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第60話 追憶の断章 断罪

 冬休みが明け、学園の女子寮に届いた一通の公的な封書。

 エリカはそれを食堂の隅で開き、思わず絶句した。

「……『聖都北東警護騎士団駐屯地より。通達。聖誕祭の夜に身柄を拘束された盗賊団10名は、特別な審理の結果、全名が極刑に処されました。なお、アジトから没収した財産の3割が被害者である貴女に譲渡されるため、20日以内に駐屯地へお越しください』……えっ、死刑……?」

 エリカが震える手で手紙を読んでいると、背後から二つの影が忍び寄り、満足げな笑みを浮かべた。

「あら、仕事が早いわね、お父様」

「私の家の方も、尋問のスペシャリストを送り込んだ甲斐があったわ。当然の報いね、エリカ」  

 ニヤニヤと笑うセレナとファミール。

 二人は冬休み中、宣言通り直接父親に掛け合い、エリカを傷つけた賊への「徹底的な処罰」を確約させていたのだ。


 教室に入ると、エリカの異変に気づいた男子クラスメイトたちが次々と集まってきた。

「エリカ、聞いたぞ! 聖誕祭の夜に賊に襲われたんだって!?」

「大丈夫か? 怪我はないか? 許せない……淑女を、それも僕らのクラスメイトを襲うなんて!」  学園に通う男子たちは、ほとんどが将来の騎士や魔導師を約束された貴族の嫡男たちだ。

 幼いながらも「弱きを助け、女性を守る」という紳士教育を叩き込まれた彼らにとって、同級生であるエリカへの暴力は自分たちのプライドへの冒涜でもあった。

「その賊はどこだ! 僕たちがこの手で成敗してやる!」

「そうだ、僕の家の私兵出してもいい! 徹底的に叩き潰してやるぞ!」  

 憤慨し、机を叩く少年たち。

 その熱気に、エリカはタジタジになる。


「あ、あの……みんな、ありがとう。でも、その……」  

 エリカが言い淀むと、隣でセレナが腕を組んで付け加えた。

「残念ながら、あなたたちの出番はないわ。もう彼らはこの世にいないもの。ねえ、ファミール?」

「ええ。死の直前まで、たっぷりと自分たちの罪を悔いてもらったわ」  

 二人のあまりにも冷徹な、そして確信に満ちた言葉に男子たちは一瞬言葉を失う。

「……え、もう終わったの?」

「というか、セレナたちの家が動いたのか……それは、恐ろしいな……」  

 殺気立つ男子たちと、既に報復を終えて涼しい顔の親友二人。

 その間でエリカは、「もう大丈夫だから、落ち着いて!」と誤解を解き、少年たちの騎士道をなだめるのに必死だった。

 

 午後の講堂。

 教壇に立ったのは、学園最高齢であり、防御魔法の権威として知られるオズワルド・フォン・グラングラム先生だった。

「静かに。まもなく年間統合テストを行う。実地試験は、生徒同士の模擬戦だ。安全のため、我々教員が各生徒に多重展開の防御魔法を付与し、その上から魔法を撃ち合ってもらう」  

 生徒たちが「よし、やってやるぞ」と意気込む中、グラングラム先生はエリカを指差した。

「ただし、エリカ・ヴァイン。君だけには、試験を外れてもらう」

「えっ……!?」  

 教室内が騒然となる。

「フェアじゃない!」

「エリカの成績はどうするんだ!」と男子生徒たちからブーイングが飛ぶ。

 しかし、グラングラム先生は首を横に振り、苦笑した。

「諸君、勘違いするな。エリカを失格にするわけではない。……私の最強防御魔法『アルティアナ・シルト・ガイスト』(女神の精神盾)でも、エリカの魔力を防ぎきれんのだ。彼女が全力で撃てば、私の魔法など紙切れ同然に貫通するだろう。……つまり、彼女に魔法をぶつけられる側の生徒を守れる保証が、今の教員にはない」

 静まり返る教室。

 学園最強の防御魔導師が、九歳の少女の魔力を「防げない」と断言したのだ。

「それでも――」  

 先生は鋭い視線で教室を見渡した。

「それでも、エリカと模擬戦をしてくれる者はいるか? 彼女の純粋な魔力と真っ向から対峙し、己を試したいという者は」

 エリカは困惑し、スカートの裾を握りしめた。 

 賊を焼き払ったあの紅蓮の火柱――『フレン・ヴァルム・ブラスト』。

 自分の内に眠る巨大な力が、今、学園中の注目を浴びようとしていた。


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