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週末勇者とひも付き魔王様 ~前世で殺し合った相手と世界を救うことになった件~  作者: 浦賀やまみち
第五章 曇天の邂逅

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第39話 見るに足る敵




「おら、おら、おらっ!」

「はい、はい、はいっ!」



 あの軍服の男、レッドと言ったか。

 所属組織と役職の名を、父親が先ほど教えてくれたが、もう頭に残っていない。


 しかし、認めてやろう。


 柚葉を相手にしてなお、一歩たりとも退かない。

 紛れもなく、お前は『強者』だ。



「くっはっはっ! 楽しい! 楽しいな!」



 闘争を楽しめる気質なのも悪くない。


 それは強さに貪欲である証拠だ。

 研鑽を積み上げる上で、むしろ重要な資質だろう。



「そう? でも、残念。時間切れだよ」



 だが、闘争に没頭しすぎるのは問題だ。


 しかも、軍服の男は組織の幹部らしい。

 指揮官ならば、視野の狭さは致命的だ。

 目の前しか見えないようでは、兵と変わらない。


 柚葉がバク転を繰り返しながら、軽やかに戦場から距離を取っていく。



「何っ!?」



 その動きを追い、軍服の男が顔を上げる。

 俺に気づくが、もう遅い。


 詠唱は終えてある。

 頭上の魔力は、ただ解き放たれる瞬間を待っているだけだ。


 あとは指を鳴らすだけでいい。



「ラヴィニア」

「承知しました」



 ラヴィニアが錫杖を振るう。

 シャリーン、と先端の輪が鳴り、澄んだ音が戦場へと広がっていく。



「ブラックローズ・キングダム」



 地上から無数の茨の蔦が一斉に伸び上がる。

 それらは絡み合い、瞬く間に八本の巨大な茨の束へと変わり、黒竜へと食らいついた。



「グロロッ!?」

「相棒っ!?」



 空を飛ぶ黒竜が、茨に絡め取られた。

 もがくほどに、締め付けは強まり、蔦のあちこちに黒いバラが咲き乱れる。



「さて、幕引きだ。

 お前は、カーテンコールに立っていられるかな?」



 パチリ、と指を鳴らす。

 頭上で渦巻いていた魔力が一瞬で収束し、次の瞬間、爆ぜるように広がった。



「ホワイト・プリズン!」



 世界が『白』に塗り替わる。


 真夏の日差しを浴び、雪がきらめく。

 暴風に乗って舞い、すべてを凍てつかせた。




 ******




「はっはっはっはっはっ!

 喝采せよ! 偉大なる魔王を讃えよ!」



 白が引いたとき、黒竜は完全に凍りついていた。


 辺りは銀に染まっている。

 直径にして、二キロほどか。


 絶対零度に閉ざされた森は、しばらくそのままだろう。

 多少の騒ぎにはなるだろうが、俺の知ったことではない。


 あとは父親と帰還者対策室の連中に任せておけばいい。

 いっそ観光地にでもしてしまえばいい。



「お見事にございます。魔王様」



 ラヴィニアが優雅に手を打ち鳴らす。

 その直後、茨の蔦が解け落ち、氷像となった黒竜が大地へ墜ちた。


 パリーン、と甲高い破砕音が戦場に響く。


 黒竜は砕け、無数の微細な破片となって舞う。

 半分は地に届く前に蒸発した。



「寒い! 寒い、寒いっ……。寒ぅぅーーーい!」



 柚葉が白い息を荒く吐きながら、身を縮めて走り出す。



「……ち、ちくしょう」



 思わず視線を向ける。

 その先で、軍服の男はまだ生きていた。


 だが、満身創痍。

 辛うじて氷を振り払ったものの、片膝をついたまま動けない。



「なかなか強かったよ。……じゃあね」



 柚葉が迫り、剣を振りかぶる。


 決着はついた。

 そう思った、その瞬間。



「むっ!?」



 意識の端に違和感。

 何かが引っかかったと思ったら、閃光が戦場に落ちた。


 同時に銀世界が紅蓮へと反転する。

 森は跡形もなく吹き飛び、大地だけが残り、炎もまた消えた。



「困ります。こんなのでも、まだ使い道はあるので」

「グレイっ!?」



 腰まで届く黒い三つ編みの髪を揺らす、灰色の軍服の女。


 目と口だけで笑顔を描いた白い仮面を被っている。

 声の質からして、柚葉と同じくらいの年齢か。


 その女が軍服の男の前に立ち、柚葉の一撃を細剣で受け止めた。



「えっ!? ……嘘っ!? 強い!」



 突き、払い、薙ぐ。

 速く、鋭い連撃に押され、柚葉はバックステップで距離を取る。



「退きなさい」

「なっ!? 俺はまだ!」

「退け」



 女は軍服の男の頭を掴み、後方へ投げる。

 一瞬、呆気に取られ、口元が歪む。


 面白い。


 軍服の男は、もう役立たずだ。

 実力の一端しか見ていないが、女にとっては邪魔でしかない。


 実に、いい。

 状況判断も、躊躇いのなさも。



「くっくっくっ……。いるじゃないか!

 この世界にも、見るに足る敵がな! 褒めてやろう!」



 俺は手を打ち鳴らす。


 敵であろうと、認めたものは称える。

 それが俺の矜持だ。





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