05-5
目を見つめれば逸らせない。そうやってみんな死んでった。
「回収装置がなぜこんなに数が少ないか、わかるかい?」
相も変わらず、釣れもしないクセに釣り竿を海に垂らしながら、パラティリティスはこちらに問う。
「あいつらは特別殺傷能力が高いわけじゃない。見た目に多少の変化は生まれても、あれはいわば他人の記憶に呑まれてしまっただけの、ただの人間だ。筋力やその他の能力値が底上げされるわけじゃあない」
長い髪が海風に揺れる。夕日が、目の前の人物に影を落としていく。
「任務に就く以上、いずれは『あれ』と遭遇することになるだろうし、最悪の場合戦闘は避けられない」
そう言ってこちらを振り返る顔に、いつもの微笑みはない。
「気をつけることだ。できるだけ、彼らの目を見ないように」
「(そうは言われても難しい訳だが…)」
昔パラティリティスに言われた言葉を思い出しながら、セオは目の前の相手と対峙する。なるべく目を見ないようにしつつも、相手の動きを注視する。
回収装置は基本的に単独行動だ。そのため、たしかに一人でユラギビトと当たれば、中々難しい状況に追い込まれる。無力化し、なおかつ引っ付いた記石を分離させなければならないのだから。
しかし。
「ルカ!!」
こちらは今二人である。
姿を隠し、ユラギビトの背後に構えていたルカが、セオの合図とともに姿を現し、そのまま相手を羽交い締めにする。
「おりゃああああ!!」
「!?」
背後の気配に気づくことのなかったユラギビトは、そのまま背後に倒れジタバタと暴れるが、ルカは振り解かれることのないよう力を加え続ける。
「兄さん!!」
「分かってる!!」
一突き。セオはそのまま、相手の胸元目掛けて短刀を突き立てた。
「グアアアア!」
ユラギビトは声を上げると、そのまま全身の力が抜け、パタリと動かなくなった。
「はあ…はあ…」
「な、なんとかなった…?」
短刀を突き立てたまま、息を吸っては吐いてを繰り返すセオと、安堵の声を漏らすルカの声が、部屋に響く。
初めて、人を刺した。
「ああ…これで…っ!?」
「ガアアアアア!キオク!!」
再び動き出したユラギビトは、ルカが安堵して脱力させてしまった隙をつき腕をすり抜けたかと思うと、短刀が刺さったままの体を動かし、目の前のセオの頭を地面に叩きつけた。
「ガハッ!」
「兄さん!」
このっ!と殴りかかろうとするルカに気づき、ユラギビトはルカを見つめる。
──相手を無力化しようとする人間ほど、よく相手を見る。
「あっ…アッ…」
ユラギビトと目を合わせてしまったルカは、そのまま動かなくなり、息が浅くなっていく。
「アアッ…あっ!」
「ルカッ!」
そのままその場に跪いてしまったルカにセオは叫ぶが、頭を押さえつけられてしまったままで、体を起こすこともできない。
「ルカ!目を見るな!!ルカ!!」
ルカは目をそらすことができない。兄が何か言っていることは分かるが、言葉が入ってこない。
コトバが言葉にならない。
知らない誰かの記憶が入ってくる。
「あああっ!!ああああっ!!」
頭の記憶を覗かれている?これは??記憶が、キオクが!
「いやだああああああああ!!」
「ルカああああああああああああ!!」
──刹那、背後の窓ガラスが勢いよく割られる。
その勢いと共に中へ侵入してきた黒い塊は、セオからユラギビトを引き剥がし、刺さっていた短刀を足で深く突き刺す。
「ギェアアア…!アアア…」
叫び声とともに、ユラギビトは再び動かなくなり、体にあった石のかけらが消えていく。
髪も元の色に戻り、ポトリと記石が転がり落ちた。
「突き刺す深さが浅すぎる」
チッと舌打ちをして、その黒い人物はこちらを振り返る。
黒い上着を身に纏った、白い翼を持つ女。
「『白鴉』…」
月明かりも届かぬ部屋。
周りの街灯たちによってかろうじて明るさを保つ部屋は、今度こそ静寂に包まれた。
お疲れ様です。柏田です。
最近夜は冷えますね。皆様体調には十分お気をつけて。
ステリーようやく出せました。嬉しい。
こんなに戦闘?というかちょっとした諍いを書くことになろうとは思わなかったので苦労しました…戦闘シーンさらっと書けちゃう人すごい…精進せねば。
いつも本当に皆様ありがとうございます!!これからも応援していただけますと幸いです。
それでは。




