86話 嫌な再開
キンッ!!ガキン!!
ゴブリン村入口の洞窟の前では小吉がハンニバルと剣を使って殆ど実践に近い模擬戦をしていた。
「はぁはぁ…」
「休む暇があるのか!!」
ダンッ!!
「ぐっ!?」
魔力を使わない単純な自身の経験と勘と技量での戦いの中…生身とは思えない程のスピードで放たれたハンニバルの後ろ回し蹴りが小吉の横腹を捉える。
肺の空気が抜けて苦しくなるが無理矢理それを堪えてハンニバルをしっかり視界に納める…そうしないと更に酷い事態になってゆくからだ。
ガシッ!
「ぬおりゃぁ!!」
吹っ飛ばされない様に踏ん張って堪え切る事に成功した次はその丸太の様な足を掴んで後ろに投げる。
「!?」
だがそんなにハンニバルは甘くもなく空中で剣を投げつつ体制を立て直し片手でバク転紛いの事をいとも容易く行い、最後に降ってきた剣をキャッチする。
「せめて武器を落とすとか無いのかよ!?」
「戦場で武器を落としたら死が待っているからな」
と言いつつハンニバルは剣を後ろに放り投げる。
どう考えても挑発だ…しかし武器を持っていない今はチャンスと言えるだろう。
タタタタ!!
全力で間合いを詰めて剣を振りかぶる。
流石に少しは痛い目をみるべきだ。
(貰った!!)
「ふっ!!」
ガキィーーン!!!
「…は?」
ふり抜いた剣はハンニバルに当たる事は無かった…そして次の瞬間…
ズンッ!!
腹部に強烈な衝撃が走り、痛みを感じるより先に頭が危険を発して意識を手放した。
…
……
………
ハンニバルが意識が飛んだ小吉を寝かせてその向こうで戦慄している青年を捉える。
「さて、次はコルオだな」
「いやいや!?剣を裏拳で粉々に砕く奴相手に魔力無しは無理だ!!ハンデを要求する!」
「鍛え直して欲しいと言ったのはお前達だろ?お前達は魔力は異常なまでに持っているが技量が圧倒的に足りない。それだとただの宝の持ち腐れだ…それともなんだ?小吉みたいになると思って怯えてるだけか?」
ハンニバルは知っていた…小吉とコルオを比べる事で負けず嫌いなこいつらは必ず食いついてくると…。
「上等だゴラァァ!!手加減なんかしなくてもいい!!やってやる!!!」
…
……
………
「はぁ…片腕というハンデがあるというのにこいつらは…」
全く同じ姿勢で気絶した2人が地面に横たわっている…。
ハンニバルは汗こそかいているもののまだまだ余裕そうな表情だ。
「いや…あんたが強過ぎるだけよ、ハンニバル…」
「ケイリスか…ライアーはどうした?」
「私もちゃんと居るぞ」
長い棒の先端に小さな丸いクッションが付いた模擬槍を肩に乗せた二人が出て来た。
その顔はハンニバルの技量の高さに対しての驚きと呆れが混じっていた。
「いや、まだまだ足りん」
「本当にあんたは脳筋ね…呆れるわ…」
「……………」
「ライアーの槍術はかなり完成に近づいてきてるわよ。なにせ暇があれば練習って言ってきたからね」
「す、すまん…迷惑だったか?」
「別に気にしてないからいいわよ。ただそろそろ腰に響きそうなのがアレだけど…」
「老人に片脚突っ込んだ奴が全盛期みたいに暴れるからだ…」
「あんたも同じ歳じゃないの!!」
「俺はちゃんと毎日訓練しているからな」
「本当に腕が無くなったのは悔やまれるわね…」
「それは言うな…。たかが腕1本で命が救えたのだ…ましてやそれが弟子なら本望だ。……さて、戻るとするか。次はマニとイナリだったな」
「あんたちゃんと手加減しなさいよ!可愛い顔に傷付けたら承知しないからね!!」
なんて大声を出してるとライアーの後ろに2匹の陰が現れる。
"ねーねーライアー"
"ねーねーライアー"
「なんだ…ノエルとシエルか…驚かせないでくれよ…。どうした?」
"トトーナはどこー?"
