 私が経験した中でも、かなり上位だったよ。ちょっと苦労したかな」



 名香は少しだけ目を細めた。

 懐かしむような、それでいて遠くを見るような視線。



「お前……。見た目通りの年齢じゃないな?」

「もーーーっ! デリカシーがないの、国守君の悪いところだよ?」



 だが、新たな疑問が浮かぶ。


 俺の容姿は母親似で、どちらかといえば女顔だ。

 前世の俺とは、大きく違う。


 なぜ名香は、俺と前世の俺を結びつけられたのか。



「あっ!? もうすぐだから、もしもに備えて」

「もしも?」



 名香の声が、わずかに緊張を帯びる。

 浮かんだ疑問は飲み込むしかない。


 世界を救いに行くのだ。平和ボケした日本とは違う。

 俺は七度の魔王を経験する以前から、幾つもの前世を重ねてきたが、こんな状況は初めてだ。


 ならば、先達の経験に従うべきだ。



「たまにあるんだよね。

 こっちを勝手に呼び出しておきながら、剣を向けてきたりさ」



 名香は肩をすくめ、軽く息を吐いた。



「なるほど。格を見せつけ、従わせるつもりか」



 俺は腕を組み、鼻で笑う。



「もっと厄介なのはね、私たち以外にも呼ばれてる人がいるパターン」

「そんなのもあるのか?」



 興味を引かれる。

 俺の知る限りの前世では、勇者と呼ばれる者は常に一人だった。



「特に、いわゆる『集団転移』は面倒くさい。

 大抵は厄介事に巻き込まれるから、即撤退ね」



 慣れた口調で言い切る名香に、先ほどとは質の違う緊張が走る。



「分かった」



 短く頷く。



「もし、そうだったら、観光を楽しも!」



 その矢先、ぱっと表情を明るくし、名香が笑った。



「……は?」



 間の抜けた声が漏れる。



「あっ!? 見えた! 到着するよ!」



 名香が足下を指差す。

 光の奔流の中に、石畳の輪郭が浮かび、次第に足場として形を成していく。





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