04-5
さすがに話をする必要はあるみたいだよね。
再び二人が目を開けると、先ほどいた家主の部屋に戻ってきていた。正確には、意識が戻って来たと言うべきか。
「…」
「…お前なあ…」
セオの感情はもはや、怒りというよりも呆れや疑問になっていた。俯いたまま動かないルカの顔を覗き込み、様子を窺う。
「…そんなに泣いてるの久々に見るんだが」
「…え?僕泣いてる?」
どうやら気づいていなかったらしいルカは、そう言って己の目元を袖で拭う。「うわほんとだ」と言いながら、自分自身もよく分からないですという表情をセオに向ける。
「兄さん、これ…」
「…回収対象の感情が強く流れ込んでくることは別に珍しいことじゃない。でも正直、お前レベルに共鳴するやつは珍しいんじゃないか?」
「共鳴…」
「恐らくな。さっきの動揺も思考が流れてきたことによるものなんだろうが、細かいことは分からん。やっぱり一度任務が終わったら、パラティリティスに会いに行くしかなさそうだ。この件もどうせ観測してるんだろうし」
石を拾い上げ、鞄にしまいながらセオは言う。ルカには何が起きたのかさっぱりだったが、やはり何か、引っかかるものがあった。
「さっき流れてきたのは、多分石の持ち主じゃなくて、あのコムギっていう犬のものだと思う」
ルカが思い出すのは、あの時の犬の目。
まるでこちらに何かを訴えかけてくるような、少し潤んだ瞳。
気のせいで済ますには、あまりにも切実な感情の波のようなものが自身に強く流れてきた感覚を、ルカは思い出す。
「…それで。仮にそうだったとして、その犬は何を求めてたんだ?今の所在も分からないってのに」
そもそも、石の持ち主ではない者の感情が流れてくるなんてこと、今まで一度もなかった。加えてそんな事象も教わっていない。それにセオからすれば、回収任務そのものは終わったのだから、ルカの様子と諸々の事象を早くパラティリティスに報告したかった。…できれば犬も探してやりたかった。
兄の急かすような言い方にルカ自身も頭を捻らせる。
「うーん、なんかいろいろ一気にぐわああって流れてきたから、鮮明には分かんないや…でも気になるな…」
うーんうーんと唸るが、やはり考え付かなかったのだろう。「分からないや…」と肩を落としてしまった。
「…まあ、任務は終わったんだ。犬が今どこにいるかだけは軽く調べようと思ってる。野良とかになってたらさすがにまずそうだからな」
それが終わり次第帰るぞ、と言う兄の言葉に、仕方ないか、とルカも頷く。正直まだ考えたい気持ちは山々だし、実際まだ往生際悪く頭を働かせている。
「(こいつ課題やってる時でさえこんな真剣な顔しなかったってのに)」
珍しく真面目な顔をする弟に、まだまだ知らない一面があるなとセオは人知れずそう感じるのであった。
ふと、ルカがベランダから外を見つめる。本当に何となく目をやっただけであった。
窓からは、荒れ始めている小さな畑と、先ほど見かけたケージ。ケージの中にあるおもちゃは、先ほど記石回収をした際、犬がカイキシャと遊んでいたものだ。他のおもちゃは家の中のあちこちにあったが、あれだけは何故か、いつも繋がれていたであろう外にある。
「…あ」
もしかして。
そう思った時、一台の軽自動車がこちらに向かってくるのが見えた。
「兄さん!」
「ああ、さっさと出よう」
変に人目に付くと厄介なことになる。玄関から出ると見られてしまう可能性がるため、別の部屋の目立たない窓から外に出る。
そのまま裏手に降りこの場を離れようとするが、ちょうど軽自動車が家の前で止まり、中から50代半ばの男性が姿を現す。
こちらには気づいていないようで、そのまま玄関付近をうろうろしている。
「あの人たち誰だろう…?」
「さあ、とにかくここを離れるぞ」
セオの呼びかけにルカも同意しようとすると、男性は携帯を取り出し、誰かに電話をかける。
「うーんやっぱ誰もいないみたいだぞ?爺さんの気のせいじゃないかね?」
どうやら、自分たちがうろついているのを誰かに目撃されてしまったらしい。そこそこ山奥にも関わらず、しかも鳩で来たというのになぜバレたんだ。田舎の監視網はどうなっているのか。
セオが若干恐怖しながらそんなことを考えていると、その男性は聞き覚えのある名前を呟く。
「コムギもずっと鳴き止まないし、どうなってるんだかね…最近ようやっと我が家になれたと思ったんだが」
「え!?コムギ!?!?あっ…」
ずっと気になっていた該当者の名前に、ルカはつい大声を上げ、男に姿を見せてしまう。
やってしまった、というルカの顔を、男性はぽかんとした表情で見つめる。
「…お前さん一体…?」
警戒の籠った声で問う男性と助けを求めるルカの顔に、セオは面倒くささと呆れで盛大なため息をつくのであった。
お疲れ様です。柏田です。
04ももうすぐ終わりです。相変わらずゆっくり進めていっておりますが、見守っていただけますと幸いです。
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それでは。




