04-2
あちゃー
家の中は、まだ人が住んでいたような形跡がうっすらと残っていた。建物自体は古いが、よく掃除されているように感じる。
リビングには、恐らく海へ還る日まで使っていたであろうマグカップ。キッチンの冷蔵庫には、まだ新しめの写真がマグネットでくっつけられていた。
写真には、中年の男性と犬が写っており、男性が笑顔で犬を撫でている様子が残っている。
よく見ると、犬が咥えているおもちゃは、先ほどセオが家の外のケージで見たものと同様の形をしていた。
ということは、この写真に写っているのが今回のカイキシャだろうか。
「(だとすると、犬はどこに…?)」
セオはリビングの窓から辺りを見回す。先ほど外に犬の足跡らしきものはなかったし、何より主人が亡くなってからある程度時間が経ってしまっている。もしかしたら、もうこの付近にはいないかもしれない。
「…今することでは…ないか…」
犬の行方が気にはなったが、あくまで今は任務で来ている身。
早く石を回収して、その後辺りを探してみよう。
そう思い、一度頭の片隅に追いやると、遠くからルカが「兄さーん!」と呼ぶ声が聞こえてくる。
どうやら二階に記石があったようだ。セオはリビングを出たところにある階段から、二階へと上がっていった。
「床に転がってたよー今回のは小麦色っぽい感じだね!」
足元を指さしながら、ルカはセオに話しかける。
ルカの指し示す場所に、記石はきらりと存在していた。
「…ここにも犬のおもちゃがあるな」
記石に触れる前に、その部屋を一通り見回す。ベッドに箪笥、押し入れ。そして机。
カイキシャの私室だろう。
使い古された犬のおもちゃや、その他ペット用品が置かれていることから、もしかしたら夜は一緒に寝ていたのかもしれない。
「外にもケージあったもんねー!いいなー犬!そういえば昔、近所のおばあさんも飼ってたよね」
「あー『おまゆ』のことか?」
「そう!懐かしいなー!」
久々にこの名前出したな…とセオは物思いにふける。
「おまゆ」は、昔アパートの近所に住んでいた中型犬だ。
飼っていたおばあさん曰く、「眉毛がとっても可愛いのよねー」とのこと。
子供心に「あれ本当に眉毛なのか…模様では…?」と思っていたが、ルカはあっさり信じていた。
たまにおまゆに会いに行くと、おばあさんがたくさんおやつを持たせてくれた。それを頬張りながら、二人で帰路に着いていた日々を懐かしむ。
「(なんで忘れてたんだろうな…)」
セオはそこまで考えて、そうか、と思い出す。
おまゆはその後、亡くなってしまったのだ。寿命による衰弱死だった。元々会った頃にはかなり高齢だったのだ。
「もう…あの眉毛を撫でることも出来ないのね…」遊びに行った日、そうポツリと呟いたおばあさんの寂しそうな背中。その姿に何故かセオ自身も辛くなってしまい、気づけば記憶の奥底に封じたのだ。
海の裏側に行ったのはそれから数日としない内だったので、多忙による忘却とも言えるかもしれないが。
「そういや、あんときお前すんごい泣いてたな」
「そうだね…話しながら思い出したよ…」
どうやらルカも、しばらくは忘れ去っていた記憶だったらしく、何ともばつの悪そうな顔をしている。
「でも、その後におっさんが話してくれたんだ!『死ぬ』っていうのは遠くに行っちゃうって意味だって!だから寂しくないね!きっとまた会えるよ」
あの時は泣いて損しちゃった!と笑うルカに、セオは少し顔を曇らせる。
…ルカにとって、慎一郎の言葉は救いだったのだろう。
『遠くに行ってるだけなら、そのうち帰ってくるかもしれないじゃん!』
以前ルカが言っていた言葉を思い出す。
でも、それは。
「…あのな、ルカ。それは――」
「あ!それより兄さん!早く石回収しちゃわないと!」
ルカがヤバい忘れてた!と言わんばかりの顔でセオの方を向く。
「…ああ、そうだな」
一体、どうすれば。
「(…いや、今はするべきことをしよう)」
石の前に跪き、いつも通り言葉を紡ぐ。
「(…あれ?)」
ふと、ルカがセオの背中のある一点に違和感を覚える。
左肩の下辺りに、数枚の小さな葉っぱ。恐らく、ここに来るまでに通った道でくっ付けて来てしまったのだろう。
「(しょうがない、とってあーげよ)」
「『カイキする者、その記録を以て汝の心を示せ』」
「兄さん、葉っぱ付いて――」
セオの詠唱と、ルカがセオの背中に触れるタイミングが重なる。
その瞬間、光はセオだけでなく、ルカの体をも包み込んだ。
「うわ!!」
「!?おいお前何して――!!」
そのまま光にのまれ、二人は意識を記石の中へと飛ばした。
お疲れ様です。柏田です。
子供に上手く伝わるよう言葉を紡ぐのって難しいですよね。ふとした言葉が救いにもなるし、呪いにもなる。…まあ大人も一緒ですかね。
続きを楽しみにしていただければ幸いです。
いつも本当にありがとうございます。感想等もお待ちしております!
それでは。




