おまけSS⑩
目標値を越えましたので、一人お祝いブッ込みます( ´∀`)
《このような夜更けに済まぬな、クラウス》
「とんでもない。月見酒をご一緒できて光栄です」
そしてクラウスは瓶からコップに蜂蜜酒を注ぎ、その一つを玄武の近くに置く。
玄武は瞳だけで月を見上げ、酒の注がれる音を聞きつつ、漂う香りを楽しむ。
《ああ・・・ふふ、そうだな。お、今宵の酒はいつもと違うな》
「分かりますか? 亀様に献上する前に試作したものを、ニックがくすねて忘れ去っていたものです」
《ふ! そうか、それは貴重だ。ふむ。悪くない》
ふふふと穏やかに笑う玄武に同意しながら、クラウスもコップに口を付ける。奇跡的に旨く出来ているのは試し済み。料理長ハンクが恐る恐るとしたニックを睨み付けたのが面白かったと思いつつ。
*
《恋愛相談と言われてもな、我にはどうすることも出来ぬ》
少しげっそりした声に、最強四神でも困る事があるのだとクラウスは和んだ。
だからこそ慕われるのを、最強の魔物はまだ分かっていない。
「どうしたらいい?と聞きはしますが、答えは本人がすでに決めていますしね」
《そうなのだ。ならば何故我に聞きにくるのか、不思議でならぬ》
謎を解こうとしているのか、ただの愚痴なのか。そして玄武は結局、人とは面白いと最後には笑うのだ。
《結婚式での縁結びは構わぬが、その前段階は、若ければ心移りもあるし、少し困っている。『両想いになるという願い』を叶えることは出来ぬのだがなぁ》
「後一押しが欲しい時は、神頼みをしてしまいますよ」
クラウスでもかと玄武は静かに笑う。
「・・・ドロードラング領は、豊かになりました」
月を見上げるクラウスを、玄武は不思議そうに見つめた。
「やれる事が尽きて、何度も神頼みをした時は何の助けも無く、ゆるやかに、滅びを受け入れる覚悟をしました」
クラウスの昔語りは、つい十年ほど前の事。
玄武がドロードラング領を見てきた中に、クラウスの言う風景は無い。
神の力は強大過ぎてそうそう振る舞われる事は無い。
神を知る者として、ほんの少し申し訳ない気にはなったが、神とはそういうものだ。
しかし人は、神を拠り所にしながらも独自に生活できている。
《・・・そうだな。王都とも、他の領地とも違うが、豊かだ》
興行に付いてたくさんの地域を見た。その中でもやはりドロードラング領は別である。
「お嬢様のおかげです」
おかげと言いながら、クラウスの目は揺らぐ。
クラウスが何を言いたいのか、玄武は待った。
「お嬢様は・・・何かを作る時、『確かこうだったはず』とよく呟きます」
王都に移るのを見送ったのはサレスティアが2才の時。そして領地に戻ったのは5才。
領民は生きるか死ぬかの瀬戸際で、誰もが冷静ではなかった。
あっさりと受け入れられたそれは、本来ならあり得ない事。
「お嬢様の知識は、異常です」
年齢的にはもちろんだが、国内にない技術を当たり前のように再現できるのは何故か。
《ジェットコースターは、どの国の客も驚くな》
「はい。スケボーも九九もそうです。エレベーターもイヤーカフも」
料理も。5才の子が、しかも貴族の子が、危なげなくナイフを使いスープを仕上げる事ができるのだろうか。帳簿もあっという間に覚え、何より計算が正確だった。5才の子が。
騎馬の国で初めて見たコメの食べ方を知っていたのは? セン・リュ・ウル国のショーユの使い方。ミシルの村に行った時、切ってあったとはいえ生の魚をあっさりと口に入れたのは。
黒魔法も。
そうと知って、それを生活に根ざした使い方にできるだろうか。
だが、しかし。
サレスティアがそうでなければ、クラウスが今ここにいる事は無かった。クラウスだけではない。ドロードラングの住民は誰一人生き残る事はできなかっただろう。
玄武が目覚めた時に、アーライル国も無くなっていただろう。
ミシルも今ほど元気に生きてはいなかっただろうし、朱雀が囚われたハスブナル国も地図から消える事になっただろう。
サレスティアがいなければ、無くなっていたものがたくさんある。
自領を富ませる知識がありながら、それを最低限に抑える。
周りに合わせ、周りの領と共に発展する事を重要視する。
考えれば考える程にサレスティアとは何者だろうと思う。
《『界渡り』という現象がある》
クラウスの疑問を静かに聞いていた玄武が、ぽつりと言った。
神に聞いた事があるだけで、実際に見たことは無いと前置きをして。
《別の次元の世界から何らかの弾みでこちらに来る、又は行くらしい・・・分かるか?》
「別の次元の世界・・・死後に向かうという天国や地獄のようなものでしょうか?」
《それとはまた違うのだが、概ねはそのようなものだ。体ごとだったり、魂だけだったり、となるそうだ》
「魂だけ・・・という事は・・・お嬢様は、別人である、と?」
《その可能性はあると言える》
サリオンを領地に引き取った時、サリオンに何らかの気配が入っていると伝えた時に、サレスティアは「私と似てる?」と玄武に聞いてきた。
その時はサリオンとの血の繋がりを指していると思ったが、クラウスの疑問を聞くに、別世界から来たのかという事だったのだろう。
クラウスも玄武も、どちらからともなく月の光を眺めた。
昼の太陽、夜の月。
いつでも照らすもの。
そこからただ一人を連想する者は、ドロードラング領にはたくさんいる。
《そうだとしたら、どうする?》
玄武の楽しげな問いにクラウスは、コップの底の酒を煽った。
「今まで通り、尽くします」
穏やかに決意表明をしたクラウスを、玄武は好ましく思う。
「あのお嬢様だからこそ、尽くす甲斐があるというものです」
瓶に残った最後の酒を半分玄武のコップへ注ぎ足す。そして自分のへも。
《そうだな。あのサレスティアだからこそ、我の愛し子だ》
クラウスが長く疑問に思っていた事の正しい答えは、玄武にも分からなかった。
それでも、これからのする事は変わらない。
それを確かめられただけでクラウスは安堵できた。
「お嬢様が無事に成人を迎え、アンドレイ様との婚礼姿を見るのが楽しみです」
好々爺の顔になったクラウスに、玄武もゆるむ。
ドロードラング全体が、どことなくソワソワしているのを感じている玄武は、どんな結婚式になるかと楽しみにしている。
《もうすぐだな》
「はい。お嬢様のお子をこの目で見るまでは元気でいたいものです」
現在でも領内無双中であるクラウスにその心配はなさそうだが、もし誰かが体調を崩す事があれば助けようと、玄武は密かに決めた。
「その頃にはサリオン様も成人間近でしょうし、その人事変更もありますし、領地の畑作部分の編成もあるかもしれませんし、新しい事業をいくつか始めているかもしれません」
《・・・忙しいな》
サレスティアの子供を見る以外にもあるだろう事柄に、玄武は少しだけ呆れた。
「ええ。死ぬまでこき使われる気でいますから」
微笑むクラウスに、玄武も笑ったのだった。
ちょっと長かったですね……すみません!
お読みいただきありがとうございます!




