第67話 追憶の断章 難解な三択問題
王都ルーン・ヴィークは、天から舞い降りる粉雪によって白銀の静寂に包まれていた。
街の至る所には、万物の根源たる「創世至高神エテルナ」を讃える装飾が施され、魔導の理を司る「父神ゾル」と慈愛の「母神ルナ」に祈りを捧げる鐘の音が響き渡る。
「神聖聖誕祭」――
一年の終わりに神々の加護を感謝し、家族や大切な友と過ごす特別な季節。
エリカにとっても、この冬はいつになく賑やかなものになりそうだった。
「エリカ、今年の冬休みも当然、私の家に来てくれるわね?」
セレナが、詰め寄るような勢いで招待状を差し出した。
「うちの領地の雪景色は王都よりずっと綺麗よ。お姉様も帰ってくる予定だし、絶対に楽しいわ!」
「待ちなさい、セレナ」
ファミールが冷徹ながらも熱のこもった声で割って入る。
「エリカの知性は、静かな環境でこそ育まれるものよ。我が家の書庫には冬の期間だけ開示される魔導原典があるわ。エリカ、どちらが有意義か、あなたならわかるわね?」
春休みの「5泊ずつ」の成功を経て、二人のエリカへの招待はさらに熱を帯びていた。
そんな中、放課後の教室で王子レオンハルトが静かにエリカへ歩み寄った。
「エリカ、少し時間をいいかい。今年の聖誕祭、王宮で小規模な舞踏会を催すんだ。他のクラスメイト数名にも声をかけている。君も……どうか、来てくれないだろうか」
彼はあくまで「クラスの交流会」という体裁を保っていた。
女王からの極秘指令であるエリカの保護を果たすため、そして何より彼自身の純粋な友人としての願いとして。
「王族主催とはいえ、堅苦しいものではない。君が一人でいると、また同級生たちが無用なちょっかいを出すかもしれないからね。僕の目が届く場所にいてほしいんだ」
自室に戻ったエリカは、机に並んだ三通の招待状を前に頭を抱えた。
「どうしよう……どれも選べないわ……」
セレナとファミールの誘いは、親友としての温かな時間だ。
しかし、王子からの誘いは重みが違う。
クラスメイトと一緒とはいえ、王族からの招待を無碍に断ることは失礼にあたるし、何より一度王宮の会場に入れば、途中で中座してセレナたちの家へ向かうことは不敬なことこの上ない。
中座は、ほぼ不可能だ。
「目立たないように成績も落としているのに、王宮へ行ったら余計に注目を浴びちゃうかも……。でも、王子様があんなに親身になってくれているのに、お断りするなんてできないし」
魔法の難問さえ一瞬で解く「魔法学園の至宝」も、友情と社交の複雑な方程式には正解を見出せず、窓の外に積もる雪を見つめて深いため息をつくのだった。




