91話 たった一夜の修行-2
卒業制作とか内定を頂いた企業関連の事で時間が減っていくorz
ドサッ!!
「ーーーーーっ!!…いってぇー…」
「ほらほら立ってよ」
痛む腰をさすりながら立ち上がり周りを見渡す。
完全に床だけが遥か彼方へと伸びており、上を見上げると満点の星空がそこにあった。
明かりは白い床自体が発光していて、下が白、上が黒で目が痛くなる…。
「ちょ…これ本当に帰れるんだろうな?」
「合格出来たらね。でも何日掛かるかなぁ?」
「…それって大丈夫なのか?」
「それは安心しなさい。ここは私の"庭"で時間の進みは向こうと違うから大丈夫。だけどもたもたしてると貴方だけおじいちゃんになっちゃうかもね」
「おい!?そこまで必要なのかよ!そもそもなんでよくわからないやつがそこまでするんだよ!」
「御託はいいからさっさと始めるよ!早く帰りたいんでしょ!」
そう言ってルルーンは無理矢理話を断ち切ると両手をくっつけて離し、両手の間に真っ黒な霧を生み出す。
「アニマルナイツ…」
その瞬間霧が爆発的に膨れ上がり、その中から耳を塞ぎたくなる様な怨嗟の声が響き渡る。
ビュンッ!!
「!?」
ガキンッ!
霧の中から飛び出してきた何かを知覚した瞬間、殆ど無意識に剣での防御を行った為防ぐ事が出来た。
「………グルゥ」
「な、なんだ…こいつ…」
ギリギリと音を立てる剣の向こうでは甲冑を着た熊の様な魔物が異様に長い爪で押し切ろうと踏ん張っていて、目は真っ赤に染まり狂気だけが漂っている。
「よ…要はこ…こいつを倒せばいいんだな?」
「そうだけど油断しちゃダメだからね。すぐに死んじゃうから……あ」
ザクッ…
「…っ!?」
「キッ!キキッ!」
ズプ…
背中にから前にかけて強烈な痛みが走り、猿の鳴き声がしたと思ったら何かが引き抜かれる様な奇妙な感覚と再び痛みが走った。
「グルゥア!!」
バキッ!!
バランスを崩したその瞬間熊が丸太の様な腕を振り回しあっさり吹っ飛ばされた…。
「まず1回死んだね。私が回復してあげるからゾンビアタックで倒しなさい」
「ゴホッ!ゴホッ!」
死んではいないのだがあれだと死んだも同然だ…。
ただ、この言葉の通りにやられては回復を繰り返されていたらまず精神が持たないと思う…。
「ちょっと待て!あれは強過ぎるだろ!!」
よく見たら他にも象やら虎やらゴリラやらが鎧と武器を構え、ニタニタ笑いながらこちらを見ていた…。
「私は待っても彼らは待ってくれないわよ」
「「「「ーーーーーー!!!!」」」」
最早どの動物の声かも分からずただただやばい事だけが分かる…。
「無理なら逃げるのも手よ。生き残ってこそ勝てるんだから」
「言われなくても逃げるわ!!!」
全力で逆方向にダッシュする…後ろからはドタドタと猛獣共の足音が聞こえ、もし捕まったらと考えてしまい戦慄した。
…
……
………
逃げ続けてやられてをくり返して分かった事…それは逃げる事が出来ないという事だ。
遥か彼方まで広がる床のお陰で当たり前だがまず隠れる事は出来ない。
それに疲れも回復してくれるとは言え、流石にずっと走るのは無理だ。
なので今度は数を少しでも減らす方向にシフトした。
「ガァァァ!!!」
獅子鎧がハルバードを振り上げるのが見えたが、それを確実に当てるためにあの最初にナイフを突き立ててきた猿が尻尾で足を絡め取りつつインファイトを仕掛けてくる。
「ーーこの!!」
猿が引いたタイミングで猿に向かって飛ぶ…直後獅子のハルバードが床を砕く…。
「ウキっ!?」
飛ぶついでに剣を構えていたため、刃先が猿の喉を半分程切り裂いた…しかしそれでもなお動いた猿は力を振り絞りナイフを背中に突き立てた。
「ぐっ!?」
しかし痛がってる暇なんてものは微塵もない…体勢を立て直した獅子が槍を持った虎と同時に攻撃を仕掛けてきたのを横に転がって回避するがそれは間違いだった…。
「パオォォン!!」
「なっ!?」
足を後ろに振り上げ、盛大に振り抜かれた蹴りによりアホみたいに高く打ち上げられた…。
「キュァーー!!」
そして空中では待機していた鷲やら鳶やらが様々な武器を持って待機していた…。
小吉は涙目になるのを必死で抑えて鞭を呼び出し迎撃する。
ビシュッ!!
