92話 たった一夜の修行-3
「ちゃんと見てなさいよ!」
不細工な即席案山子の前で立ち直ったルルーンがこちらを指さしながらふよふよ浮いている。
これから何かを実演してくれるらしい…。
ちなみに案山子の前にあの動物鎧達が標的に抜擢されていたのだが、皆異常なまでの拒絶を見せた為、異常な硬さを誇る案山子が急遽サンドバッグとして立った。
ルルーンは実は必要無いけどね、と言いつつ集中する…。
「ふっ!」
ルルーンが動いた?と思った瞬間案山子が無惨に文字通り粉微塵になって吹き飛び、一瞬遅れて音が聞こえた…。
どう考えてもオーバーキルだしやって出来そうにもない。
「はい、やってみて」
にょき!っと新しい案山子が俺の前に出て来た…って何をすればいいのやら…。
「いやいや待て待て!あれをやれってか!?」
ぶっちゃけ自分の腕をいくら強化したところで破壊できる気がしない。
せいぜい良いところ少し曲げる位だろう。
「そう。今の貴方なら絶対に出来る筈。だって使える事は知ってるから」
「お前は知ってても俺は知らないから!」
「うーん…でも自分で出来たって言ってたし…何でだろう?」
顎に手を当てて深く考えているルルーンを置いて少し試して見よう。
まずは拳だ…めいいっぱい拳を強化して構える。
「ふんっ!!」
ガゴン!!
「ぬおぉぉぉぉー!!!?!?いってぇぇぇ!!!!」
やばい!硬すぎる!こんなの壊せるなんて本当にどうかしてる!そう思いつつ血が滲む拳を抑えて床を転がる。
「馬鹿ねぇ…一発で壊れる訳ないでしょ?ま、私ならいけるけどね!ふふーん!」
「か、怪力すぎるだろ…丸でマニみたいだな…」
「………マニ…ねぇ。まぁいいわ。それより今のやり方じゃ多分壊れない。ちゃんと魔力を使いなさい」
魔力?身体強化でしっかり使ったと思うんだがな…もう一回やってみるか。
「すー、ふぅ…」
「違う。貴方は魔力だけは異常にあるんだからそれを使うの。いい?魔力は神々の力の源の中でも一番オーソドックスな物なの。貴方は半分神の領域に入ってるのだから出来ない筈がない…」
「そ、そう言えばそんな話し聞いた覚えがあるような…」
多分ウルル辺りに聞いたんだとは思うがすっかり忘れていた…。
「いい?自分の時間を極限まで伸ばして戦うの。これが貴方にできて欲しい事」
「…もしかしてさっきの案山子ってあの一瞬で何発も殴ったからあぁなったのか?」
「そう。私はあの一瞬で252発叩いたわ」
多分こういうのが段々と増えていってヤ○チャ視点的な事になっていくのだろう…。
「…先が思いやられるな」
…
……
………
「よし!行くよ!」
ルルーンがこちらに対峙して拳を構える。
この光景は何度も何度も見たがやはり緊張する…。
シュ!
(今だ!)
全神経を集中して体の中の魔力を大量に消費して無理矢理全身を強化する。
一気に時間の感覚が遅くなりルルーンを視界に捉える。
(やべっ!?)
