続続53話 兄弟喧嘩?です。<覚悟しなさい>
はい、と、テッドがそろそろと手をあげる。
ん?
「今ので誰が首謀者かは何となくわかりましたが・・・パスコ、フィリップ君はどうなるんですか?」
さっきの弟と区別するためか、テッドはフィリップと言い直した。
「が、外交問題になるんですか?」
ウルリも手を上げながら発言。
「外交問題にはならないわよ? もうカクラマタン帝国に申し立てはしてきたの。そしたらその王子様は王家とも帝国とも縁は切ってあるって、今さら立派な従魔を従えようが継承権はないって証書をもらって来たわ」
マークが筒状に丸まっていた証書を開いて生徒たちに見せる。
まあ、カクラマタン帝国の判が押されていても生徒の誰もが確かめようがないけども、国の上層部は知っている。
かくかくしかじかと、国王、宰相に外交問題にならないように証書をもらったと言ったら「もうイヤ・・・」と国王はうなだれ、判の確認をした宰相からは「ならば好きにして良し!」とサムズアップされた。
「というわけで、チンピラ王子御一行はドロードラング預かりで、騎馬の国での強制労働に従事してもらうことになりましたー」
呆然とする生徒たち。
そうなの、ほとんどの事はもう決定済みだったのよ。ただ、フィリップ・パスコーの名前をわざわざ出して来たから、その理由を知りたかっただけ。
・・・だったんだけど・・・ちょっと、申し訳ない気はする。
「何か、貧乏くじを引かせたみたいね。今後の事は相談に乗るわ」
すると、フィリップは少しすっきりしたような感じで顔を上げた。
「いえ。ずっと貴族籍を抜けたいと思っていたので構いません」
「え?そうなの?」
なぜかスミィが驚き、フィリップは苦笑した。
「俺は、パスコー家の嫡男となっていますが、実は庶子です」
教室は大騒ぎになった。そんなに驚かれるとは思ってなかったのか、戸惑うフィリップが面白い。続きを促してみた。
「パスコー伯の正妻よりも先に、侍女であった母は俺を身籠りました」
残念ながらこういうスキャンダルはそこそこある。後継ぎを持つ事が貴族の義務でもあるので、もしもの時の保険だ。愛人を持つ貴族が本気で保険と思ってるかは疑問だけど。
「母は侍女を辞めて、別に部屋を借りて囲われていましたが、俺が5才の時に魔法を使える事がわかりました。父の魔力はごく少量で、魔法使いを目指す事はできず、だから、とても喜びました・・・母も喜んでいたと思います」
問題は、のちに産まれた正妻との子供には魔力が無かったこと。
その事で魔力のあるフィリップを嫡子にするとパスコー伯は宣言し、フィリップ母子を屋敷に引き入れてしまった。
男児を産んで順風満帆だった正妻は怒り狂い、元侍女であった母を虐めぬいた。
兄弟ができて喜んだ当時3才の弟は、実母である正妻の影響でフィリップを嫌いだした。
そうして体を壊した母はそのまま亡くなり、正妻はやっと少し落ち着いた。
しかし弟の態度は変わらず、年を経る毎にフィリップを追い落とす事に熱中しだした。
「母が死んでも、父は俺を除籍しようとはしなかった。育つにつれ、俺の方が父に見た目が似てきた事も弟は気に食わなかったようです・・・何でも反発されました・・・」
俺が俺である限り、弟と正妻は何も認めようとはしない。
父も魔力があるだけで勉強ができるだけでいいと言う。
屋敷の使用人もずっと腫れ物扱いをする。
フィリップの目が暗くなっていく。
「育ててもらった恩は無くはないが、それを返す義理は無いと思ってる」
シン・・・となった教室に、ウルリの声が。
「じ、じゃあ、君は、何も悪くないじゃないか。なぜさっき、弟の言い分を聞いたの?」
ウルリの方を虚ろな目で見るフィリップ。口は微かに笑っていた。
「もういいかと思ったからだ。これで家を出られるなら良し・・・生きて出られなくても、もういい・・・」
そしてフィリップは私を真っ直ぐ見る。
「素行が悪ければ、見栄を張りたがる父が弟に家督を移す気になるかと思いました。ドロードラング先生にはご迷惑をお掛けしました」
立ち上がったフィリップが頭を下げる。
「皆にも、迷惑を掛けた。申し訳ない」
クラスメイトにも頭を下げた。
「いや、実際私らへなちょこだし、そういう事ならお嬢が一番やられてたもんね。フーリィは嫌味は言うけどいじめはしなかったし、迷惑ってほどの事は無かったよ。ね?」
スミィがクラスを見渡すと、ほとんどの生徒は頷いた。三年目ともなれば分かるのだろうか。クラス替えもないしね。
「ふふ。そういう意味じゃ、あんたも詰めが甘かったわね?」
頭を下げたままのフィリップから、ちょっとだけ鼻をすする音が聞こえた。
「にしても、ずいぶんとスミィはフィリップをかばったわね?」
「だって、花を見て優しく微笑む人って、結局のところ悪い事ができないと思うんだー」
「ぶっ!?」
フィリップからちょっと皆の視線を逸らそうとしたら爆弾発言キターーッ! フィリップが噴いて咳き込んでる。
・・・うわ、なんか失敗したわゴメ~ン! 教室も微妙な空気に!
