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週末勇者とひも付き魔王様 ~前世で殺し合った相手と世界を救うことになった件~  作者: 浦賀やまみち
第五章 曇天の邂逅

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第38話 世界の輪郭が変わる時




「あれ? 結構、強い?」

「くっはっはっ! お前もなかなかだ!」



 柚葉は強い。


 俺を一度は倒しただけのことはある。

 力と速さを兼ね備え、経験も豊富だ。


 俺が知る勇者の中でも、群を抜いた実力を持つ。



「その剣、すごいね。呪いがびんびんだよ」

「分かるか!」



 柚葉と並ぶほどの実力を持つ、赤い軍服の男。


 自分の背丈より長く、幅広の大剣の一撃は、まさに暴風だ。

 振るわれるたびに森の木々は倒れ、振り下ろされれば大地が抉れる。



「軍服は赤いけど……。ドラゴンは黒いし、本当は黒騎士ってやつ?」

「そこまで分かるのか! いいな! お前!」

「そう? ありがとう」



 もっとも、柚葉はビーチサンダルを履いている。

 そのため、踏み込みが制限され、全力とは言い難い。


 ブーツを一緒に渡すべきだったか。

 昔、俺が使っていたものだが、マジックアイテムなのでサイズは装着者に合わせて変わる。


 跳躍力も上がり、空を駆けることもできる。

 戦場を広げれば、あの大剣にも十分対抗できる。



「どうだ、俺たちの仲間にならないか!」

「いや、それはちょっと……。」



 今から渡すか、と一瞬考えてやめる。

 戦場で靴を履き替えるなど、無様でしかない。


 あの軍服の男なら、楽しみながら待ってくれそうではあるが。



「見てくれも悪くない! 俺の女にしてやるぞ!」

「えーー、困っちゃうなー……。ちらっ、ちらっ」



 柚葉が、わざとらしく二度こちらを見上げた。


 どうやら余裕はあるらしい。

 無駄な心配だった。


 ため息をつき、視線を正面に戻す。



「グロロッ!」

「このっ……。駄竜が!」



 ラヴィニアも強い。


 魂の契約を結び、俺の転生に付き従っている。

 その年月は幾百を超え、千年以上に及ぶ。


 それは研鑽の積み重ねでもある。



「グローーッ!」

「ちょこまかと!」



 体長は三十メートルを超える、巨大な黒竜。

 日本の城に匹敵する巨体といえば、分かりやすいか。


 だが、その見た目に反して、動きは俊敏だ。

 縦横無尽に飛び、その羽ばたきが作る風がうざい。


 ラヴィニアが苛立つのも分かる。



「グロッ!?」

「しょせんはトカゲね」



 黒竜は善戦していると言える。


 やはりラヴィニアは、今生の肉体では全力を出しきれていない。

 真の肉体を持つラヴィニアなら、とっくに黒竜を地へ叩き落としている。


 しかし、それでいい。

 敢えて苦戦を強いるのも、支配者としての務めだ。


 それがラヴィニアをまた強くする。



「……暇だな」



 唯一の問題は、やることがない。

 ボリスの姿を探すと、帰還者対策室の連中を避難誘導している。


 何かとセーフティを取りたがる性格は難点だが、この場では正解だ。

 帰還者対策室の連中は、柚葉とラヴィニアの加勢にはならず、むしろ足手まといになる。



「さて……。」



 もう俺は帰ってもいいんじゃないだろうか。


 いや、臣下が戦っている以上、それはない。

 ビーチパーカーのポケットからスマホを取り出す。


 ウマな娘のアプリを立ち上げようとした瞬間、勝手に通話が繋がった。



「ヒデ、二人を連れて逃げろ!」



 スマホを耳元に寄せるまでもなく、父親の怒鳴り声が弾ける。



「あん?」



 軽く眉をひそめる。



「衛星で確認した!

 あれは曇天監査七席のレッド!

 世界再構統制機関、最高幹部の一人だ!」



 視線の先では、戦いが続いていた。

 空ではラヴィニアと黒竜が、地上では柚葉と軍服の男が、それぞれ激突を繰り返している。



「……この俺が負けるとでも?」



 わずかに口角が上がる。



「そうは言ってない! 危険なんだ!」



 焦りを押し殺した声が、耳に張りついた。


 一度、目を閉じる。

 その声には、父親としての情が混ざっていた。



「間違っているぞ」

「えっ!?」



 風が頬を打つ中、淡々と返す。



「お前は、何者だ?

 関東は管轄外とはいえ、北陸方面帰還者対策室の室長だろ?」



 衝撃波が四方八方へ広がり、戦場の輪郭を塗り替えていく。



「敵の最高幹部の一人が目の前にいる。

 ならば、これは好機だ。敵の一角を崩す……。」



 指先でスマホを弄びながら、視線は戦場に固定したまま。



「それに、門はまだ開いていない。

 ここで退いたら、帰還者を敵に奪われるだけだぞ? 

 ……しかも、大量に」



 戦場の中心では、光の柱がなお膨張を続けている。



「言え。やれ、と……

 それが司令官としての務めだ」



 柚葉とラヴィニアは押し切れていない。

 互いにハンデを抱え、決定打に欠けている。


 地上では、柚葉と軍服の男の剣戟が森の地形そのものを削り取っていくのが見える。

 倒木が宙に舞い、遅れて地鳴りが追いかけてくる。


 その頭上では、ラヴィニアと黒竜が空を引き裂いていた。

 交錯するたびに風圧が叩きつけられ、雲が裂け、光が歪む。



「……やれるのか?」



 数拍の沈黙のあと、苦渋を滲ませた声が落ちた。



「はっ! 俺を誰だと思っている!」



 轟く黒竜の咆哮を押しのけ、鼻で笑った。



「俺の息子で、ただのゲーム好きだ」

「その通り! ゲーム文化を守るため、やってやろうじゃないか!」



 両手を軽く広げ、掌を天に向けて胸を張る。



「……そこは、柚葉ちゃんとラヴィニアちゃんのためって言えよ」

「火、水、土、風、光、闇、無! 

 さあ、選べ! 本気の一端くらいは見せてやる!」



 呆れた声が返ってきたが、無視した。

 空気がわずかに軋み、周囲の魔力がざわりと揺れる。



「一番被害が少ないのはどれだ?」



 間髪入れず、焦りの滲む声が飛ぶ。



「どれも最高に決まっている! 地図を書き換えてやるぞ!」



 口元を歪め、両手の指を軽く鳴らす。

 その瞬間、世界がわずかに間を置いた。





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