続53話 兄弟喧嘩?です。<犯人>
《手間を取らせた・・・申し訳ない》
《申し訳ない・・・》
綺麗に回復したシロウとクロウがお座りの姿勢から項垂れる。尻尾もくったりとして、落ち込んでいるのが分かりやすい。
・・・くっ!もふもふしたい!
「私もまさかあんた達がやられるとは思ってなかったから。お互いに油断は禁物だわね」
だから平和って尊くて危険なのね・・・難しいわ~。
「私たちも申し訳ありませんでした」
ルルドゥの住民も揃って頭を下げる。
「自分たちはこういう時もどうにかできると驕りがあったようです。白狼様、黒狼様にまで怪我を負わせ、またお嬢様にまでお手数をお掛けしてしまいました」
代表としてルルドゥ首長が謝罪をのべる。そしてタタルゥの首長も。
「初動が遅く、ルルドゥの被害を大きくしてしまいました」
今、タタルゥの住民はルルドゥの土地を立て直すための準備をしている。農具もたくさん壊れたらしいから必要な物はたくさんだ。
「私が出張るのはいいのよ。とにかく最悪の事態でなくて良かったわ。タタルゥ区の反応も早かった方じゃない?」
本当にマジで。生きていて、女子が襲われる事もなく済んだのは僥倖だった。
だが何人かはトラウマになるかもしれない。
・・・っとに!慰謝料ふんだくってやる!
そして、潰された畑を直すのに魔法を断られた。今回の戒めとして自分らで耕し直すって。そっか。
「・・・俺、お嬢だけは敵にしたくねぇわ~」
「俺も」
タイトとマークがそばでぼそりぼそりと言う。何よ今さら?
「なんつーか、大怪我なんだよな~」
ニックさんにそうそう!と返す二人。だから何なのよ?と三人の眺める先を振り返ると、土壁に押し潰された幻を見ている敵部隊(馬含む)が唸りながら地面にただゴロゴロしていた。
地面に血を吸わせるわけにはいかないでしょ。
怪我もあんたたちに殴られたもの以外ほぼ無いんだから、私って超優しいでしょうが。
何よ、大怪我って?
恥ずかしいだけで済むんだから、私、ちょー優しいでしょーが!
で。
攻めて来たコイツらの正体は。
カクラマタン帝国、継承権二十五番目の庶子王子御一行様でした。
・・・二十五番目って・・・どんだけ子だくさん・・・ん?そういえばハスブナル国もそんな感じだったな・・・え~?アーライル国が特殊なの? 王子王女少なすぎ?
帝国はアーライル国よりは魔法が盛んな感じで、王位継承権を狙う為のかっちょいい従魔を手に入れようとし、たまたま聞いた騎馬の国にいる白い狼と黒い狼のセットをこの王子サマは所望したそうだ。
その二頭が並んだ姿は荘厳だ。と熱烈に説明され、はるばるとやって来たんだと。
で。出会ったシロクロにすでに従魔だからと断られ、腹いせにルルドゥ住民を攻撃。それを庇った二頭をこの際だからと攻撃。
騎馬の民を上手く盾にしながら立ち回られ、シロクロも倒れた。
戦術としては正しい。
敵が正面突破してくる方が稀なこと。
歴戦の戦士だろうと、初めての武器を前にしたら攻めあぐねて戸惑うだろう。
隙を見せたら、その後は早い。
何かあった時。
経験した以外の事は想像し難い。
どう動いたらいいか、その場では戸惑うのが普通だと思う。
想定以上の事はマニュアルも利かない。
それでも。
非力な人に強力な武器を持たせる事を躊躇する。
馬がいるなら自動車は要らない。
前世の死因がそれだから、無意識レベルでも避けているかもしれない。
馬車ですら死亡事故はある。スケボーだって失敗すれば大怪我をする。
でも車はもっとスピードが出る。率がさらに跳ね上がる。
駄目だ。
いつかの未来だとしても、今はまだ要らない。
ちなみに、ドロードラング製攻撃魔法具はロケットパンチ。
義手義足に仕込んだ、逃げるための手段。攻撃用と銘うった、目眩まし程度の物。
暗殺に使えるなぁ、コレは。
ヤンさんが言ったか、親方が言ったか。
ゾッとした。だから威力を最低にした。逃げる隙を作るためだけの物。自爆なんて絶対駄目。
ハスブナル戦での聖水弓矢は、対アンデッド用ですでに誰もが知っている方法。ミシルの力だったからあんなとんでもない物になっただけ。なんだって。
「こりゃあ、ずいぶんと手間の掛かった槍だなぁ」
実は武器オタクの鍛治班長キム親方が、柄が細切れになった槍を拾い集めて調べてた。顎を手で揉みながらニヤニヤしてる。・・・わぁ楽しそう。
「この小さい宝石一つ一つに爆発する火魔法が入っていて、刃と連動させて爆発させるんだな。難点は重さか。ま、爆発に耐えなきゃならんしなぁ」
槍を振るうだけでも大変だそうだ。見た目は少し太いかな?って程度なのにな。あの派手男、意外とやるのか?