"居なくなっちゃったの…"
「何処でだ?」
"分かんない…"
"ごめんなさい…私達がちゃんと見てなかったから…"
「私でも居なくなった事に気が付かないからな…別に気にするな…。それよりも森の中で迷子か…」
"トトーナお姉ちゃんは方向音痴だからねー"
"ハーピーなのにねー"
「どうしたライアー?何かあったのか?」
「あぁ…実はトトーナが迷子になったらしい…」
「別に大丈夫じゃないのか?あの子も小吉が召喚した魔物なんだろ?ならまず殺られる事は無いだろう」
「そうじゃないでしょ!魔物意外にも危険がいっぱいあるじゃない!中にはトトーナちゃんと交尾しに迫る魔物も居るかもしれないでしょ!!」
「いや…人間ならまだしも魔物は無いと思うぞ…」
"だよねー"
"だよねー"
「と、とにかくみんなで探すわよ!ほら何してるの?行くわよ!」
背の小さいケイリスがひょいひょいっと小吉とコルオを担ぎダッシュで村へと走っていく…。
「わははは!あいつもまだまだ元気だな!俺も負けてられんな!」
「…元気ってレベルか?」
そして2人もケイリスの後を追って村へと入っていった。
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「姫様ー本当にこっちであってんすか?」
「違うよこっちだよ!」
あれから何時間か経って日が傾き初めて徐々に暗くなりつつある…。
そんな中トトーナ以外の3人は焦り始めていた。
(兄貴…やっぱり此処さっきも通りましたよ…もしかしたら僕達この森から出られないんじゃ…)
(ばばば馬鹿野郎!!心配になるような事を言うんじゃねぇ!!大丈夫だ!ちゃんとコンパスを持っている)
ウッソはポケットから丸型の一般的なコンパスを取り出し…絶句した。
クルクルクルクル…
コンパスはビックリするほど盛大に回っていた…。
(はは…もうおしまいですよ…)
(おおおお落ち着け!パニックになったらそこで終わりだ!)
ガサガサ…
「「あぎゃぁぁぁ!!?」」
「なにかあったっすか?ーーってのわぁぁぁ!?」
「グルルルル…」
草影から出てきたのは細長い体に3対の足が付いたハイエナの様な魔物だった…しかもよだれを垂らしている所を見ると余程お腹が空いている様だ…。
「兄貴ぃ!!こいつランクCのガルルプです!僕達じゃ太刀打ち出来ないですよ!」
ガサ…ガサ…
「「ガルルル…」」
「しかも群れです!!」
「落ち着け!とにかく一匹ずつ減らすぞ!喉を狙われるなよ!!」
ウッソ達が構える中…後ろに下がっていた子分2の背中からトトーナが飛び降りた。
「姫様!なにしてるっすか!?戻るっす!」
「大丈夫だよ!」
「ガルルルァ!!」
トトーナが後ろを見た瞬間、それをチャンスと見たガルルプが一斉に飛び掛る…。
やっちまったと子分2が目をつぶる…しかしいつまで経っても悲鳴が聞こえてこない。
そして目を開けて驚いた。
木々の隙間からの木漏れ日の下で宝石の様な煌めきを放つ黄色と緑が織り交ざった髪と翼を羽ばたかせてトトーナが飛んでいた。
その足元には綺麗に喉元を鋭利な何かで切り裂かれたガルルプの死体が積み上がっていた。
「「「は?」」」
驚く3人を放っておいてトトーナが自ら子分2の肩に乗って肩車をしてもらう。
「ねぇねぇ早く行こうよー」
「…………」
「ねぇねぇ!」
「はっ!?そ、そうっすね!早くいくっす!」
(おい、今何が起きた?)
