表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
週末勇者とひも付き魔王様 ~前世で殺し合った相手と世界を救うことになった件~  作者: 浦賀やまみち
幕間

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/43

第27話 時給、百万円




「ふぅ……。」



 本日も快便で、気分がいい。

 水流の音を背に、トイレのドアを閉める。


 玄関の靴箱上に置かれた時計を見ると、午前八時。

 普段なら、とっくに家を出て、電車に乗っている頃だが、今日は祝日だ。


 実に、素晴らしい。

 朝から晩まで、アーマードなコアを遊び倒してやる。

 Tシャツの『一気呵成』の文字に笑みをこぼす。



「おっと……。大事なことを忘れるところだった」



 キッチンへ向かいかけて、玄関へ戻る。

 カチャリ、という音が響き、引き戸に鍵がかかった。


 これで、柚葉は入ってこれない。

 両親も、今日は出かけている。


 誰にも邪魔されない、完璧な一日だ。



「ふっ……。一分一秒と無駄にできん」



 キッチンの冷蔵庫を開ける。

 昨日、買っておいたエナジードリンクを取り出す。


 プルタブを引き、喉に流し込んだ。

 口の中にあざとい甘さが広がり、強炭酸が喉を刺激する。


 テーブルに置かれた食パンと目玉焼き、ソーセージを横目に部屋へ向かう。



「さすが、現代が生み出した完全飲料。

 ……チャージ完了だ!」



 げふっ、とゲップが出た。


 誰もいない。

 セーフだ。



「はっはっはっはっはっ!

 次の異世界では、ゴーレムを召喚して、ロボットアニメっぽく戦うのもアリだな!」



 早速、気分が高揚してきた。

 廊下を足早に歩き、階段を一段飛ばしで上る。


 二階の廊下口にあるゴミ箱へ空き缶をシュート。


 後で母親に分別しろと怒鳴られるだろう。

 だが、今の俺を止められる者はいない。


 俺は、楽園へのドアを開けた。



「あっ!? 遅かったね?」



 ドアを閉めた。

 顔を伏せ、目を右手で覆う。


 柚葉がいた。

 俺のベッドに女の子座りし、ファッション雑誌を読んでいた。


 俺は雑誌など買わない。

 情報は全てネットで得ている。


 ドアが勝手に開いた。



「どうしたの? お腹、痛いの? 大丈夫?」



 柚葉の向こう、ベッドの上。

 ファッション雑誌が三冊、置いてある。


 昨日の学校帰りに、本屋に付き合わされた理由が、これか。

 嫌な予感がする。


 だが、その前に解決する問題があった。



「なぜ、ここにいる?

 いや、違う。いつ来た?」

「えっ!? ヒデがトイレに行っている間だけど?」

「……そうか」



 迂闊だった。


 トイレは、最も無防備になる時間だ。

 どうやら、この日本での生活に、少し慣れすぎたらしい。


 気を引き締め直す。

 今回は、次に繋がる勝利だ。


 俺に敗北はない。



「それより、焼きそばとチャーハン。お昼はどっちがいい?」



 昼まで居座る気か。

 その言葉を、飲み込んだ。


 嫌な予感は的中した。



「チャーハンで頼む」



 魔王は、力を示すだけでは足りない。


 宥め、透かす。

 それもまた、支配だ。




 ******




「ねえ……。」



 柚葉は、雑誌を夢中になって読んでいた。


 本革の一人掛けソファー。

 超ど迫力の100インチモニター。

 5.1チャンネルの立体サウンドスピーカー。


 魔王に相応しい環境だ。

 俺は、思う存分にアーマードなコアに没頭した。



「ねえ……。」



 ファッション雑誌は、やはり写真がメインだ。

 一時間も経つと、ぽつぽつと話しかけてくるようになった。


 アーマードなコアは繊細な操作が肝。

 結果、ミスが出始める。



「ねえってば!」



 どうやら、俺の祝日はたった一時間で終わったらしい。

 業を煮やした柚葉が、俺の膝の上に乗ってきた。


 隣に座られたら邪魔になる。

 そう考えて三人掛けを選ばなかったが、無意味だった。



「ねえ、二人っきりだよ?」


「おじさんとおばさん、夕方まで帰ってこないんだよね?」



 ため息を堪える。

 柚葉が、落ち着きなく身じろぎした。


 意図は、分かりきっていた。


 仕方がない。

 一時間を捨てて、その後の自由を得よう。


 コントローラーを置き、柚葉に手を伸ばした、その時だった。



「もーーーっ!」



 二台のスマホが同時に鳴った。

 柚葉が唇を尖らせる。


 個別設定している、父親からの着信音。

 より正確にいうなら、北陸方面帰還者対策室からだ。


 つまり、厄介事の電話だった。



「お前が安請け合いしたせいだろうが」

「だって、将来のお父さんからのお願いだったし……。」



 俺はそのまま柚葉をお姫様だっこしして窓辺へ。

 柚葉が窓を開け、屋根に出る。


 ぱちり、と指を柚葉の耳元で鳴らす。



「ストームウイング」



 背に黒い魔力の翼が顕現する。

 瞬間、地上から視認できないほどの超高度へと、一気に翔け上がる。



「えっと……。北北東の方角だね」



 柚葉はスマホのアプリを起動し、厄介事が発生している場所を確認する。


 この世界の一端を知ってから、一か月半。

 俺たちは、北陸方面帰還者対策室に非常勤として籍を置いている。


 出動は、これまでに二回。

 報酬は一回、百万円。


 俺の部屋の贅沢なゲーム環境は、そこから賄っていた。



「しっかり掴まれ」

「ぎゅーーっ!」



 『帰還者』たちとの面通しは一度済ませたが、柚葉の実力は飛び抜けている。

 現場に行き、柚葉を超高度から落下させるだけで済む。



「さっさと行って、さっさと帰ってくるぞ」

「そうだ! 足を伸ばすついでに、デートしてこようよ?」

「駄目だ。アーマードなコアをやる」

「もーーーっ! 私とゲーム、どっちが大事なの!」



 時給、百万円。

 煩わしい厄介事だが、悪くない。


 夢が膨らむ。

 小遣いの範囲では買えなかった、あのゲーム、このゲームも買える。



「……行くぞ!」

「あっ!? 誤魔化した!」



 俺たちは、風を切り裂いて翔んだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