04-4
回収装置にできること、か。
「お前なあ!?何考えてんだ!!石に触れてるときは近づくなっていつも言ってるんだろ!」
いつになく怒りに満ちた顔で、セオはルカを見つめる。
「ごめんよお、肩に葉っぱついてたから取ってあげようと思って…」
シュンとするルカの顔に色々言いたいことはあったものの、一旦は怒りを鎮める。
記石は本来一人が石に触れて回収するもの。複数人が触れると、それだけ思念が混線し、上手く回収することができなくなる。
俗に言うタブーな行いであると、パラティリティスから教わっていた。
「下手したら石に触れたまま二度と目覚められないかもね〜」と言われたときは、二人で肩を震わせたものである。
「…まあ何ともなさそうでとりあえずはよかったが、肝が冷えたぞ…」
「ごめんよ…」
「いいか、二度とするなよ。とりあえず回収終わったら、一旦パラティリティスに相談して──」
へっへっへっへ
「「?」」
何やら何そぐわない音?の方向に、二人は顔を向ける。
へっへっへっへ
「うわっ」
セオの足元には、写真で見たものと同じ犬がキラキラした目でこちらを見ていた。
「わー!可愛い!!僕らのこと見えてるのかな?」
「…いや、多分こっちだな」
セオが苦笑して足をどける。そこには、先ほどの家で見かけたおもちゃがあった。
犬は嬉しそうにそれを散り上げると、反対側ヘと走っていく。
「…さっき目合ってなかった?」
「そうか?気の所為だろ」
「ええ…?」
そうかなー?と首を捻るルカを横目に、犬が走っていった方向に歩き出す。
「おおー!よしよし!良い子だなーコムギ!気に入ってくれたか!新しいおもちゃ!」
満面の笑みで、コムギと呼ばれた犬を撫で回す男。黒いスーツが毛でとんでもないことになっているが、そんなことはお構いなしのようだ。
「ほら、この男が今回の石の持ち主だ」
二人は男の側に近寄り、様子を見守る。
「本当にこっちには反応しないんだね…?」
「もう死んでるんだ、当たり前だろう。時々思念が強いやつとか勘の良いやつはこっちの存在を感知するらしいがな」
「ふーん…」
相も変わらず撫でられている犬は、相も変わらずこちらを凝視している。まるで遊び相手が増えたことを喜ぶような視線に、ルカはもう一度尋ねる。
「……やっぱり目合ってない?」
「だから気の所為だって」
そんな軽口を叩いていると、男はポツリポツリと何かをつぶやき始める。
「本当にありがとうなあ。いつもそばにいてくれて。お前だけだよ、もうこの家で一緒にいてくれるのは」
男は犬を抱きしめたまま続ける。
「親父に続いて、とうとう母さんまで逝っちまった。今日親戚連中からもまた言われたよ、あんな辺鄙な山さっさと降りろって」
男は苦笑する。黒いスーツだった理由を、何となくセオは察した。
「やれ遺産がどうの分け前がどうの、こういう時ばっか偉そうに物を言うんだ。誰一人盆にも正月にも顔見せなかったクセによ…この家を愛してるのは、俺だけなのか」
だんだんと声に力がなくなっていく男の頬を、コムギはペロリと舐める。
「ははっ。慰めてくれてるのか。ありがとうなあ」
男の目に、少しずつ涙がたまる。
「ありがとう。お前はあったかいなあ」
あったかくて。愛おしいなあ。
犬は飼い主の様子を伺った後、こちらをじっと見つめる。一体どこを見つめているのかはわからない──というか気づかないふりをしている──のだが、その様子をこちらも見つめ続ける。
回収装置ができることは、精々見守ってやることくらいだ。それ以外、何もできやしない。
「…」
この男は、本当にこの犬を大切に思っていたのだろう。きっとこの先をずっと願うくらい。
目の前が明るくなっていく。どうやら石の回収作業はこれで終わりのようだ。そのまま目を瞑るようルカに言おうとしたとき、
「…待って」
ルカが光の方に歩いていく。
「待ってよ!兄さん!ちょっとだけ時間止めたりできないっけ!?」
「は!?なん…で…」
涙。
ルカの目には、今まで見たこともないくらいの大粒の涙がたまっていた。
「あの子、何か言いたいみたいなんだ!!聞いてあげないと!」
「あの子?何意味わかんないこと言ってんだ!!無理に決まってんだろ!!」
「でも…!」
普段とは明らかに様子の違うルカに困惑しながらも、セオは必死に引き止める。
「兄さん離して!」
「一旦冷静になれ馬鹿!」
目の前が白んでいく。
セオ自身も目を閉じ、ルカの目を手で覆いながら、光に身を委ねた。
お疲れ様です。柏田です。
更新遅くなってしまい申し訳ございません…!ちょっと立て込んでおりました…引き続き呆れず応援していただければと…
今回の石の回収で、どんな変化があるのか。もしかしたら、大したことではないのかもしれませんが、見守っていただけると。
いつも本当にありがとうございます!
感想評価等もお待ちしております。
それでは。




