90話 たった一夜の修行-1
遅くなってすみません…。
考える時間と書く時間が日に日に削られていってます…。
ルルーンがやってきた日の夜、小吉は中々寝付けずにいた。
というのもやはり修行が上手くいっていない事が重荷になってきている様だ。
「はぁ…」
(外行くか…)
何度も寝返りを打って音を立てるのも寝ている皆に悪いので、気分を変えるために外に出ることにした。
ギィ…
外は程よい涼しさで、汗で湿った肌を風が気持ち良く撫でていく。
(そう言えばこの世界大体満月だな…どうなってんだ?)
今日も明かりがなくても大丈夫な明るさだった。ちょっと適当に満月の理由を考えてみたがやはりこの世界が"ゲーム"だという事にたどり着いてしまう。
(この世界の人が知ったら怒るかな?俺なら大歓迎……でもないか。知らないところで遊ばれてたなんて知ったら怒るな…そもそも誰がこんな事を思いついたんだ?もうちょい上手くやれたと思ーー)
そして小吉がそのへんの切り株に腰掛けて完全に考える人モードに入った時…
「わっ!!」
「ーーーーっ!?!?」
本当に驚いた時は声が出ないというのは本当のことだったらしい…傍からみたら1m位飛んだ自信がある…。
バクバク脈打って痛む心臓を抑えながら振り向くと、小吉のガチな反応に申し訳なさそうな態度をとっているライアーが居た。
「…ごめんなさいは?」
「…す、済まない」
ニヤリ…
「なんか反省の色が見えない気がするからとりあえず横に座ろう」
「…え?」
「はーやーくー」
多分この時点でライアーは俺が何か企んでいる事を察したと思う。
すぐに顔に出ちゃうからね。
そして腕を引っ張って座らせると後ろに回り込んだ。
「はい、では耳と尻尾を隠してる魔術を解除してくださーい」
「…………優しくしてくれよ?」
ぽふんっ!!
ガシッ!
「はうっ!?」
「ふふふ…人はな、本気で驚くと心臓がめっちゃ痛くなるのだよ…ライアー君。」
ふさふさの尻尾を痛くないように掴んで撫でる…さわさわと触る度にビクビク震えて少し面白い…。
「わ、私が悪かった!ゆるしーーひゃあ!?み…み…ダメ…」
「い・や・だ」
「ーーーーっ!?」
…
……
………
「むぅ……」
「あぁ…なんというかー…ごめん…」
念の為言っておくとひたすら耳と尻尾で遊んでただけです。
顔が真っ赤になったライアーは膝を抱えて座り込んでこちらを睨んでいる。
「別に気にしてない」
「も、物凄い睨んでるよねそれ?」
「睨んでない。元々だ」
「…怒ってる?」
「怒ってない。元々だ…………ん」
絶対に怒ってるライアーが近寄ってきて頭を差し出してきた…も、もしやまだやれというのか!?
「さっきみたいにしたら今度は怒るからな…わ、私はいつも小吉がみんなにやってるやつの方が好きだ…」
(みんなに?あぁ、なるほど…)
さわさわ…
いつも他のみんなにやってる様にライアーの頭を撫でる…すりすりと自分から擦り寄ってくる辺り本物の犬みたいだ。
「そんなにいいのか?これ…」
「…小吉は撫でるプロだからな」
なんだその少し間違えたらお巡りさんが来そうなプロは…。
そこでふと思い出したのだが、いつも休憩とか何もない時は基本誰かを撫でてる様な気がした。
(そんなにいいもんなのかねぇ…)
自分でも馬鹿だと思うが、空いた左手を何気なく自分の頭に乗せて自分を撫でてみた…。
「ぷふっ!何面白い事してるんだ小吉?じ、自分で自分を…ふふーーわひぃ!?」
なんだかアホらしくなって虚しくなったので仕返しに耳を擽ってやった。
「ふ…ふふ…」
「ちょっとお姉ちゃん抑えーーぷふ!」
「だって…あ、あれは笑えない方がおかしいですよ!」
じーー…
「「あ」」
後ろでこそこそとしていたスライムと狐っ子を発見した…。
そして発見された2人が咄嗟にとった行動は…
ぽふんっ!!
「コ、コーン!」
ぷよんぷよん…
擬人化を解いて元の狐とまんじゅうに戻った2匹はゆっくりと後ずさりして……
タッタッタッタッ!!!
そのまま駆け出した…。
「コール・マニ&イナリ」
ボンっ!
