05-4
ついに遭ってしまったか。
「…?」
鍵を開けると、部屋の奥から微かに感じる人の気配。おかしい。ここはもう人は住んでいないはずだ。それにこの感覚…
「(一旦部屋を出るか…?)」
そう思い、セオはドアを閉めようとする。が、
「兄さん早くしてよ!」
というルカの声にギョッとする。咄嗟にルカの口を塞ぎ、部屋の住人?の気配を追う。
どうやらこちらに気づいた様子はなく、奥からこちらに向かってくる音もない。
そのままそっと外に出て、セオは家の扉を閉めた。
ルカの口から手を離すと、ルカはブハッ!!と息をし、セオに怒りと困惑の目を向ける。
「ちょっと兄さん!何のつもりさ!?」
「…中に人がいた」
「え?」
兄の言葉に、ルカは驚いた顔をして扉を見つめる。
「…不法侵入ってこと?」
「…たぶん違う。中にいる人間の気配には、別のものも混ざっていた…と思う」
「気配って、なんの?」
そう問われ、セオは口を噤む。遠くにいたので微かにしか感じられなかったが、あれはおそらく。
「記石を回収するときに感じるものだ」
「!?それってまさか」
「ああ、あまり考えたくはないが」
そう言って、セオはルカを見つめる。その目には、やはり困惑と、また面倒なことに巻き込まれてしまったというやりきれない思いが乗っていた。
「どうやら、考えうる限り最悪の状況が起きているらしい」
再び扉を開ける。今度は慎重に、なるべく音をたてることなく。
そのまま対象の部屋に忍び寄り、中の様子をうかがう。
わずかに開かれている扉の中、気配の対象はやはりこちらに気づいていないらしく、ただ立ちつくしている。だが、より対象に近づいたことで、やはり自分の感覚は間違っていなかったことをセオは悟る。
…手が震える。いつか、こういう日も来るだろうとは思っていた。一緒に任務についてまわった回収装置も、「必ず相見えることになるから覚悟はしておけ」と言っていた。それが今日だとは。
震える手を握りしめ、ルカに視線で合図を送る。ルカも不安げな顔をしているが、同様に覚悟を決めたらしい。
スライド式のドアをゆっくりと開け、部屋の中に入る。対象はまだこちらを見ない。その出で立ちから20代ほどの男性らしいことは分かる。
「…ここで何をしているんですか」
念のため、丁寧に語りかける。まだ意識が残っているかもしれないからだ。できれば残っていてほしい。そうすればまだ、どうにかすることができるかもしれない。
「…窓をね、見ているんです」
男は相も変わらず、こちらに視線を向けることなく話し始める。
「夕焼けが、見たくて」
薄暗い部屋の中、男は呟く。ここから夕焼けは見えない。立地的に、いつの季節もこの部屋の窓からは夕焼けなんて見えないはずだ。
「苦しいとき、夕焼けを見て、泣いて、アイスを食べました。それがまた、情けなくて」
「それは貴方の記憶ですか」
セオは冷静に言い放つ。言いながら、背中に右手の甲をつけ、意識を集中させる。
「記憶。キオク…」
男の様子が変化していく。体中にポツポツと、石のかけらのようなものができていく。それはまるで夕焼けのような、美しい茜色。
──ああ、間に合わなかった。
「キオク、キオク!!キオクキオクキオクキオクウウウウウウ!!!!!」
うめき声とともに男の髪は上から上書きしたように真っ白に染まる。
こちらにゆらりと向けられた目は、路傍の石のように無機質ななにかに変わっていた。
ユラギビト
そう名付けられた、記石に当てられてしまった人が行き着く、最後の姿。
早めに記石を回収しなければならない理由でもあり、多くの回収装置を殺してきた存在。
「やるしかないよな」
口をついた冷静な言葉に、セオ自身も驚く。
なってしまったものは仕方がない。なるべく目を合わせないように、速やかに無力化しなければ。
背中にやっていた右手を黒い霧が覆う。それを握りしめれば、それは短刀の形となり、その場に顕現する。
光を反射しない、霧がかった刃を対象に向ける。
できれば無傷で帰りたいと、心の中で祈りながら。
お疲れ様です。柏田です。
お待たせして申し訳ありません。
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