「ス、スミィはそれをいつ見たの?」
もう掘り下げるしかないし、どんな事があったのか知りたくて聞いてみる。
「一年生の時の夏休みだよ、家から学園に向かう途中で。うちは遠いからさ、馬車代をケチるのにパスコー領までは歩くんだ。そのパスコー領に入った所の空き地?畑になってない所で花を咲かせてたフーリィを見かけたの。お嬢までとはいかないけど、けっこう広い範囲に花を咲かせてたよ! 土魔法を一人でも練習してるフーリィはやっぱスゴいんだと思った」
何ですと!?花を!
フィリップを見ればもう席につくどころではなく、席の脇にうずくまっている。
「本当に!? フィリップ君は土魔法もできるの! スゴい! ちょっとコツを教えて欲しいのだけど!」
土魔法の強化をしたいウルリが興奮して立ち上がる。合宿ではタイトという青鬼がそばにいるからね、早く使いこなしたいよね。
「いやちょっと待って! 花を咲かせられるのなら、もし放逐された場合うちで働かないかい? 衣食住は保証するよ!」
商家の子テッドも立ち上がる。何でも商売にしようとするのはスゴいよ、ほんと。
「いいえ! フィリップは文官としても有能のはずよ。うちで執事見習いとなればいいのですわ!」
お久しぶりのノーコンお嬢様、オフィーリア・オーデッツ伯爵令嬢も立ち上がる。このお嬢さんは私に歯向かうのは一年生のうちに収まった。実力の差を思い知ったんだろうと思うし、けっこうドロードラングランドに遊びに来てくれているのだ。向こうが避けているのか、ランドではあまり会わないんだけどね。ツンだツン。
「え、貴族の家で働くの~?」
スミィがうへぇという顔で聞くと、オフィーリアは鼻を鳴らした。おい令嬢。
「貴族を隠すなら貴族よ! それに執事服が似合うと思うわ!」
オイ令嬢!理由! まあ似合うだろうね~なんて女子はだいたいが頷いてる。モテモテか。
「良かったね?フィリップ」
「・・・よくない・・・」
わっはっは。声が小さいぞ~。
「でも、ええと、パスコー家にお咎めはないの? フィリップ君が貴族じゃなくなるだけで本当に大丈夫?」
ミシルがおずおずと確認した事に、また教室に緊張が走る。
「じゃあ、僕から説明を」
と、アンディが私の隣に現れた。おわっ!?
うずくまっていたフィリップが慌てて直立する。
教室にいた全員が立ち上がった。
「今回の事は自称カクラマタン帝国の王子と名乗る冒険者が騎馬の国で暴れたのを、友人であるドロードラング伯爵が騎馬の国の国民を手伝って収めた。この冒険者がカクラマタン帝国とは関係ないと証明されたので、かの国が動く事はない。なので、アーライル国も動く理由はない。国としての理由がないことから、冒険者の処遇はドロードラング伯爵及び騎馬の国に一任する。その事からパスコー伯爵家については不問とする」
教室がざわめく。ふむ。まあ不問でもいいし。
「ただし、フィリップ・パスコーの自供を鑑みて、それについての罰を下す事にした。フィリップ・パスコーの貴族籍剥奪。パスコー家についてはこれ一点のみとする」
「はい! 犯人はフィリップの弟です! フィリップが貴族を辞める事はないと思います!」
さらにざわめいた教室にスミィの声が通る。
アンディはそうかもね、と微笑んだ。
「でも家を出たいんでしょ? 囲われないようにそうするだけだよ」
フィリップの目が見開かれる。
「正直、今アーライル国は貴族の数がギリギリでね。国の害にならなければ小さな事は不問とするとしている。損害があったのは騎馬の国で、その分の補填はその冒険者自身がする事になったからね。今のところはの不問ね」
だけどサレスティアに関わったからねぇ、と続けたアンディに、生徒たちは瞬間的に顔色が青くなった。
「この先後継不足で落ちぶれるのは構わないし、そこから自力で立て直しもできない貴族なら、むしろ断絶してくれて構わないんだよね。ハハハ」
目が!笑ってないんだけど!?
