03-4
色んな感情ってやつを久々に味わったよ。
「あーーー疲れたあ!!」
ボフッとベッドにダイブし、ルカが腹の底から疲労の声を上げる。
「毎日机に座って勉強ってだけでもしんどいのに、実践訓練もあるなんてさーーースパルタすぎるよパーちゃん!!」
「それに関しては同意する…さすがにずっとこれが続くとなると中々堪えるな…」
セオはとっくにベッドに体を沈め、今にも眠ってしまいそうな声音で答える。
あれから数カ月。パラティリティスの授業は実に厳しいものであった。内容自体はどれも面白いが、いかんせん量が多い。最初の一週間辺りはこちらの環境に慣れる時間を設けてくれたが、週が明けてからはひたすら座学と実践。「今日教えたことは明日には出来るようにしといてね~」と大量の宿題付き。最初こそ「花丸貰えた!」と喜んでいたルカも、今では「もう花丸いいから宿題無くして」と真顔でパラティリティスに言ってのけるくらいには疲労困憊となっていた。(初めて見る弟の顔に、さすがのセオもぎょっとした)
「まあルカのおかげで宿題減らしてくれたし、前よか少しはマシになったと思おうぜ…」
「まだ全然多いよ!!もう頭パンクしちゃう!!」
「あんま騒ぐな…耳に…響く…」
今にも寝てしまいそうなセオを、ルカは更に大声で叩き起こす。
「ちょっと兄さん!!!寝ちゃ駄目だよ!!!まだ今日の宿題終わってないでしょ!!!」
「…明日する…」
「それで前も起きれなくてパーちゃんからチョーク投げられてたじゃん!?なんか爆発音みたいなの鳴ってたし怖すぎるって!!」
「……大丈夫…案外…いける…」
「何が!?」
あんだけ量こなしてるっていうのに、こいつは元気だな…と呑気な事を考えながら、セオは意識を手放した。
「兄さっ…!あーもう…」
ルカは何とか体を起こし、セオに布団を掛けてやる。
「…僕ももう眠いや…」
さすがにもう眠気が限界だったので、兄にはああ言ったものの、明日の自分が早起きできることを祈って、ルカも眠りについた。
深夜。
何故かパチリと目が覚めてしまったルカは中々寝付くことが出来ず、水でも飲みに行こうと一階へ降りた。
そのまま台所の方へ目を向けると、ほんのりと灯りが廊下に漏れ出ている。
「…あれ、起こしちゃったかな?」
そこにはコーヒーを飲みながら本を読むパラティリティスの姿があった。
「パーちゃん、まだ起きてたの…?」
「そういう君は夜更かし…という訳ではなさそうだ。眠れないのかな?」
そう言うと、座って待っててね、と棚からコップを取り出す。
「何が飲みたい?水でいいかな?」
「…それ美味しいの?」
ルカは先ほどまでパラティリティスが飲んでいたコーヒーを指さす。
「ん~私は美味しいと思うけれど、きっと君にはまだ早いかもね~。眠れないなら、ホットミルクとかにすると良いよ」
「じゃあそうする…」
ルカはそう返答をし、向かいの椅子に座る。
少しして、はいどうぞ、とホットミルクの入ったコップをお礼を言って受け取り、口にする。
甘さと温かさで、体の妙な緊張がほぐれていく感覚を覚え、ルカは更にほっと一息ついた。
「随分疲れさせちゃったみたいだね~」
「ほんとだよ、僕も兄さんも疲れすぎててもう限界」
「ありゃそうなの?それは大変だね~」
パラティリティスは対して表情も変えず、淡々とそう告げる。話をちゃんと聞いているのかさえ分からない。
「…あのさ、前から思ってたんだけど」
「ん?なに?」
「…僕たちのこと、ちゃんと見えてる?」
いつになく真面目な顔で、ルカは問い質す。
「…え?」
突然の突拍子のない発言に面食らったのか、パラティリティスは目を丸くする。
「確かにありがたいと思ってるよ、僕も兄さんも。色々教えてくれて、ご飯とかも食べさせてくれてさ。でも、なんて言うんだろう…そう、僕らっていう『ガワ』しか見えてない気がするんだ」
ルカはパラティリティスを見つめて続ける。
「僕らにも心があって、限界がある。詰め込んだって全部を吸収することは出来ないし、指示した通りにしか動かないロボットでもないよ。…うまく言えないけど…もっと、僕らのこと、ちゃんと見て欲しいな。」
