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16 お願い、死なないでビビルゲリン!

 ケイト・モモムッチーはスンバラシイ逸材じゃった。


「前衛! 勇者様、スジャータ! 左右から敵を押さえて!」


 馬鹿勇者たちは基本全員で特攻だが、彼女が司令塔になって指示を出す。


「セレイナ。敵が魔法使わないなら、あなたは前に出ないで。回復役が真っ先にダメージ受けてどうするの」


 うむ。的確なアドヴァイスじゃわい。


「スジャータ。がむしゃらに突っ込みすぎ。補助魔法待ってから。周囲との連係を忘れないで」


 うむ。その通り。ワシもそう思っておった。


「ハッハーッ! ヒョロガリのチビが仲間に入ったと聞いて心配していたが、なかなかやるじゃぁないか!」


 と、戦わないヤツが申しております。


 説明するまでもない。ビビルゲリンの馬鹿じゃ。


「だが! 聞け! 最終的に戦いを決めるのはパゥワー! つまらん策や、せせこましい魔法じゃ断じてねぇ! 力をパゥワーに変えるのが、パゥワーの力なんだぜぇ!」


 ビビルゲリンのヤツが上腕二頭筋を叩きながら、「パゥワーか力なのかどっちなんだーい」とやってるが、全員「何言ってんだコイツ?」みたいな顔をしとる。


「すっごい頼もしいんですねぇ♡」


 ケイトはお手々を合わせて、キラキラしたお目々でビビルゲリンを見上げおった。


「さっすが、最終兵器(リーサル・ウェポン)♡」


「そ、そうかぁ? まあ、そうでもあるけどなぁ!」


 ビビルゲリンは調子こいて歯を光らせる。


「で、なんで戦わないんです?」


「え?」


 全員が固まる。


「あ、あの、ケイト。実はビビルゲリンさんは……」


「勇者様は少しお静かに。いま、アタシが喋ってまーす」


 ピエルロはゴクッと息を呑んだ。


「フッ。戦え? いいぜ! 皆、なぜか俺を戦わせたがらねぇ! 俺の持つ、大魔神の陰囊玉級のパゥワーに恐れをなしてなぁ!」


 いや、お前が仲間を攻撃するのにビビッとるんじゃい。


「それは楽しみぃ♡ なら、アソコにちょーど、スライムがいるんでぇ、倒して貰えますかぁ? ビビルゲリンさぁん♡」


 ケイトちゃんは、お尻をフリフリさせて言う。


 アァン♡ あのハイストッキングから、もっちりと出てるお肉がたまらぁーん♡


「いや、ケイトさんそれは……」


「危ないよ……」


「ダイジョーブ、ダイジョーブ♡」


 セレイナとスジャータは心配するが、ケイトはニヤニヤと笑っている。


「フン! スライムか! 俺の力を魅せつけるには足りない相手だぜぇ!」


「ふーん。なら、これ使うねェ〜」


「え?」


 ケイトは何やら、腰に差したステッキをスライムに振る……すると、ボンッ! と、青っぽいスライムが爆発した。


「なんだ?! ケイト! お前が倒してしまっては……」


「よく見てくださーい。生きてますよー」


 確かにスライムは生きておった。モウモウとした煙の中から、黄金色のスライムが出てきおった!


「あ、あれは!」


「スライム種の最上位クラス! “成金スライム”!」


 ふむ。どうやら、あれは敵モンスターをレベルアッポーさせるマジックワンドのようじゃの。


 なんかRPGっぽくなってきたわい。


「これなら相手に不足ないでしょ〜? レベルも99だしぃ♡」


「フッ! 面白いぜ!」


 ビビルゲリンは大剣を構えて走り出す!


「おりゃぁッ!!! おくたばりあそばせぃッ!!!」


 思いっきり上段から振り下ろすが、お手々からすっぽ抜けて大剣が馬鹿勇者どもの方へ──


「うわああッ!」「きゃぁぁッ!」「ふざけんなぁッ!」


 3人に直撃するかと思った瞬間、見えないゴムにでも弾かれるように大剣が空中で跳ねて落ちた。


 これは……魔力じゃな。ケイトが魔法シールドを張っておったようじゃ。


「すまんすまん! つい、うっかりな!」


「……うっかり?」


 ビビルゲリンが大剣を拾おうとした時、ケイトが足をで踏みつけてそれを邪魔する。


「何やってんだ、おい。この野郎……」


 ん? 今のドスの利いた低い声……ケイトが発したのか?


「え?」


 ケイトのお目々が……あれ?


 あんな怖い顔してたっけ?