「まあ、フィリップ君の手続きは僕の方でパスコー家にもしておくから今後の事はじっくり考えて。平民になっても学園までは辞めなくていいから、卒業まではのんびりするといいよ」
あ、ちゃんと笑った。良かった。
「僕個人としては、学園で君がサレスティアを困らせた事は知っているからね。君が単独で困らせていた事は調べがついているからパスコー家以外に何のしがらみもない。成長促進の魔法を使えるみたいだし、卒業後はドロードラング領で更正する事になったと言っておくね」
そうしてアンディは教室を凍りつかせたまま仕事に戻って行った。
ええ~、あの、ちょっと、この空気、どうしたら・・・
「・・・ドロードラング領で更正って・・・どんな大罪扱いなの・・・」
ミシルがぽつりと言うと、生徒たちはザッとフィリップを見つめ、すぐに私の方をまたザッと揃って見てきた。おおう。
「いや、本人的には冗談だと思う、よ・・・?」
「絶対ウソ!」「あれは九割以上本気だよ!」「あんな恐い目力で冗談を言う人なんて見たことない!」「お嬢の目が泳ぎ過ぎでしょ!?こっちが不安になるわ!」「フィリップは本当に大丈夫なの!?」
この言われよう・・・アンディごめんね、フォローできなかった・・・
「ま、まあとりあえずこれで一件落着じゃない? アンディがああ言ったからには一年くらいはドロードラング領に来てもらう事になるわ。その後はそれから考えよう」
あの、と、フィリップが言った。ん?
「ドロードラング領で働けるなら、芸人として、一座に入れてもらえませんか?」
え。
「「「「「 なんで!? 」」」」」
普通は貴族が芸人になりたいなんてあり得ない。だから私は領民にすら変人令嬢と言われるのだ。私よりはるかに貴族としてのプライドが高そうなフィリップが、芸人!?
「罰、というつもりで芸人になりたいというなら怒るわよ」
それだけ、私たちは芸をする事にプライドがある。
「違います」
フィリップはまっすぐ私を見る。そして、ほんの少し揺らいだ。
「・・・昔、もっと小さい頃、イズリール国に旅行に行きました。そこで旅芸人の一座がたくさんの花を咲かせたのを、母が、とても喜んだのです。魔法が使えるとわかってから、俺は、ずっとその練習をしていました」
・・・見せることは、できませんでしたが・・・
「せめて、母が喜んだように、誰かを喜ばせたい・・・こんな、疎まれた自分でも、誰かを喜ばせられると、自分で認めたい・・・」
ああ。そうか。あんたの自尊心は、義理の家族にそれだけベッコベコにされたのね・・・
フィリップの前に右手を出した。
「やる気のある人は大歓迎よ。卒業後に即戦力として使うから今日から放課後練習に出なさいね」
快諾されると思っていなかったのか、フィリップはおずおずと右手を動かす。
それを、掴む。
「鍛えるのは得意なの。覚悟しなさいよ」
あんたのお母さんが、あんたを誇っていたと、あんた自身が思えるまで、ドロードラング領が付き合うよ。
握手をしたまま、フィリップが頭を下げる。
「よろしくお願いします!」
「あーあ、馬車馬のように働かされるのがまた一人・・・」
うっさいマーク!
エンプツィー様付きの助手以上にブラックな仕事なんて、ドロードラング領では無いからね!
おつかれさまでした。
色気まったくねーの回でしたね……色気待ちの方にはすみません(笑)
頭使う話はやっぱ向いてないと思いました。
(こんな内容でも、いっぱいいっぱいです(涙))
なのでこれからもご都合主義で押し通していく所存!……やれやれ。
また次回、お会いできますように。
話を分けたので、懐かしの「続」を使ってみました(笑)




