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週末勇者とひも付き魔王様 ~前世で殺し合った相手と世界を救うことになった件~  作者: 浦賀やまみち
第五章 曇天の邂逅

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第42話 宴の果てに




「だるまさんが転んだ!

 だるまさんが転んだ!

 だぁ~るまさんが転んだっ!」



 陽は沈み、頭上は満天の星空。

 鍋奉行ならぬ、金網奉行と化したボリス。


 仁王立ちし、ひとつひとつの焼き色を、まるで戦況でも読むかのように見極める。

 焦げ目のついた瞬間、迷いなくトングが走り、具材が裏返されてゆく。



「かんぱぁーーい!」

「かんぱぁーーい!」



 寄せては返す波の音に混じって、もう何度目かわからない歓声が上がる。


 プルタブを開ける音が次々と重なり、炭酸の泡が夜気に散る。

 戦いの余韻をそのまま持ち寄ったような喧騒が、そこにはあった。


 戦勝会だ。



「お嬢、焼けたぞ! 肉だ! 肉!

 野菜ばっかり食ってないで、肉を食え!」

「……肉、嫌い」



 俺的には、邪魔が入った時点で勝負は壊れた。

 あれは負けに等しい。


 あの女は退けた。帰還者も確保した。

 その『結果』だけを切り取り、帰還者対策室は大勝利と謳った。



「ヒデ、ヒデ、ヒデ!」

「あん?」

「にゃーん! 

 どうどう、可愛い? 猫耳、着けてみたよ!」 

「ウマな娘を無礼るなよ。……失せろ」

「ていっ!」

「ぐえっ!?」



 聞けば、あの女にはこれまで何度も苦渋を舐めさせられていたらしい。

 今、世界の一部地域で続く戦争も、あの女の暗躍が絡み、なお止められずにいるという。


 その影響は、世界中に波及している。

 それだけに、今回の『大勝利』は希望とすら言えた。


 ならば、その程度の歓びを邪魔するのは無粋だろう。

 俺はその『大勝利』を受け入れた。



「おっ!? 国守の兄貴も、ウマな娘をやってるんすか?」

「ほう……。お前もか。どれ、見せてみろ」

「これっす、これ! あたしのID!」

「なにっ……。き、貴様が俺のサークルリーダーだとっ!?」

「えっ!? マジすか!」



 当初、戦勝会の参加者は参戦者だけだった。

 それが次第に全国から人が集まり、この大所帯へと膨れ上がっていった。


 北は北海道から海の幸が届き、南は沖縄からアグー豚が丸ごと持ち込まれる。

 帰還者対策室の面々は、いつの間にかその中心で宴を仕切っていた。



「はっはっはっ! ヒデ、飲んでるか!」

「父さん、飲みすぎだ……。」

「いいじゃないか! めでたいんだし!」

「だったら、あいつらも何とかしてやれ」

「ああ……。まあ、そうだな。うーーーん……。」



 おかげで、門から現れた新たな帰還者たちは、すっかり影が薄い。


 バーベキュー会場の隅で固まり、黙々と食べて、飲む。

 笑い声の輪には入れず、ただ場違いなまま取り残されていた。


 だが、それも当然といえる。


 あいつらは、つい先ほどまで異世界で魔王と戦い、勝利したばかりだ。

 ようやく故郷に帰れると喜びに浸っていたところへ、それ以上にはしゃぐ連中を見せつけられれば、戸惑いもする。



「ねえ、ヒデ」

「今度は何だ?」

「ほら、あの子ってさ……。」

「お前、今更気づいたのか? 冷たいやつだ」



 そして、その帰還者たちに、俺は見覚えがあった。


 夏休み前に渡った異世界。

 人間同士の戦争が三十年続く裏で、最大宗教が闇に堕ちた世界。

 柚葉との勇者業で、過去最長となる二十六年を費やすことになった世界。


 そこに召喚された勇者たちと、その血を引く、息子や娘たちだ。



「えっ!? だって、あんなに暗かった?」

「お前の前では、陽気に振る舞っていただけだ」

「そうなんだ? ちょっと行ってくる」

「馬鹿、止せ」

「どうして?」



 相変わらず、神というものは悪辣というしかない。


 勇者同士で結ばれた者たちはいい。


 だが、異世界の者と結ばれた者は、引き離された。

 会いたいと願っても、もう二度と会えない。


 さらに、異世界で死んだ者は、その当時の姿を保っている。

 生き続けたパートナーは年齢を重ね、子が自分より年上の者もいる。


 今後、まともな関係でいられるはずがない。



「今は、母親が生きているんだ。

 お前が出ていけば、あの女の立場がないだろ?」

「……そっか」

「他人のふりをしろ」



 その内の一人に、俺と柚葉は強い縁があった。


 ある女勇者が、吸血鬼の男と恋に落ち、子を産んだ。

 だが裏切り者の烙印を押され、二人は滅ぼされた。


 その子は、人間にも魔族にも受け入れられず、排斥された。


 俺と柚葉は、子どもに恵まれていない。

 止めろと強く言ったが、柚葉は聞かず、その子を拾って育てた。



「あっ!? こっちに来た! どうしよう!」

「知らん」



 やるからには、厳しく育てた。

 勇者と吸血鬼の血は、十分すぎる素質だった。


 柚葉やラヴィニアには遠く及ばない。

 ボリスくらいは強くなった。


 二世代目の勇者たちの中では、最も可愛く、最も強いと思っている。

 どこへ出しても恥ずかしくない勇者だ。



「ち、父上! ま、また会えて、嬉しいです!」



 一度は今生の別れを交わした娘が、涙をこぼしながら駆け寄り、縋るように抱きついてきた。



「……愚か者が」

「あれ? お母さんには何もなし?」



 俺は大きく息を吐き、その頭を撫でる。

 隣では柚葉が両手を広げたまま、取り残されていた。





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