(わ、分からないです…ガルルプがあの子に飛び付いて…あの子が飛び上がって…)
「おい嬢ちゃん…これ嬢ちゃんがやったのか?」
「…………トトおじさん嫌い…」
「んだとこのーー」
「まぁまぁ兄貴落ち着いてください」
トトーナはなんとも言えない気持ち悪さをウッソから感じ取っていた。
まるで何かトラウマになりそうな事をされた感じだ。
「ぐぬぬぬ…同族を全て捕まえたあかつきにはあいつの精神をぶっ壊してやる!」
「子供の言う事なんですから…」
「姫様もそういうこと言っちゃだめっすよ」
「でも…なんか嫌!」
と顔を逸らした時…
「トトーナ!何処だー!」
「おーい!トトーナ!」
聞こえてきたのはライアーと小吉の声だった。
「パパだ!!」
「ようやく見つかったっすね…」
「全くだ…」
(今の声何処かで聞いたような…)
「早く早くー!」
「はいはい…りょーかいっす」
…
……
………
「トトーナ!!」
「見つかったか!?」
「いや、全くだ」
「そうか…一体どうしたものか…」
村に戻った後みんなにトトーナが居なくなった事を伝えて一緒に探してもらっている。
既に探し始めてから3時間程がたったが発見したという連絡はまだ来ない。
「あ」
そして小吉は今ある事を思い出した。
「どうした小吉?」
冷や汗が全開である。
何故なら最初から探す必要は無かったのだから…。
自分の契約した魔物を自身の近くに呼び戻すスキルを忘れていたのだ…。
「………コール・トーー」
ガサガサ!!
「パパー!!」
「「!?」」
「あれ?人っすね…」
「トトーナ!………と誰だ?」
「俺はカイって言うっす。あんたらがこの子の家族っすか?」
「あ、あぁ…そうだが…」
ガサガサ!!
「おい!カイ!早いんだよおめぇはよぉ!」
そして次に出て来た人物に小吉とライアーは絶句した…。
小吉はともかくライアーはあの時を思い出して口を抑え膝が震える。
「あっ!!お前ら!なんでこんなーーごぶぅ!?」
こんな奴に喋る暇なんて与えたくは無い。
小吉は我に帰った瞬間、魔力で身体強化を施すと目にも止まらない早さで間合いを詰め、奴…2人を奈落へ突き落とした張本人ウッソの腹に拳をぶつける。
「兄貴!?ちょっとあんた!何をするっすか!?」
「トトーナ!こっちへ来い!そいつらは駄目だ!」
「っ!?なんでバレたっすか!?こいつは渡さないっすよ!!カメロ!兄貴を頼むっす!」
カイは降りたトトーナを素早く拘束すると首にナイフを突き付けた。
その間にカメロと呼ばれた子分1が気絶したウッソを起こす。
「…へ?」
「トトーナ!!」
「この娘の命が欲しければ動かない事っす!!」
カイの危機迫る顔に腰が引けているライアーはともかく小吉までも動く事が出来ないでいる。
捕らわれたトトーナはカイの様子が180°変わってしまった事に困惑している。
「兄貴!しっかりしてください!」
「ゴホッ!!ゴホッ!!…クソッ…骨がぁぁ…」
「パパ…」
「あんたを殺したくないから大人しくするっす」
徐々にトトーナの目に涙が浮かんできた…。
「そこの木にこっちを向いて両手を付いてくださいっす!…早く!」
「ライアー…立てるか?」
「だ、大丈夫だ…」
2人は言われた通りに後ろの木に手をつけてカイの方向を向く…。
「…ちょっと聞きたい事があるんだか」
「…いいっすけどあんたらに有利な事は話さいっすよ」
「なんでお前らはそんな奴を慕ってるんだ?」
「小吉!あんまり煽る様な事を言うな!」
「……………そんなのあんたらには関係ないっす」
「そうか…ならいいや。コール・トトーナ!!」
パッ!
「!?」
カイは今まで目の前で拘束していた筈のトトーナが消えた事でバランスを崩し前のめりになった。
次の瞬間カイの体は宙に浮き、それを知覚した時には体が地面に向かって落ちていた。
ドサッ!
「トトーナ!大丈夫か?」
「うん…大丈夫だよ」
後ろではライアーがトトーナを抱き寄せて何処か傷が無いかの確認をしている。
「まずは1人…おい…そいつを寄越せ」
「渡す訳ないだろう!兄貴をどうするつもりだ!」
「そいつにはデカイ借りがあるんでな…。大人しくしていればあんたに危害は加えない。約束するよ」
「…………分かった。あと出来ればそのカイにも危害は加えないで欲しい…」
「なら自分で連れて来い」
そう言って小吉は這って逃げるウッソに近寄って頭を蹴る。
そして再び気絶したウッソを鞭で縛り上げて村へと引き摺っていった。
聖人君子ではない小吉の暴力が奴らを襲う!
※この作品は暴力を推奨してる訳ではありません。