捉えた時はもう目の前に居た…。
首を思いっきり逸らし体をそのまま横に倒して、最初に付いた手を支点に使いすぐさま立ち上がる。
「ふぅ…」
「まだまだだけどよく出来たわね」
多分アレから一日位経ったと思う…。
ずっとこれの練習をしていたのだが、魔力は大量に使う度に補給され、ルルーンに吹っ飛ばされる度に回復され、疲れる度に回復されを続けて体的にも精神的にも疲れ始めている。
どう考えてもあの動物達よりは遥かにマシなのだが…。
「ふぁ〜ぁ…」
一区切りついて安心した為かどうも眠くなってきた。
「休憩にする?眠気までは流石に取れないからね…」
むしろ此処までよく持ったほうだ。
ルルーンはすっと手を振る…すると今となっては見る事もない筈の元々小吉の部屋にあったベッドが出て来た…。
「あ。俺の…」
「こっちの方が寝やすいでしょ?」
「いや、まぁそれはそうなんだが…本当になんで知ってるのか気になるな…」
どうせ答えてくれないので返事を待たずにベッドに入る。
久しぶりの感触と自分の匂いに包まれて妙な安心感があった。
そして余程眠たかったのか入って数分で眠りについた。
「…………」
キョロキョロ…
「…寝た?」
ルルーンは控え目に声を掛けるとちょっとずつ小吉に近づいていって胸の上によじ登った。
つんつん…
小吉の頬をつつくが特に起きる様子は無さそうだ…。
「…………べ、別にいいよね…」
そう呟くとルルーンはささっと小吉の隣に潜り込んでいった。
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小吉の周りにマニ達やライアー達仲間が居る。
みんな笑っていて何時までもこんな風に笑えたらいいのにと本気で思った。
フッ…
「!?」
突然フラールが消え、慌てて周りを見回し彼女を探す。
フッ…
フッ…
「ーーーー!!!」
そして続けてイナリとラッツが消える。
更に慌て始め、パニックになる。
居なくならないでくれ!そう叫ぼうとするが声が出ない…。
フッ…
フッ…
フッ…
トトーナとノエルとシエルが消えた…。
最早涙を流すだけで何もできない自分がどうにも憎くなっていく。
フッ…
そしてライアーが消えてマニだけが残った。
そのマニも自分同様声が出ずに涙を流し手を伸ばしていた。
小吉はマニの手を掴もうと手を伸ばすがその手は宙を搔く…。
フッ…
「はっ!?」
小吉が目を覚ました…汗だくになって呼吸も荒い…。
だけども直前まで見ていたとても嫌な夢は嫌だった事だけしか覚えておらず内容は忘れてしまった。
(な、なんだったんだ?思い出せんとか歳かよ…)
頭を搔きながら起きようとして気が付いた…。
「すー…すー…すー…」
隣で規則正しい寝息を立てながらぐっすり眠っている、フードに仮面を被ったよく分からない奴…ルルーンが何故か添い寝してる事に…。
(そう言えば仮面の下はどうなってんだ?でもわざわざ仮面付けるくらいって事は見られたらまずいって事だよな?)
散々悩みに悩んだ挙句(5秒程)ついに出した答えは…
(よし取ろう!)
いざ!と手を仮面に伸ばして縁に手を掛ける…。
ゴクリ…
(…………やめておこう。家事とかで事故で人前に出られないような感じだったら可哀想なだけだしな…)
少しズレた仮面を元に戻してフード越しに頭を撫でる。
不思議な事にこんな奴でも撫でると気分が落ち着いてきた…これはとうとう撫でる事に快感を得る変態になってきているのだろうか?
「ふぁ………ん、ご…主…様…」
ヌルの野郎と勘違いされたと思い少しイラッとした…あれと間違えられるのは流石に腹立たしい…、しかも気持ち良さそうに頭を手に押し付けてくる当たり寝ぼけてやがる…。
とりあえずデコピンしておこう。
ばちん!
「はうっ!?…な、なに!?」
「なにじゃねぇよ!なんでこんなとこに居るんだよ!」
「アァ、ホントウダーナンデダロウネー」
「ナンデダロウネーじゃない!…まぁいいっか…俺はこだわらない人間だからな!」
「ソウダネー」
「そこは突っ込むとこだろ…ほら!早く続きやるぞ!」
「あら?随分とやる気満々だね」
「そりゃそうだ!早くここを出たいからな。帰ってあいつらをモフりたい」
「…変態」
「愛でる人といえ」
ベッドから降りて体の筋を伸ばす。
今ならかめはめ波的な物も出せそうな位元気だ。
しかしその後修行を再開し、再び小吉の悲鳴が聞こえたのは言うまでもない…。




