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週末勇者とひも付き魔王様 ~前世で殺し合った相手と世界を救うことになった件~  作者: 浦賀やまみち
第五章 曇天の邂逅

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第36話 バカンス中止




「くはっ!? トリプル星3だと!

 夏のビーチは、奇跡が生まれるな!」



 目をかっと見開き、思わず右拳を突き上げる。

 左手に持つタブレットの中に、ビッグバンな光景があった。



「ほらよ。カレー、買ってきたぞ」

「むっ、ご苦労。お前も食え」

「当然だ。わざわざ隣のビーチまで買いに行ったのは俺だぞ。

 ……というか、海に来てカレーとかどうなんだ?」

「食えば分かる」



 ウマな娘は一プレイ約三十分。

 そのリザルトで与えられる星は三種、三段階。


 一種で星三つは、まだある。

 二種となれば稀だ。


 三種、それはもう天文学的な確率になる。


 一刻も早く家に帰りたいと思いながらも、今日は三日目。

 このビーチで、無駄な暑さに耐えてきた苦労が報われた。



「普通だ……。美味くもなければ、不味くもない。

 ただ、なんか粉っぽい……。」

「それが、日本の海の味だ」

「お前のそのこだわり、何なの?

 昨日は伸びたラーメンだし、一昨日は溶けたかき氷だぞ」



 ボリスが買ってきた発泡トレイに盛られたカレー。


 具は小さく、肉は見当たらず、量も少ない。

 夏の海の味を、プラスチックスプーンでご機嫌に貪る。



「あれ? お昼はカレーですか?」



 長い髪をお団子にまとめたラヴィニアが、浜から水を滴らせながら戻ってきた。


 ボリスはカレーの発泡トレイを砂の上に置き、スプーンを咥えたまま立ち上がる。

 濡れた肩に、無言でタオルをかけた。



「ねえ、ボリス」

「あー……。はいはい、何がいいんだ?」



 予想していたのだろう。

 波の音に混じって、気の抜けた返事が返る。



「サンドイッチかな?」

「卵のやつな。コンビニまで買ってくる」

「ソフトクリームもお願いね」



 ボリスはカレーを持つと、食べ歩きしながらビーチの外へ向かった。

 その姿が防風林の向こう側に消えるのを見届けてから、俺は問いかける。



「……で、わざわざボリスを遠ざけた理由はなんだ?」

「その……。あちらに、いい岩場がありまして。ご一緒にどうですか?」



 ラヴィニアは少し俯き、上目遣いを向けた。


 その右手の指す方向を見ると、五百メートルほど先に岩場があった。

 人の姿を隠すほどの大岩が乱立している。


 ラヴィニアが何を求めているかは明白だった。



「ふっ……。仕方がないやつめ」



 今の俺は機嫌がいい。

 口の中を水で洗い流すと、ビーチデッキから立ち上がった。


 柚葉の姿はない。



『大島まで、ちょっと泳いでくるね!』



 三十分ほど前、そう言い残して沖の先に見える島へと遠泳に出ていった。



「うふふっ……。」



 ラヴィニアが身を寄せ、そっと腕を絡めてきた。


 岩場へ向けて歩き出した、その五歩目。

 ビーチパラソルの下のテーブルに置かれた四台のスマホが、一斉に鳴った。


 思わずため息がこぼれた。



「行きましょう! 無視しましょう!」



 ラヴィニアが腕をぐいぐいと引っ張ってくる。


 着信音で、画面を見なくても分かった。

 帰還者対策室からの厄介事だ。



「そうしたいのは山々だが……。

 ここの別荘は、帰還者対策室のものだ。

 借りは、返せるときにさっさと返すに限る」



 そう言って、スマホへ視線を落とした。

 画面は、すでに赤く染まっていた。


 通知ではない。

 警報だ。


 しかも、『EMERGENCY』の文字が点滅している。

 わざわざご丁寧に、だ。


 波の音の中に混じる通知音に、目を細める。


 ここまで危機感を煽るのは初めてだった。

 口の端が、わずかに歪む。



「俺はボリスを回収する。

 ラヴィニアは、お前は柚葉と現場に向かえ」



 ビーチパーカーに袖を通す。


 スマホを確認すれば、現場は割と近い。

 俺なら、三分とかからず着くだろう。



「はい、承りました」



 ラヴィニアは即答を返してきたが、わずかに不満が声に混じっていた。


 鬼の居ぬ間に何とやら。

 柚葉がいない隙を狙い、逢瀬を楽しもうとしたところを邪魔されたのだから、当然か。


 たまらず苦笑が浮かぶ。



「ふっ……。そう拗ねるな。埋め合わせはする」

「……約束ですよ?」



 ラヴィニアは少し口を尖らせた。


 その顎を指先で軽く摘み、こちらへ引き寄せる。

 ラヴィニアの呼吸が、わずかに止まった。



「なら、手付けだ。受け取れ」

「あっ……。」



 視線が絡んだまま、逃げる間を与えない。


 もう距離はなかった。

 つま先立ちになったラヴィニアが、俺の背に両手を回す。





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