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週末勇者とひも付き魔王様 ~前世で殺し合った相手と世界を救うことになった件~  作者: 浦賀やまみち
第三章 世界の一端

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第19話 卒業まで待ってくれ




「おい」

「はい」



 名香家の茶の間。

 神社の社家らしく、ダイニングではなく、床に座っての食事だ。


 カレーライスを食べながら、視線を向ける。

 福神漬の小瓶を、名香が俺の前に寄せてきた。



「ねえ」

「ほら」



 少し間を置いて、名香がこちらを見る。

 カレーにソースをかけるのは邪道だと思いながらも、それを手渡した。



「やだっ……。

 目で通じ合ってる! もう完璧に夫婦じゃない!」


名香の母親が目を輝かせた。




「えっ!? ……そ、そうかな?」



 名香が顔を赤くする。

 視線を泳がせ、同意を求めるようにこちらを見るが、俺は無視した。


 もっとも、実質的にはそうだ。


 名香との仲は、地球では一か月と少し。

 だが、異世界では二十五年を超える。


 二度目、三度目、四度目の異世界では、隠遁生活を送ってきた。

 男女二人一組という都合上、初めは恋人として、やがて夫婦として扱われた。


 それを否定することはなかった。

 そういう暮らしを送ってきた。


 実を言うと、とっくの昔に互いの名前で呼び合う関係になっている。



「じゃあ、じゃあ! お孫ちゃんも、もうすぐ?」



 柚葉の母親が嬉しそうに手を叩く。

 俺のスプーンは、そこで止まった。



「い、いや、その……。が、頑張っているんだけど……。」



 柚葉は言い淀んだ。

 申し訳なさそうな視線がこちらに向けられる。



「えーーっ!? えーーっ!? えーーっ!?

 どういうこと? もうシちゃってるんでしょ?」

「う、うん、まあ……。し、シちゃってるというか……。」



 たまらず目を伏した。



「止めなさい。今は食事中だ」



 救いの手を差し伸べてくれたのは、柚葉の父親だった。




 ******




「英雄君、酒は?」

「飲めます」



 縁側に座布団を敷き、柚葉の父親と並ぶ。

 夜空には三日月が浮かび、杉の木が風にさわさわと音を立てていた。



「ふっ……。いつか、息子と飲むのが夢だったんだ」

「……いただきます」



 グラスに注がれたウイスキーに口を付ける。

 気づけば、敬語になっていた。



「えっ!? ……そ、そんな大胆なことを?」

「女は度胸よー? お父さんだって、好きなんだから」



 台所で洗い物をする声が聞こえる。


 俺たちの間に沈黙が落ちる。

 柚葉の父親が、何か言いかけては飲み込んでいるのが分かった。



「柚葉の剣は、お父さんが?」



 前々から気になっていたことを尋ねる。


 柚葉の剣は、我流ではない。

 長い年月で磨かれた術理が、確かに刻まれている。


 こういったものは、剣を握った初期に身につく類のものだ。

 それを教えられるとすれば、柚葉の父親しかいないと俺は踏んでいた。



「ああ……。そうだ。昔は、剣聖と一応呼ばれていた」

「やはり、異世界から?」



 同時に、柚葉の父親が日本人ではないことも察していた。

 立ち居振る舞いの端々に滲む猛者の気配は、平和な日本では得られるものではない。



「……国を滅ぼされた、無能な元王子だよ」



 柚葉の父親がグラスを軽く回す。

 からん、と氷が鳴った。



「でも、妻が気に入ってくれてね」


「結局、こうして生き汚く暮らしている」



 笑っているのか、自嘲なのか分からない声音だった。



「いえ……。立派なことです」



 上手く言えなかったが、本心だ。


 少なくとも、柚葉が救ってきた数々の世界がある。

 それは偉業と言っていい。


 そして、それは柚葉の父親がいなければ始まっていない。



「これを……」



 唐突に、柚葉の父親が錠剤が詰まったシートを差し出した。

 白い錠剤が二列に並び、合計で十二錠。



「アメリカのすごい薬だ」

「……へっ!?」



 思わず声が裏返る。

 意味が分からない。



「実は、柚葉から聞いている。

 夜が駄目なんだってね?」

「ち、違っ……」



 しかし、その言葉で理解した。

 即座に否定するが、視線が泳ぐ。



「どうか、柚葉を怒らないでやって欲しい。

 散々悩んだ挙句、私に相談したはずだから……」

「……は、はい」



 今すぐ柚葉の元へ駆けていき、襟首を掴んで思いきり揺すってやりたかった。

 だが、真っ直ぐな目で見つめられては、頷くしかなかった。



「だが、一錠で効く。

 妻は旺盛でね。私自身、何度も頼っている」



 重い言葉だった。

 気まずさに視線の置き場を失い、何も言い返せない。


 薬のシートを受け取り、胸ポケットへと収めた。



「ただ、柚葉はまだ高校生だ。

 異世界で、どんなに年齢を重ねていようと……」


「柚葉も、妻もそれを望んでいる」


「だが、世間体がどうしても悪い。

 ……私自身の体験談だ」



 重い言葉が、さらに重ねられた。


 おそらく、柚葉の母親は三十代前半。

 柚葉と並ぶと、歳の離れた姉妹にしか見えない。


 そこから逆算すれば、おおよその出産時期が分かる。


 一方、柚葉の父親は四十代前半。

 異世界なら、ありふれた年の差婚で、適齢期でもある。


 しかし、現代日本では世間の目が厳しい。

 この家の生業が神社であることを考えれば、なおさらだ。



「だから、柚葉が高校を卒業するまで待ってくれ!

 その間、君たちは何度も異世界召喚され、苦労をかけるが……

 この通りだ! 頼む!」



 柚葉の父親が向き直り、頭を下げた。

 両手を突き、額を廊下に擦り付けて。



「……ど、努力します」



 俺は顔を引きつらせ、やはり頷くしかなかった。





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