「だからな、手が滑ってしまったんだ! 謝っただろう! 許せ!」


「謝った? 許せ?」


「おう! 次はきっちり仕留め……」


 ケイトは指先をさっきの成金スライムに向けると、氷魔法を放って一撃で仕留める。


 ほほう。最上位スライムを一撃か……なかなかやりおるわい。


「おい。テメェ。大魔王退治の旅、舐めてんのか……?」


 ケイトのお目々が暗く淀んでおる。


「舐めるだと? 誰に向かって言ってやがる! ふざける……」


「うるせぇ! 怒鳴るなぁ!!! ボケカスがァァァ!!!」


 ケイトが、ビビルゲリンよりも大きな怒声で被せて潰す。


「お、おい! そんなに大きな声を出すんじゃねぇ……よ」


 明らかに面食らって、ビビルゲリンもゴクッと息を呑んでおった。


「テメェが大声ださなきゃこっちもださねぇよ」


「テメェって……」


 さしものビビルゲリンも怯んだようじゃな。助けを求めるみたいに、ピエルロの顔を見やる。


「ゆ、勇者よ! お前からも言ってくれ! 誰にだってミスはある! 今回はたまたまだ! こんな一度のミスで、俺の今までの功績は無くな……」


「おい。アタシはテメェと話してんだよ」


 ピエルロが答える前に、ケイトが口をへの字にして下から睨みつける。


「お、俺は勇者のパーティーの一員だ。勇者の命令しか俺は聞かねぇ……」


「ふーん。勇者様、どう思います?」


「え?」


 ケイトの質問に、馬鹿勇者はフリーズする。


「この人を庇いますぅ?」


「い、いや、庇うっていうか……」


「セレイナ? スジャータ? どうなんですぅ? ビビルゲリンさんってぇ、今までパーティーの役に立ったことあるんですかぁ?」


「ない……です」「ないね」


 セレイナとスジャータがお目々を逸らして言い、ビビルゲリンの顔が真っ青になる。


「ゆ、勇者! お、俺はリーサル・ウェポンって……」


「ビビルゲリンさん。正直言って……戦われるの、迷惑でした……」


 苦しそうに言いやがるピエルロじゃ。


「ゆ、勇者……」


 ビビルゲリン。憐れよな。


 完全アウェイみたいな流れじゃった。


 自業自得じゃが。


 馬車の方に救いを求めるお目々を向けてくるが、ワシもボンオドリもお目々を逸らす。


 とばっちりはごめんじゃ。


「ね、わかった? おじさん(・・・・)?」


「ま、待て! 俺は年上だ!」


 あーあ。やっちまったわい。


「……だから?」


「え? だ、だから、もっと尊敬してくれても……」


「あのさぁ、年齢が上だからなんだってぇの? おじさん、その年齢まで“ただ生きてきただけ”じゃないの?」

 

 きっつー。


 いやー、痛恨じゃなぁ。これ。


「い、いや、そんなこと……」


「生きて歳を取るだけなら誰でもできるの。その間に何をしてきたかよ。今の戦闘っぷりからも、見たところ、何の役にも立たない人生を歩んできたんじゃない? 経験値としても、アタシたち以下なんじゃないの? お・じ・さ・ん?」


 もうやめて。


 ビビルゲリンの奴は涙目じゃ。


「尊敬されたいなら、尊敬される年上でいてよね。それができないで、尊敬なんてされるわけないじゃん。勇者様もそう思いますよねぇ〜?」


「い、いや、僕は……」


 ピエルロも、セレイナも、スジャータもなんか気まずそうにはしとったが、内心はそう思っていたんじゃろうから庇うに庇えんってとこかのぅ。


 ん? おや、ビビルゲリンがプルプル震えて──


「お、女のくせに黙っていれば調子に乗りやがってぇー!!」


 充血したお目々に、涙と鼻水を流して、ビビルゲリンは拳を振り上げるが──



 パシャッ!



「“パシャッ”?」


 ビビルゲリンがお目々をパチパチさせる。


「はい。女性に殴り掛かろうとするシーン、いただきましたー」


 いつの間にか、ケイトは小型カメラを取り出し、ビビルゲリンが自分に殴り掛かろうとするところを撮影しおったのじゃ。


「あ……」


「決定的証拠。それにおじさん、アタシの調べじゃ色々と女性差別発言とかやらかしてるねぇ〜。色々まとめたから、後は裁判所で会いましょう〜♡」


「そ、それを寄越せ……アッー!!」


 ケイトの雷魔法が、ビビルゲリンの頭上に炸裂しおった!


 ド●フみたいな頭をして、鼻と口からブスブスと煙を吐いて倒れるビビルゲリン。


「や、やりすぎなんじゃ……?」


「なに言ってるんですかー。勇者様ぁ♡ アタシ、殴られそうになったんですよぉ? コワーイ♡」


 怖いのは、お前じゃい。


 いやー、これは少し注意せねばならんな。



「のう、ボンオドリよ」


「まあ、ワテらの中でもビビルゲリンはんは最弱でっせ♡」


「左様。まあ、あの馬鹿がやられるのは当然じゃな。しかし、ワシらの敵ではないわーい」


 ワシとボンオドリは、丸焦げになったビビルゲリンを見て馬車の中で笑ったのじゃった──。

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