第11話 喝采せよ、魔王を
「敵将、ゴドなんとか!
ユズハ・ナカが討ち取ったり!」
名香はミノタウロスの亡骸に右足を乗せ、その首を掲げて吠えた。
その瞬間、戦況が一変する。
人間たちは歓声をあげ、防衛から一気に攻勢へ。
モンスターたちは武器を投げ捨て、我先にと逃走した。
「突撃、突撃、突撃っ!」
「ゴブッゴブウッ!」
「ユズハ殿に続けえええええっ!」
「コ、コボッ……。コボオッ!」
もしや、名香は少数精鋭の勇者パーティのみならず、集団戦の指揮経験があるのだろうか。
魅せ方をよく分かっている。
特に、ミノタウロスの亡骸に右足を乗せた点は秀逸だ。
「おら、おらっ! 今までのお返しだ!」
「オクオクオォォォッ!」
「守るんだ! 俺たちの街を守るんだ!」
「キャイン、キャインッ! クゥーン……。」
今の名香は、異世界召喚などなければ、ただの買い物帰り。
淡いピンクのミニスカート姿。
その白く細い足を見て、男どもはこう思うだろう。
あんな女の子に、負けてなるものか、と。
自身が女であることを最大限に利用した、見事な掌握術だ。
ならば、魔王としての矜持にかけて、俺も負けてはいられない。
「数多の波長を束ね、破壊の極点へ!」
頭上で人差し指を立てて、中指と親指を弾く。
パチリと乾いた音が鳴り、人差し指の先が周囲の光を集めて輝きだす。
「光よ! 集いて、今ここに裁きを下せ!」
やがて、それは小さな光の点になった。
晴天の下の明るさは、かすかに暗くなっている。
誰かが、息を呑んだ。
俺は右手を振り下ろし、遁走する前方のモンスターたちを指さす。
「プラズマ・リニアレイ!」
白色の細い光線が放たれる。
音が、消えた。
その直線上にいたモンスターたちは、己の死を自覚する間もなく、存在ごと削り取られた。
「はっはっはっはっはっはっはっ!」
続けて、指先を左へと振り、右へと戻す。
俺の軌跡に追従するように、光が帯となってなぎ払われた。
「うーーーん……。やっぱり魔法ってズルいよね」
一呼吸の間の後、地平の彼方で土煙が天高く立ち上る。
さらに一呼吸の間の後、その衝撃に遅れて、小石がぱらぱらと降ってきた。
名香の羨ましさが滲んだ評が心地よかった。
前方は草木も影もない更地。
その見通しの良さもまた実に心地よかった。
「んっ!?」
ところが、場はシーンと静まり返っていた。
先ほどまでの雄叫びも、武器のぶつかる音も、何もかもが嘘のように消え失せている。
風が吹き抜ける音だけが、やけに大きく耳に残った。
眉をひそめ、眼下を見下ろす。
名香以外の者たちは、揃いも揃って動きを止めていた。
剣を振り上げたまま固まる者。
逃げかけた足を半端に止めている者。
槍を突き出したまま、息すら忘れている者。
全員が、ぽかんと口を開け、俺を見上げている。
恐怖とも、困惑ともつかぬ視線。
戦いの熱が、一瞬で冷えきったのが分かる。
俺は甚だ不満だった。
「どうした! 何を呆けている!
喝采せよ! 偉大なる魔王を讃えよ! はっはっはっ!」
俺は高笑いをあげる。
開いた両手をゆるく持ち上げ、二度、三度と揺らす。
『湧け』とジェスチャーした。
「……魔王?」
「どういうことだ?」
「魔王が……。俺たちの味方?」
しかし、思っていた反応が返ってこない。
皆、俺を指差し、ひそひそとした呟きがざわめきへと変わっていく。
カラーンと、誰かが剣を落とした音が響いた。
解せぬ。
俺が首を傾げた次の瞬間。
「馬鹿! それは秘密!」
上空、約十メートル。
そこにいる俺の目の前まで、名香が一気に跳んできた。
目にも止まらない速さで、脳天にチョップが振り下ろされる。
「ぐえっ!?」
そのまま地面に叩きつけられた。
「違う違う! この人、マ・オーって名前だから! 紛らわしいよねー!」
この女、本当に度し難い。
いつか、ぎゃふんと言わせてやる。覚えていろ。




