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週末勇者とひも付き魔王様 ~前世で殺し合った相手と世界を救うことになった件~  作者: 浦賀やまみち
第四章 重なり合う現在と過去

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第33話 過剰戦力




「おおっ!? 伝説は真であった!

 んっ!? ……勇者様が、三人?」



 土曜夕方の五時。

 異世界召喚の光の奔流が止むと、石造りの城だった。


 俺たち以外に、勇者らしき者はいない。

 俺たちを召喚した国王は、少なくとも正気に見えた。


 どうやら、今回は当たりを引いたらしい。



「どういうこと?」

「あん?」

「はい?」

「どうして、ラヴィがここにいるの!」



 柚葉が不満を露わにした。


 俺が眉をひそめ、ラヴィニアが首を傾げる。

 それを見た柚葉は、怒鳴りながらラヴィニアをびしっと指さした。



「当然だろ?

 俺がお前と魂で繋がっているように、ラヴィニアは俺と魂で繋がっているのだからな」



 わけが分からない。

 俺とラヴィニアの関係は、何度も説明したはずだ。


 ふと、召喚前にいたはずのボリスの姿が見えないことに気づく。


 ボリスはラヴィニアの従者だが、それは血の契約によるものだ。

 魂を結びつけた契約と同列にされては困る。



「ぐぐぐっ……。やっと二人っきりになれると思ったのに!」



 柚葉は二度三度と足で床を踏みつけた。

 分かりやすい地団駄に、思わず苦笑する。



「ふふふっ……。私と魔王様の絆を、舐めないでくださいね?」



 ラヴィニアは右手で口元を隠し、身体を仰け反らせながら笑った。

 こちらも分かりやすい勝ち誇りに、苦笑は深まる。



「じゃあ、スケルトン! スケルトンにして!」



 だが、柚葉のリクエストに目をわずかに見開いた。


 転生によって、ラヴィニアは『肉体』を得た。

 狭間にある『本体』を召喚した場合、この矛盾はどう処理されるのか。



「ほう、それは興味深いな。……いいか?」

「魔王様がお望みとあれば」



 ラヴィニアの表情がわずかに揺れる。

 それでも、好奇心が勝った。



「来い!」



 ぱちり、と指を鳴らす。

 ラヴィニアは、糸が切れたように崩れ落ちた。


 隣の床に開いた深淵の中から、ひとりの女性がゆっくりと姿を現す。


 歳の頃は、二十代半ば。


 白く長い髪に、黒いドレス。

 銀のティアラと、黒いベールを纏っていた。



「なっ!? ……ななっ!? だ、誰っ!?」



 柚葉は目を見開き、口をぱくぱくさせた。



「あら、こうなるんですね」



 真の姿に戻ったラヴィニアは、自身の身体を確かめるように視線を落としたり、軽く動かしてみたりした。

 その動きに合わせて、ドレスの裾からクリームピンクのペチコートが揺れる。


 豊かな胸と丸みのある腰回り。

 それでいて、くびれはしっかりと引き締まり、全体として品のある均整が取れている。



「本体が優先される。

 それは分かっていたが、面白いな」



 今生のラヴィニアと真のラヴィニア。

 両者を繋ぐ魔力の紐が、俺の目には見えていた。

 今生から、本体へと流れ込んでいる。



「はい、今生の身体がバッテリー扱いになるとは、予想外です」



 ラヴィニアの言った『バッテリー』という表現は、まさに的を射ていた。


 本体が真になるためには、大量の生き血を要する。

 そのコストを無視できるのは、実に魅力的だ。


 無論、バッテリーである以上、今生の身体での生活は避けられない。

 戦闘の際は、真の姿で運用するのが最適だろう。


 ラヴィニアにとっても、使い慣れた身体の方が戦いやすいに違いない。



「禁止! 以後、禁止!

 はい、終了! 今すぐ、元に戻して!」

「……お前がやれと言ったんだろうが」



 俺が頷くよりも早く、柚葉が叫んで否定した。


 思わず息が抜ける。

 最近の柚葉は、どうにも情緒が不安定で扱いづらい。



「魔王様、いかがですか?

 久々に貴方様の楽器を調律するというのは?」



 その点、長い付き合いもあって、ラヴィニアはよく分かった。


 上半身をわずかに右へ傾け、顎に指を添える。

 軽く左足を内側に引き、スカートの裾を持ち上げ、白い太ももを覗かせた。


 突然、真の身体を得て、不安なのだろう。

 敏感な部分を確かめ、落ち着こうとしているのかもしれない。



「殺おおおおおすっ!」



 またもや俺が頷くよりも早く、柚葉が動いた。

 剣が抜かれ、そのままラヴィニアへ斬りかかる。



「あら、ごめんなさい?

 あなたが唯一勝っていた、スタイルで勝ってしまって」



 ラヴィニアが虚空へ右手を伸ばす。

 空間が歪み、黒い錫杖がそこから現れて手に収まる。


 俺は床に落ちている今生のラヴィニアをお姫様だっこし、そのままバックステップで跳ぶ。



「絶対に殺す! ぶち殺す!」

「小娘が舐めるなよ! この身体なら、100%だ!」



 次の瞬間、剣と錫杖が激突する。

 衝撃波が走り、石造りの床が砕け、天井にひびが広がる。



「だったら、私は120%だね!」

「それなら、私は150%で!」

「250%!」

「400%!」



 激しく、何度も黒と白が交差する。


 衝突のたびに床が砕け、壁が崩れ、天井に亀裂が走る。

 やがて城そのものが崩れ落ち、それは外の街へと広がっていった。



「……アホだな。

 インフレしすぎだ。数字だけ上げて、どうする」



 遠ざかってゆく破壊音を聞きながら、ため息が漏れた。



「あわわ……。し、城が……。ま、街が……。」



 ふと隣で、絶望に満ちた声が上がった。

 異世界に召喚された直後だったことを思い出す。



「災難だったな。お前の引き運を恨め」



 尻もちをついたまま、引きつった半笑いを浮かべる国王を見下ろし、軽く声をかける。


 運が良いか、悪いか。

 それを決めるのは、この世界の後世の歴史家だろう。


 ただ、これだけは言える。



「……ゆ、勇者様なのですよね?」

「黒髪の女がそうだ。

 俺ともう一人は、認めなくはないが従者だ」

「あ、あの一番凶暴そうな方が……。」

「安心しろ。世界はちゃんと救ってやる」



 この世界は、確かに救われる。


 敵の戦力はまだ分からない。

 だが、それは問題にならない。


 これまでの経験から言えば、俺たちは明らかにオーバースペックだ。

 この世界の限界がレベル99だとすれば、俺たちはレベル999の側にいる。


 そこに、ラヴィニアが加わった。

 吸血鬼の彼女は、血の譲渡によって回復と強化、弱体化を操る。


 柚葉が勇者なら、俺は魔法使いで、ラヴィニアは神官といったところか。


 悪くないバランスだ。

 あとは盾役のゴーレムでも加えれば、完璧と言っていい。


 どうやら、今回は早く帰れそうだ。



「本当ですか!」

「ただし、報酬は払え」

「もちろんです!」

「では、選べ。

 救済コースは三種類。ハイ、スタンダード、ロウ……。

 スペシャルがあるが、おすすめはしない。末代まで、借金まみれになるぞ」



 目標は、半年。


 早く家に帰って、ゲームがしたい。

 俺には、エルデンなリングの世界が待っている。





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