「ひひひひひ」
・・・・・・キム親方が楽しんでるってことは、エンプツィー様も一緒にやるんだろうな、魔法が絡んでるし・・・あ~あ。
そんなわけで。
私は今、教室で一人の生徒にハリセンを向けている。
「おぅコラ、どういうつもりで仕組んでくれたのか全部吐け」
ハリセンの先にいるフィリップ・パスコーは眉間に軽くしわを寄せ、でも無表情を装っている。睨み合いだ。
「あの、お嬢、いや、ドロードラング先生。ぱ、パスコー君は長期休暇の時も学園寮に残っています。そういうやり取りはできないのでは?」
ウルリ・ユニアックが震えながらも意見してきた。
「まあね。カクラマタン帝国なんて、外国の一貴族の小僧がどうやって繋ぎを取るのよってところなんだけど、今回やらかした庶子王子はもうほぼ冒険者、というよりチンピラよ。繋ぎを取ろうとすれば取れる」
ここは教室だけど、私が騒いだので廊下にも他のクラスのギャラリーがいる。
「あんた、そんなに私を潰したいの?」
ドスを利かせた声にもフィリップの表情は変わらない。
「・・・なぜ、俺だと分かった・・・?」
やっと喋ったが声に震えはない。
「そのチンピラ王子がフィリップ・パスコーに教えられたと言うのよ。充分な証拠でしょう?」
少しだけ、顎が動いた。噛みしめた?
「・・・まあ、そうだな・・・」
「認めるのね?」
「・・・仕方ない・・・」
フィリップは少しだけ息を吐いた。
途端、ガタガタと椅子の動く音が。
「ちょっと待ってよ!お嬢!」「そうです!そんな一言だけでは証拠には認められないはずです!」「一年の時はアレだったけど、今は真面目な態度じゃないですか!」
私はフィリップから目を離さない。
「そうだよ!お嬢にだけは態度最悪だけど! 私らにも優しくないけど! そういう仕込みをするくらいに頭が良いけど! フーリィはそんな事しないよっ!」
教室がシン・・・となった。
・・・スミィ、それ、フォロー?
フィリップも思ったのか、眉毛が下がり、目が据わる。
「そんな事件を起こすなんて、兄上は嫡男としての自覚が無いのですか?」
廊下側から新たな声がした。
フィリップが声の方を向き、また眉間にしわが寄る。
「パトリック・・・」
学年別に色分けされたスカーフは緑。割り込んで来た男子は一年生だ。弟か。
「ドロードラング様を狙ってわざわざカクラマタン帝国の第二十五王子を使うなんて、外交問題になりますよ?」
うん。庇いに登場したわけではなさそうだ。
「・・・・・・そうだな。これで俺に貴族は向いてないと、父上も理解しただろう。家に迷惑をかけるとまでは想定していなかった。俺の単独行動だ、パスコー家から除籍してもらいたいと父上に伝えてもらえるか?」
パトリックはにんまりと口を歪ませた。
「分かりました。その時が来たらパスコー姓は名乗らないようにお願いしますね」
そうして弟は教室を出て行った。それにつられてか、廊下のギャラリーも少なくなっていく。
「兄弟!?あれで!? 冷たくな、ふがっ!?」
騒いだスミィの口をミシルが塞いだ。
廊下のギャラリーがいなくなったのを確認して、ハリセンを下ろす。フィリップは少しだけ俯いている。
「次の当主が彼? 大丈夫なの?パスコー家は」
フィリップが戸惑いつつ私と視線を合わせた。
「どういう意味・・・ですか・・・?」
ふっ。敬語に力が無いなぁ。
「成人前とはいえ大胆な事をしでかす行動力と、詰めの甘い作戦に満足しているアタマに、他人ん家ながら不安になるのだけど?」
は、と顔色を青くしたフィリップが慌てて席を立つ。
「お!俺が!いや、私がやった事です!」
「私、『庶子王子』とは言ったけど『第二十五王子』なんて言ってないわ。出先から直で教室に戻っての今なんだけど、何で彼はそれを知っているの?」
フィリップが愕然とした。でも一瞬で持ち直す。
「・・・私が指示したからです」
「へぇ? だいたいチンピラに本名を教える貴族なんかいないっつーの。それだけだってあんたがシロの証拠だわ」
「私が!指示しました!」
声が大きくなるのは追い込まれていると認めている証拠。
「さっきスミィが言った事、聞いてた?」
また眉間にしわが寄る。
「このクラスの生徒は、私を狙うんだとしても、あんたならバレないようにできるって思ってんの」
ミシルも、男爵っ子ウルリも、商家のテッドだって私を止めるために席を立った。他の子たちだって驚いて困惑してただけ。誰もフィリップを馬鹿になんてしてなかった。
あの弟以外は、誰も。
フィリップが途方に暮れたような顔をした。スミィがこそっと寄って肩を軽く叩くと、ニカッとする彼女を泣きそうに見て、ノロノロと椅子に座った。
「・・・なんなんだ・・・このクラスは・・・」
机に伏せ、手で腕で顔を隠す。
こじれてるなぁ。
ま、犯人が確定したから私的にはミッション終了です。
いやみ坊っちゃん、フィリップ・パスコーですが、以前の登場人物紹介で伯爵家の三男としてましたが、長男と変更します。




