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週末勇者とひも付き魔王様 ~前世で殺し合った相手と世界を救うことになった件~  作者: 浦賀やまみち
第四章 重なり合う現在と過去

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第30話 正妻戦争、勃発




「この姿では、初めてのお目見えとなります。

 今生での名は、ラヴィニア・ヴァレンテスクと申します。ラヴィとお呼びください」



 少女『ラヴィニア』は一歩退き、スカートの裾をそっとつまむ。

 優雅に膝を落とし、背筋を崩さぬまま静かに頭を垂れた。


 学校が騒がしくなってきたため、場所を変えることにした。

 俺たちはリムジンに乗り、学校と自宅の中間にある河川敷へと向かった。


 川上にも、川下にも、人の姿はない。

 午後五時を過ぎても、夏の陽はまだ高く、水面にまぶしい光を散らしていた。



「そして、魔王様の情婦にございます」

「なっ!? ……どういうことなのっ!?」



 ラヴィニアが顔を上げ、にこりと微笑んだ、その瞬間。

 ここまでの道中、ほとんど口を開かなかった柚葉が、声を裏返した。


 殺気にも似た闘気が一気に膨れ上がる。

 柚葉を中心に空気が震え、小石が弾かれるように飛んだ。



「どうも何も、そのままだ」



 俺は眉を寄せた。

 こいつは、一体何を興奮しているのか。



「はい、魔王様ご自身がそうおっしゃっていましたものね」

「ははーん……。さては、あの時のことを拗ねているな?」

「知りません」



 ただ、ラヴィニアがなぜ自分を『情婦』と紹介したのか、それは理解できた。


 俺が両親にそう紹介したときのことを、責めているのだろう。

 口の端を吊り上げると、ラヴィニアは唇を尖らせ、ぷいと顔を背ける。



「いちゃいちゃしない! ちゃんと説明して!」



 柚葉が割り込むように怒鳴った。

 ぼふっ、と空気が弾けるような圧が頬を叩く。


 かなり本気になっている。

 髪の先がわずかに持ち上がり、スカートの裾がゆらゆらと揺れている。


 やはり分からない。

 俺は腕を組み、首を傾げた。



「何を言っている? お前、何度も会っているだろう?」

「……はっ!?」



 その瞬間、柚葉の闘気が一気に萎んだ。



「はい、お忘れですか?

 ここではない世界で、魔王様とあなたが休まれる際、見張りを引き受けていたではありませんか?」

「へっ!?」



 ラヴィニアが補足するように言った。


 そう、柚葉とラヴィニアはすでに既知の仲だった。

 この世界では初対面だが、週末ごとの異世界での生活の中で、数え切れないほど顔を合わせている。


 柚葉の目がラヴィニアを捉え、無言のまま何度も上下を往復する。



「ああっ!? ……もしかして、スケルトンさんっ!?」



 やがて、目が大きく見開かれた。

 柚葉はラヴィニアを指さし、その指先を震わせる。



「そういえば、どうなっている?

 血を得ず、肉の身体を持つということは、この世界に転生したのだろ?」



 だが、ラヴィニアと契約を結んでいる俺自身にも、分からないことがあった。


 ラヴィニアは吸血鬼だ。

 今は肉体を失い、その骨だけが『狭間』にある。

 膨大な生き血を与えることで、肉体は再構成される。


 しかし、俺は今生で隠遁すると決めた。

 週末ごとの異世界も、いずれはここへ戻ってくる道程に過ぎない。


 だから、生き血を与えて復活させるつもりはなかった。



「はい、東欧の国に」

「なぜ、今なんだ? もっと早く来い」



 ラヴィニアには、俺の『黄泉の法』が刻まれている。

 幼い身体つきと薄い胸を見れば、過去の記憶が蘇った時期が、俺より遅かったのだと分かる。


 それにしても、俺の元へ来るのが遅い。


 ラヴィニアは、俺ほど長い過去は持たない。

 夜毎の夢で辿る過去も短く、すぐに俺との出会いに辿り着くはずだ。


 ラヴィニアなら、真っ先に馳せ参じるはずだが。



「魔王様がアジア人、それも日本人なのはすぐ分かりました」


「でも、ひらがな、カタカナ、漢字……。

 どうして、この国は文字が三種もあるのですか」


「複雑すぎます。最近、やっと簡単な漢字が分かるようになりました」



 ラヴィニアは、遠く空へと視線を投げた。


 ずいぶん努力したのだろう。

 前々世で百年の歳月をかけ、ゴブリンの王国を滅ぼしたときと、同じ顔をしていた。



「では、ここが分かったのはなぜだ?」



 俺は頷きつつも、腑に落ちない。


 リムジンから推測するに、ラヴィニアの家は相当な金持ちだ。

 だが、日本の中からたった一人を探すなど、金と時間の無駄でしかない。



「春頃にあった、あの国のミサイルです。

 それで、おおよその地域がようやく特定できました」


「あとは、ドラゴンなクエストの5。

 突然の新作リメイク発表は、ヨーロッパでも話題になりました。

 もしかしたら魔王様が関わっているかもしれないと、資金の流れを追っていたところ見つかりました」



 答えは、意外なところにあった。



「なるほど……。」



 俺は肩をすくめ、苦笑を浮かべた。


 前者はともかく、後者は仕方がない。

 抑えきれないドラゴンなクエスト5愛が、居場所のヒントになるなら本望だ。



「私は、名香柚葉! 

 ヒデの恋人……。ううん、もう奥さんだね! もう百年くらい一緒にいるし!」



 突如、柚葉が吠えた。

 両手を腰に当て、胸を張る。



「はぁ……。たったの百年ですか」

「……えっ!?」



 ラヴィニアは右手で口元を隠し、静かに笑う。

 柚葉は動きを止めた。



「魔王様、知り合ってからどれくらい経ちますでしょうか?」

「さあな」

「私もよく覚えていません。

 なにせ、魔王様が転生される四度前からの付き合いですので」

「ぐぬぬぬぬっ!」



 柚葉の奥歯が、ぎりぎりと鳴った。



「でも、構いませんよ?

 ふふっ……。魔王様の寵愛を受ける女が増えるのは、今更のことですから」



 ラヴィニアが、もう一度くすりと笑った。



「この女あああああっ!」



 柚葉はキレた。

 容赦のない本気の拳が、ラヴィニアの横っ面を襲う。



「まあ、怖い! 乱暴な女!」



 ラヴィニアは左腕を立てて受け止める。

 そのまま、柚葉の首元へ貫手を放った。



「畳と女房は新しい方がいいって言うでしょ!」

「知りませんけど?」

「もっと日本を勉強しろ! ことわざよ、ことわざ!」

「オー、日本語ワカリマセーン」

「殺す!」

「たった百年で正妻気取りするな! 小娘が!」



 河川敷を、黒と金が縦横無尽に交差する。

 打撃音が響くたび、余波で大地が抉れ、水柱が立つ。


 俺はため息をついた。

 リムジンに寄りかかり、煙草を吸っている銀髪の男に声をかける。



「さて……。車を出せ。ゲームが待っている」

「えっ!? お前、放っておくの?」

「女には女の戦いがある。男が出るのは無粋というものだ」



 俺は肩をすくめ、リムジンに乗り込んだ。



「せめて、人避けの魔法を使えよ。俺、そういうの得意じゃないんだ」

「早くしろ」



 車外では、なおも激しい衝突音が響き続け、その余波でリムジンが微かに揺れていた。





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