「!?、いくらなんでも速すぎだろ!!」
いとも容易く残像を残し鞭を躱す鳥の兵隊達は攻撃を仕掛けてくる様子もなく、まるで遊んでるかのようにただ周りを飛んでる…。
「あぁもう!当たらねぇ!!」
実際小吉の鞭のスピードは素人ながらも普通の人間ならまず当たる様なスピードである。
しかし彼らがそれを軽く上回っているのだ。
そして小吉の体が落下を始めた時、一斉に周りの鳥が引き始めた。
「げ…」
一匹だけやたら大きいのが迫ってきた…。
両手で身の丈程の槌を持っているにも関わらず、それと自重を余裕で宙に浮かせる程の馬鹿力を持つ3mもありそうなハトの鎧が轟音を立てて羽ばたき、槌を振りかぶった…。
落下してるせいで碌に動く事は出来ず、咄嗟に両腕に身体強化を施し防御した…
ブォォン!!
ビキッ!!
体の形は辛うじて保っているが何もせずに受け止めたら本当にミンチになっていた…。
しかしどちらかというとこの後地面に叩き付けられる事の方が相当危険だと一瞬思ったが、不意に体の力が抜け目の前のが真っ暗になっていった…。
ズゴォーン!!!
辺りによく分からない雄叫びが響き渡るが小吉の耳には殆ど入らなかった…。
…
……
………
「お……」
ぺちぺち
「…ーい」
ぺちぺち
「起……ー」
ぺちぺち
「起きろー」
ぺちぺち
非常にうっとおしい…まだ寝ていたいんだ…。
「あぁ…もう誰だよ…」
「馬鹿ねぇ。あたししか居ないでしょ」
「あ。………夢であってほしかった…」
「まだまだダメだからね」
やれやれと泣いた仮面は首を降っている…てか俺の胸の上に座るな…。
「…なぁ、本当に何でそこまで必要以上に俺達に関わってくるんだ?お前が俺達の事を全部知ってる事と関係あるのか?」
「…それは言えない」
その言葉に流石の自分でも苛立ちを感じた。
そんな胡散臭い奴がなんの目的で俺をこんな拷問的な事に突き合わせているのかが全く分からないし、それでもなお言わないのならば絶対に降りてやる!そう思った…。
「お前が逆の立場なら納得出来るか?」
「ごめんなさい…本当に言えないの」
「じゃあお前は自分に関する事を何か一つでも言えるのか!?」
「そ、それも言えなーー」
「無い無いばっかりだな!!そこを退けよ!俺はもう降りる!あんな自殺行為みたいな事もう沢山だ!!」
「でも…」
「でもじゃねぇよ!!もう2度と俺達に関わるな!!」
とりあえず胸の上のルルーンを手で無理矢理退かして立ち上がり、背を向けて歩き出す。
胸に何か突き刺さる様な感じがしたがその時は今までの鬱憤が晴れた為かスッキリする感情の方が強かった。
「じ、じゃあ…私を殺してください。貴方に関わらないという事は本当に居ないのも同然だから…」
ブチッ…
「ふざけんな!!本当にお前達は意味が分からない!!」
「…………」
「あぁ!そうかよ!ならお望み通りやってやるよ!!」
勿論本気で殺そうなんて考えてはいない。
剣で脅して寸止めするだけだ。
指輪型の魔装具が一瞬でマキナ・カリバーンに変わりルルーンの首を目掛けて迫る…。
ピタッ…
「…………おい、避けろよ…首無くなるぞ」
自分でもいつの間にか無意識のうちに声が震えてるのが分かった。
だけどもルルーンは一歩も引かない。
ガッ!
そのうち何故か怖くなってきた小吉は剣を放り捨ててルルーンの小さな首を掴む。
「おい…本気なのか!?死ぬんだぞ!!」
最早やけくそになった小吉は大声でルルーンに向かって叫ぶ…しかしその声も虚しく響きより一層不安を掻き立てた。
そして手に力を込めていく…。
ギリッ…
ルルーンは一瞬体を震わせ、小さな手が小吉の手に伸びる…だが予想と反してルルーンは小吉の手を優しく撫でる様な動作をしてきた…。
ツーー……
「!?」
突然小吉の目から意図しない涙が流れ、手に力を込める度に段々と心臓を握りつぶされる様な胸の苦しみが生まれてきた。
そうしてようやく確信した。
俺は絶対にコイツを殺せない。
、と。
「す、済まない…」
本当にどうかしていたと思う…。
涙を拭きながらルルーンに背を向けて謝罪をする…勿論そう簡単に許される事では無いが。
「はぁはぁ…私も何故か分からないけどどうにかしてた…お互い様よ。それに謝るのは私の方…流石にアレは酷いわね…。結果を急ぎ過ぎたみたい…」
「そうだな…アレは酷い…」
「あはは…貴方に嫌われるのだけは嫌だからね」
「何でだよ?…って聞いてもどうせ言えないんだろ?」
「いいえ、言える。貴方が私にとって特別な存在だから」
「は?」
目が丸になった…またもや意味の分からない事を口走り始めた…。
妙に恍惚とした声色で言ってきたのが変な想像を掻き立て、なんとも言えない気分になった…。
「さーて、じゃあ早速修行に戻るよ!今度はちゃんと加減するから安心していいよ!」
「お、おう…」
やっぱり1度付いたイメージは中々崩れず、明るく話すルルーンに底知れない不安を感じる小吉であった…。




