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週末勇者とひも付き魔王様 ~前世で殺し合った相手と世界を救うことになった件~  作者: 浦賀やまみち
幕間

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第43話 倫理は推しに従う




「あの男……。何者だ?」



 急遽、開かれた暗闇の会議。


 玉座の前。

 足元からの光に照らされる影は、五つ。


 本来は六つあるはずの影のうち、一つが欠けていた。

 レッドは集中治療室に搬送され、この場にはいない。



「……ヴァレンテスクの妹もだ。

 あれは、ただの病弱な小娘だったはずだが」

「そして、名香の娘……。

 レッド相手に遊んでいたわね」

「……そうよ。レッドの方はどうなの?」

「外傷については、完治した」

「だが……。魔力は枯渇している。

 当分はベッドから動けないだろうな」



 交わされる五人の言葉を耳にしながら、私はスマホを操作していた。


 今度、情報部の者たちを褒めてやろう。

 国守くんの勇姿が、見事に録れている。


 特に、ここだ。

 私と国守くんが剣技を交わし、触れ合うほどの距離まで踏み込んだ場面が、実にいい。


 いや、これはもう接触したと言っていい。

 右肩がかすかに触れているはずだ。



「あれほどの実力者が三人も……。まずいな」

「日本は『門』の発生頻度が高いからね」

「……私、行こうか?」



 今後の活躍に期待し、情報部から上申されていた予算は承認してやろう。


 地球全土を二十四の目で監視し、衛星軌道からレーザーを放つ、下僕の星計画。

 それがあれば、国守くんの姿をより高い解像度で『観測』できる。



「いや、俺が行く。

 ヴァレンテスクの妹が隠していた牙……。

 あれを、直に見てみたい」



 会話も、十分に記録された。

 戦う前にスマホを録音状態にしていた判断は、我ながら正解だった。


 これで、挨拶以外の声も、ようやく手に入った。

 情報部が記録した映像と合わせれば、いつでも国守くんの勇姿を再生できる。



「まずは、ブラックだ。

 レッドの回復次第で、パープルが動け」



 難点を挙げるなら、衛星からの映像では、どうしても見下ろす視点になることか。


 私は、国守くんの横顔が好きだ。

 あの世界を見下ろすような嘲笑が、たまらない。


 思い出しただけで、半世紀前に捨てたはずの乙女回路が揺り起こされる。


 今、少し溢れた。

 早く、一人になりたい。落ち着かない。



「だが、大丈夫か?

 ブラックが欠ける以上……。ブルーの負担が増すぞ」

「そこは、妹を使えばいいんじゃないかしら?」

「悪くない案だ。ヴァレンテスクは重度のシスコンだからな」



 名案を閃いた。


 目の前の五人は、国守くんを強く警戒している。

 ならば、情報収集専門の『現地観測班』を新設するのはどうだろうか。


 前から、横から、斜めから、あらゆる角度で国守くんを追尾、記録する。

 これで、国守くんの勇姿は、完全に揃う。



「えっ!? あのイケメンって、そうなの?」

「すごいぞ。妹を守るために、城と呼べる規模の病院を建てた男だ」



 ただ、私たちの組織は世界そのものに反逆してきた者たちの集合体だ。

 そのため、基本的に血の気の多い者が揃い、破壊そのものを成果とする気風が根付いている。


 レッドは、その最たる例だった。



「その大事な妹を、日本に動かした」

「しかも、その妹は相応の実力を持っている」

「……日本に『何か』があるのかしら?」



 『現地観測班』を新設するにあたり、人員は厳選しなければならない。


 目の前の戦いに執着するような者では駄目だ。

 国守くんの勇姿を確実に持ち帰ることを優先できない者は、最初から不要だ。



「まさか、それって……。」

「御方が追い求めている、『神との謁見』に至る鍵……。」

「黄金鍵、その一つが?」

「グレイ、御方は何とおっしゃっている」



 話しかけられ、今になって気づく。

 仮面を被ったままだった。



「レッドの件は残念だと……。

 しかし、収穫はあった。今回の敗北を許すとも」

「おおっ……。」

「今、御方は精査に入っています。朗報を待ちなさい」



 スマホをスカートのポケットへ滑り込ませる。

 代わりに、眼鏡を取り出してかけ直した。




 ******




「ふぅ……。」



 会議が終わり、部屋の照明を点ける。


 ベッドと机、クローゼットだけ。

 どうせ三年で転居する。これで十分だった。


 軍服とスカートを脱ぎ捨て、ベッドに腰を下ろす。

 そのまま力が抜けるように倒れた。


 ワイヤレスイヤホンを耳に入れ、スマホを操作する。



『はっはっはっ! 質も量も申し分ない!

 お前ほどのやつは久々だ!』



 天井には、ポスターサイズの写真。

 こっそりと隠し撮りした、嘲笑する国守くんのベストショット。



 これは効く。

 目で殴られ、耳で追い打ちをかけられる。



「はふっ……。」



 熱い吐息が漏れた。

 これ以上は無理だ。我慢できない。


 乙女回路が命じるまま、両手を伸ばす。

 どちらも指先が触れただけで、身体が過剰に反応した。



「あんっ!?」

「ふー……。今日もお仕事、疲れましたよっと」



 その直後、ドアが開いた。

 腰が大きく跳ねて、相手の姿は視界に入らない。


 だが、この家に住んでいるのは私と、もう一人しかいない。



「えっ!? ……あっ!? ええっ!?」



 無言のまま腰を静かに下ろし、顔を上げる。

 コンビニのアルバイト帰りの『御方』だった。


 そういえば、シフトを代わってもらったとか言っていた。

 明日は朝釣りに行くため、今夜のうちに出発するらしい。


 私は一度下げたパンツを、何事もなかったかのように履き直した。



「は、廃棄の弁当、貰ってきたんですが……。

 は、ハンバーグとミックスフライ、どっちがいいですか? ま、魔王様」



 立ち上がり、右拳を引く。

 一気に間合いを詰め、馬鹿の顔面に鉄拳制裁を叩き込む。



「ノックくらいしろおおおおおおおおおおっ!?」

「ぼげえっ!?」



 かつては、何を見られようとどうでもよかった。


 だが今は違う。

 乙女回路が復活した以上、それを許可できるのは国守くんだけだ。







 ――第一部、完。


 ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。



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