パラティリティスは、驚いた表情のまま、ルカの言葉を聞き続ける。それはパラティリティスにとって予想外の行動であり、予期していないものでもあった。
「あっ、別に甘やかしてほしいって言ってるわけじゃなくて!」
「ごめんね」
ルカの言葉を遮り、パラティリティスは深々と頭を下げる。その行動に今度はルカが面食らってしまう。
「えっどうしたのパーちゃん!?」
「君の言う通りだ。私は、君たちに一通りの教育をさっさと施してしまおうと、そればかり考えていた」
頭を下げたまま、パラティリティスは言葉を紡ぐ。
「君たちのこと、見ているようで見ていなかったんだ。それこそ、詰め込めばすぐに出来るようになってしまうと思った。そうじゃないよね、私と君たちは違う生き物なんだから。その視点が抜けていた。ごめん」
パラティリティスは顔を上げ、ルカを見つめる。申し訳なさが滲んだ瞳に、ルカも慌てて言葉を返す。
「いやそんな謝んないでよ!さっきも言ったけど感謝はしてるからね。ただもうちょっと加減してほしいな~と思って…!」
「…あっはは…」
「?」
突然笑うパラティリティスに、ルカは戸惑う。
「え、今度はどうしたのパーちゃん…」
「いやなに、前々からちょっと思ってはいたんだけど、君意外とはっきりモノ言ってくれるなって思って。セオ君の方が、意外と黙ってこなす性質なのかな?」
「兄さんは小言というか細かいことは一々言ってくるけど大きく反抗しようとかはあんまり思わないと思うよ。だから結構自分を追い詰めちゃう節があるっておっさんも言ってた」
「おっさん…ああ君たちを拾った彼か…。彼はよく君たちを『見ていた』んだね。私も見習わなければ」
そう言うとパラティリティスは立ち上がり、ルカの隣に立つ。
「明日から諸々調整しよう。私はこの通り、ヒトの体力や考えに疎いところがある。これからも何かあれば言って欲しい。正直とても助かるからね」
パラティリティスはそのままルカの頭に手を乗せる。
「ありがとう」
そう言うとコップを水につけ、そのまま部屋を出ていこうとする。
「パーちゃん!」
「ん?」
「ありがとう!」
振り返ったパラティリティスにルカがそう言うと、パラティリティスは目を見開き、そしてなぜか訝し気な目をする。
「なぜ君が礼を言うんだい?何か感謝されることした、私?」
「え、だって話聞いてくれたから…」
「話を聞いただけで礼を?」
パラティリティスはいまいち納得が言っていないようだったが、まあいいかと思い直し、「まあ受け取っておくよ、お休み」と言い残し部屋を出ていった。…かと思えば戻って来て、
「いややっぱりおかしくない?私が礼を言うのはわかるけどなんで君が」
「あーーーもういいからほらっ!明日もよろしく!お休み!」
めんどくさくなったルカは、立ち上がってパラティリティスの背を押す。「あと言っておくけど調整するだけで楽になるとは言ってないからね~」と言い残し、パラティリティスは今度こそ部屋を出ていった。
「…なんかますます疲れちゃった…」
ルカはすっかりぬるくなってしまった残りのミルクを飲み干し、同様にコップを水につけると、自分の部屋に戻っていった。
「…え、ていうか調整するなら楽にしてよ」
「…こんな気持ちになったのいつぶりかな…」
自室の部屋のドアに背をつけ、パラティリティスは頭をかく。
「…これが『照れくさい』ってやつ~?あー良かった。『マザー』と通信切れたままで」
冗談めかしくそう呟き、ルカに約束した通り、明日の授業の調整をするために机に向かった。
己に真正面からぶつかってきた少年に、どこか楽しさも覚えながら。
お疲れ様です。柏田です。
多分後2話くらいで03も終わるかと思います。
ルカは意外と言うときは言う子なので、いざってとき頼りになるなーと思ってます。
普段はセオが中心に話が進みがちなので、ルカのこともしっかり書けて良かったです。
いつも見ていただき、本当にありがとうございます。日々の支えでございます。
ブクマや感想等もお待ちしております。
それでは。