「きゅ!?」
「!?」
呼び出されたマニとイナリはがっちりと小吉とライアーに拘束され、尋問にかけられる…。
「さーて、どうしてやりましょうかライアーさん!」
「ふふ、そんなの分かりきってるじゃないか…こうだ!」
「ーー!?くー!!?」
ライアーがさっきの恨みと言わんばかりにイナリの色んな所を擽りまくっていて、イナリは必死に手足をバタバタして逃げ出そうとしている…。
「よーし、じゃあこっちもやりますか!…ん?」
両手で掴んでるまんじゅうを見て思った…これ何処を擽ればいいんだ?と…。
「…………」
プルプルプル…
(わ、悪いスライムじゃないですよ?)
むぎゅ!
とりあえず揉みほぐしておこう。
むにむにむに…
反発とやわらかさの奇跡的なバランスを持ったまんじゅうは驚きの触り心地で、表面もぷるんぷるんしてる為多分1時間位触っていても飽きないと感じた。
偶に両端を掴んで引っ張ってみるとみょーんと伸びるのでおもちゃとしては一級品だ。
「売ったらいい金になりそうだな…」
(!?!?)
ポンッ!
「嫌です!いい子にしてますから!」
「冗談に決まってるだろ」
「ほっ…」
「だけどしばらく夜は枕の刑な」
「え…」
この枕を使えば安眠間違いなしだと思う。
あまりにマニのキョトンとした顔が面白くて思わず吹いてしまった…。
「ん…パパー…」
「トトーナ?寝てたんじゃないのか?」
「居なかったからー…」
後ろから声が聞こえたと思ったら寝ぼけ眼のトトーナがよたよたと歩いてきて背中に寄りかかってきた。
「っておい…ここに来て寝るなよ…」
とは言いつつもトトーナを抱き上げて寝やすい体制にしてあげる。
「すー…すー…」
「ふふふ、いいお父さんじゃないか」
「じゃあお母さんはライアーになるけどな」
「!?」
「お母さんですね!」
「くー!」
「なななにを!?////」
やっぱりライアーが慌てる姿は見ていて面白い。
ついつい虐めたくなってしまうのは悪いことなのだろうか?
「さーてと、そろそろ戻って寝ろよ。俺はもうちょい散歩してから戻るからさ」
「はーい」
「くーん」
「ライアー、ちょっと悪いけどトトーナをベッドに戻しといてくれないか?」
「あ、あぁ…。じゃあ私達は先に戻ってるぞ…」
「おう、頼んだ」
…
……
………
村の洞窟を抜けて外に出ると、風で木がざわつく音が大きくなった。
いつもなら虫が泣いてる頃なのだが生き物の出す音は無い。
「やっぱりあの子達と一緒に居るのが楽しい?」
「っ!?」
まさか声が聞こえるとは思わずまたまた飛び上がり痛くなった心臓を押さえつける…。
「ま、またかよ…」
顔を上げると目の前でルルーンがふよふよと浮いていて顔を覗き込んでいた…。
「ライアーに驚かされた事?」
「何で知ってんだよ!?」
「観てたから」
「…ど、何処から?」
「貴方が眠れなくてもがいてる所から」
「ストーカーじゃねぇか!」
「で?さっきの質問の答えは?」
「は?」
「だからあの子達と一緒に居るのが楽しいのかって聞いてるの」
ふざけてる様子もなくどうやら本気でその答えを知りたい様だ。
何故そんなことを聞きたがるのかは全く不明だ。
「そりゃあ楽しいに決まってる。今更あいつらが居ない生活なんて想像も出来ないね」
「そう…。なら大切にしてあげる事ね。あの子達も絶対に貴方と同じ考えだから」
そう言うルルーンの声は悲しそうな声で、後半は消えそうな声で喋っていた。
「なんでそんな事断言出来るか知らないけど絶対に大切にはする。てか何でお前にそんな心配されないといけないんだ?俺はまだ信用した訳じゃないからな」
「て言う割にはにちゃんと相手してくれるじゃん!」
このこのっと小さな肘で脇腹をつついてくるのがうざかったが何故かルルーンを離す事に抵抗があった。
きっと疲れているのだ…。
「で、なにしに来たんだ?変な話するためか?」
「違うに決まってるでしょ!主様から貴方の専属コーチになる許可を頂いたのだ!これより小吉強化プログラムを行いまーす!拒否権は無しでーす!」
「ちょっとまっーー」
パチンッ!!
ルルーンがやけに響く指パッチンをした瞬間、意識が飛んでいった。
最後に見たのは泣いた仮面を被ったルルーンの姿だった。




