表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
週末勇者とひも付き魔王様 ~前世で殺し合った相手と世界を救うことになった件~  作者: 浦賀やまみち
第五章 曇天の邂逅

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/43

第35話 魔王、強制バカンス




「夏!」



 ドンッ、とドアが開いた。

 ベッドにうつ伏せでタブレットをいじっていた俺は、反射的に振り向く。



「白い雲!」



 青いビキニに身を包み、膨らませた浮き輪を肩にかけた柚葉だった。

 軽やかなステップで、くるくると回りながら部屋に入ってくる。



「青い海!」



 俺はタブレットに視線を戻した。


 俺が育てた駿馬が、一生に一度の大舞台を競い合っている。

 目が離せるわけがなかった。



「……っていうか、寒い!」



 揺れる尻尾。

 前傾姿勢となって、懸命に振られる両腕。


 四コーナーから立ち上がり、カットインが入る。


 勝った。これは貰った。

 実況も興奮気味にそう叫んでいる。



「なに、これ! エアコンの温度設定が16度って!」



 ノックもなしに入ってきて、騒がしいやつだ。

 熱くなった俺の心に水を差すな。



「……よし!」



 俺の駿馬がゴール板を一着で駆け抜けた。

 思わず両拳を握る。


 画面の中で、俺の駿馬は速度を緩め、微笑みながら小さく手を振る。


 実に、素晴らしい。

 ピックアップ期間でもないのに、廃課金を投じて引いた水着コスチュームが報われた。


 画面の中に入れる魔法があれば、本気で習得したいと思う。



「あーー……。Hなゲームしてるー」



 柚葉はベッドに膝を乗せ、身を乗り出すようにして画面を覗き込んだ。



「ウマな娘だ。エロではない」



 無知なやつめ、と言ってやりたいところだ。

 とはいえ、俺自身も夏休み前、高校のゲーム仲間にごり押しされて、始めたばかりだ。


 そいつに勝ちたい。


 だが、ソシャゲは先行者が圧倒的に有利。

 勝つためには、課金を投じなければならない。


 この世界の人類は、なんと業にまみれたシステムを作り上げてしまったのか。



「今度、猫耳つけてあげよっか?」



 柚葉が身を寄せた。


 明らかな挑発。

 視界のすぐ端に、ビキニの青。



「ふっ……。お前が?」



 鼻で笑う。

 視線は画面から一切動かない。


 柚葉が獣耳を着けたところで、ただの『暴れウマ』だ。

 画面の中の俺の駿馬の可憐さには、到底及ばない。



「なによ! こんな女、どこがいいの! 胸なんて、ぺったんこじゃない!」

「馬鹿め。これは『最速の機能美』と言うのだ」



 柚葉がベッドをバシバシ叩き、ぐらぐらと揺らす。


 このままではタブレットを取り上げる暴挙に出かけねない。

 身を起こし、タブレットを守るように柚葉とは逆側へ向くと、ラヴィニアがいた。

 

 微笑みながら、両手を腰で組み、胸を張る。



「では、私はどうですか? 魔王様!」



 なるほど、と頷く。

 その膨らみは、俺の駿馬と同じくらいだ。



「お前、その色が本当に好きだな」



 しかし、問題はそこじゃない。

 クリームピンクのワンピース水着に目がいき、思わず苦笑する。



「もーーーっ! 私のは、一言も褒めてくれなかったのに!」



 その隙を突かれ、タブレットを柚葉に奪われる。



「いや……。それ、選んだのは俺だろ?」

「うるさい! 泳ぎに行くよ! 早く着替えて、着替えて!」



 理不尽が過ぎる。


 たまらず、ため息をつく。

 水着に着替えるため、ベッドから下りた。




 ******




「ふーーー……。」



 夏の強い日差しを、サングラスで遮る。

 ビーチパラソルの下、ビーチデッキに身を預ける。


 柚葉が海に行きたいと言い出した。

 それが、すべての元凶だった。



「えっ!? お前、ここまで来て、ゲームすんの?」

「ボリス、お前もするか? もう一台あるぞ」

「いや、お嬢に何かあったらヤバいし……。」

「……苦労してるな」

「お前ほどじゃない」



 俺は拒否した。


 なぜ、暑い中をわざわざ出かけなければならない。

 クーラーの効いた自室で、のんびりゲームを楽しむ。それこそが至福だ。


 しかし、柚葉の母親が言った。



『東京の会議に出席しなくちゃいけないんだけど……。

 他の勇者たちとの顔合わせも兼ねて、一緒に来ない?』



 続けて、その場にいた俺の父親が口を挟んだ。



『福利厚生を兼ねたうちの別荘が、千葉にあるけど使うか?

 プライベートビーチもあるぞ?』



 この瞬間、仕組まれた罠だと悟った。



「ヒデー!」

「魔王様ー!」

「ちゃんと反応はするんだな」

「マルチタスクは、支配者の必須技能だ」



 だが、柚葉はもう止まらなかった。

 ラヴィニアも、それに同調した。


 俺は断固拒否した。



「まあ、あの二人。何だかんだで、仲いいよな」

「俺だ。俺の絶妙な采配が、そうさせているんだ」

「……そうかー?」



 しかし、日ごとに強まる圧に、面倒になった。


 決して屈したわけではない。

 魔王とは、時に寛容さも必要なのだ。



「ボリス、風を寄こせ」

「なんで俺が……。まあ、いいけどよー」



 ただ、この暑さには辟易する。

 この三泊四日の旅行が、早く終わらないかと思うばかりだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