特別編_2「食事と心」
セオとルカが海の裏側へ来た初日のこと。
「ねえ、もうすぐ日が暮れるしお腹も空いたよ…夜ご飯食べたい…」
ルカがぐう~とお腹を鳴らしながらパラティリティスに訴える。
「あ~そうだね、もうこんな時間か。すぐ用意するから、セオ君を起こしてきてくれるかい?」
「分かった!」
ルカは大きく返事をすると、軽い足取りでセオの休む二階の部屋に向かう。強引な移動手段で酔ってしまったセオは、パラティリティスが用意してくれた部屋で仮眠を取っていた。今日から自分たちが暮らす、新しい場所である。
「兄さーん起きて!さっきの魔法使いさんがご飯作ってくれるって!」
「うーん…」
セオはもぞもぞと布団の中で体を動かすが、一向に起き上がる気配がない。意識はうっすら覚醒しているのだろうが、起き上がるまでにとにかく時間がかかる。
「もうほら兄さん!起きないなら引きずってっちゃうよー」
ルカが何度も声をかけ続け、ようやっと怠そうに体を起き上がらせたセオは、開けきれていない瞳でボーっと虚無を見つめている。
「…今何時だ」
「分かんないけどもう日はとっくに沈んでるよ!早く下に降りよう!ご飯ご飯!」
「…分かったから騒ぐなうるさい…」
目を擦りながら、セオは鉛のように重い体をベッドから降ろし、騒がしい弟と共に階段を下りていった。
「「…」」
「あ、起きてきたね!中々来ないからルカ君も一緒に寝ちゃったかと思ったよ!」
「…なあ、パラティリティス…これって…」
机の上に置かれた「それ」に、二人は驚きと困惑の表情を浮かべる。
「え、夕飯だけど」
セオの問いかけに、パラティリティスはさも当然かのように答える。
机の上、皿に置かれていたのは、生魚。それも丸々一匹。一人一匹ですと言わんばかりに、先ほどセオとルカが座っていた席の前に一皿ずつ配置されていた。
「(…ねえ兄さん、もしかして僕ら試されてる?)」
「(…ああ、もしかしたら何かしらの試験なのかもしれない。どうする?俺たちは何を求められてるんだ…?)」
小声でぼそぼそと話し始めた二人に、今度はパラティリティスが困惑する。
「え、あれ?食べないの??美味しいよ??」
「…回収装置っていうのは、生魚一匹を丸々食べるのか?」
「え、食べないの?」
「食べるかあ!!!」
頭に?を浮かべたパラティリティスをセオは一蹴し、頭を抱える。
「ありゃ?もしかして魚食べたことない?食わず嫌いは良くないよ?早く食べ」
「このままじゃ無理だ。普通は捌くなりなんなりして調理するもんだろうが」
「チョウリ…?」
それって必要ですか?と言わんばかりの顔をするパラティリティスに、セオはただでさえ回復しきっていない体がさらに重くなる心地がした。
「…兄さん…」
「…仕方ない、作るか」
渋々といった形で、セオとルカはうなずき合うと、そのまま調理場へ向かおうとする。
「なあ、キッチン借りてもいいか?」
「いいけど何するの?お茶でも飲むのかい?」
「夜ご飯を作るんだよ!このままじゃ腹が減って倒れちまうから!」
「ご飯ならここに…」
「…あのな、他の回収装置はどうか知らねえけど、俺たちは人に育てられたから、胃袋も人基準になってるんだ。一匹丸々そのまま食えるわけねーだろ」
そう言うと、パラティリティスは驚愕の表情をした後、「…なるほどそうか、そういうものなのか…」と神妙な面持ちでうんうんうなづき始めた。
「…やろうと思えばできたりするのかな?僕たち」
「少なくとも今はそういう気分にはなれないけどな」
「確かに…」とルカも苦笑する。
「さっさと終わらせちまおう」
セオはそう言って、自分の服の袖を折った。
「すごい…中々の出来栄えだね…!それに美味しい!!なんだいこれは!!」
目の前に出された食事を前に、パラティリティスは目を輝かせる。
「料理は人間だけがするもので、私には関係のないものだと思っていたよ!それに以前見たことがあるものより手が込んでいる!」
「…前も見たことあったなら、なんで何かしら手を加えようと思わなかったんだよ」
褒められたことに少々照れつつも、セオは呆れた顔をする。とは言え随分時間がかかってしまった。疲労困憊のまま、ルカと協力して魚を三匹も捌いたのだから当然と言えば当然である。
大家が「覚えておいて損はない」と捌き方を叩きこんでくれていたおかげだ。慎一郎はからっきしだったが。
「だって~さっさと済ませられた方がいいじゃん~それに、本来なら食事とか私必要ないし~」
ぶすくれながら、パラティリティスは煮物に手を伸ばす。美味しいそうに食べる姿を見ると、肩の力が抜けてしまう。
「必要ないのに食事はするんだ?」
ルカがご飯を飲み込んでからそう聞くと、パラティリティスは「う~ん、まあね」と何やら口を濁し、みそ汁に口をつける。
「でも助かったな、俺たちが知ってる食材とか調味料ばっかで」
「そうそう!料理しないのに、なんで冷蔵庫にあんなに物揃ってるの?びっくりしちゃった!」
二人が口々にそう言うと、あ~!とパラティリティスは思い出したように語る。
「ここの冷蔵庫も所謂魔法みたいなもんさ、触れた本人が欲しいと思ったものを取り出せるんだ」
「「何それ便利すぎる」」
二人はいいな~いいな~と冷蔵庫を羨ましそうに見つめる。そんな二人を軽く笑い飛ばしながら、また食事に箸を伸ばす。
「心も体も満たされる…か…」
以前彼女が言っていた言葉を思い出し、確かにそうだなと納得する。
ポツリと聞こえた言葉にセオが「なんか言ったか?」と言うと、パラティリティスは「なんでもないよ」と卵焼きを口に運んだ。
食事の場は温かく、どこか和やかで。でも騒がしく。
パラティリティスは何となく、この日のことも記憶に残るのだろうなと、こみあがる何かをお茶で流し込んだ。
次の日
「調理機能を学んだよ!和食も洋食もどんとこいだ!割と何でも作れるようになったから任せて!」
「昨日今日で何があったんだよあんた」
「魔法使いってすごいね!!」
お疲れ様です、柏田です。
今回は番外編です。
魚を捌ける人ってすごいですよね。後魚料理を難なく作っちゃう人も。
自分はあら汁を作ったことがあるんですが、手間かかりまくりで悲鳴上げた記憶があります(美味しかったです)
食事が作業にならず、心を満たすものであり続けて欲しいなと思います。
来週は本編更新いたします。
引き続きよろしくお願いいたします!いつも見てくださり本当にありがとうございます。
それでは。




