84話 悩み事と…
「うぅ…ひっく!…ぐすっ!」
「あぁ…マニ…過ぎた事は気にするな…それに小吉も流石にその兎達を怒ってくれるさ…そろそろ村に着くから泣きやもう?な?」
「ライアーざぁん!!」
「マニちゃん余程ショックだったみたいですわね…」
「リンネは立派なモノを持ってるから多分分からないだろうね…」
「別に胸なんてこだわる事でもないだろう?肩は凝るし動きにくくなるだけだ…最近はさらしがキツくて…」
「ならミディーヴァ…それ分けてよ…」
「僕も分けてほしいですよ!」
「うぐっ…ぐすっ…もうみんなスイカの呪いにでも掛かればいいんですよ!!うわぁぁーー
ゴンッ!!!
ーーへぶっ!?」
捨て台詞を吐いて一足先に飛んでいったマニが目の前の岩に思いっ切り突っ込んで地面にぺちゃっ!っと落ちた…。
「うぅ…痛い…」
ガラガラ…ゴンッ!
地面で頭を抑えていたマニの頭に少しだけ崩れてきた岩が直撃して再び小さく悲鳴を上げた…踏んだり蹴ったりである。
「だ、大丈夫?お姉ちゃん?」
「ふんっ!私とご主人様の事は放っておくんじゃ無かったの!?」
「あ、あれはあの時僕がイライラしてただけだよ…今はごめんって思ってるよ!」
「じ、じゃあ特別に許してあげます!」
「…それと一人だけ省いてごめんね?」
順調に姉妹の仲直りが終わってみんなほっこりとした気持ちになるがライアーだけ微妙な顔をしていた。
(あれ?悪いのって小吉とマニじゃなかったか?…………まいっか)
…
……
………
「ねぇ、いいじゃないですかー」
「いや、離れろ。絶対俺に面倒ごとが降りかかる」
小吉が一人で燃えかけた部屋の掃除をし終えて小屋に腰掛けている。
それだけならいつもの風景に見えるが、今回はその周りで丸い大きな耳と大きな上着の下から出て楽しそうに揺れる尻尾が付いたリリーが行ったり来たり引っ付いたりしている。
「小吉君…君は一体何をしているんだ?それにその女性は?」
「俺のポケットの住民だ」
「リリーですよ?わすれてしまいましたか?昨日は一晩私と寝たというのに…」
「違う!誤解を生むようなことはーー」
ガランッ!!
何か大きな金属…ちょうど鍋を落とした時のような音がしていい匂いがただよってくる…嫌な予感を感じながらそちらを振り向く…。
「こここ、コルオさん…それはどういう事ですの?」
「コルオ…信じてたのに…」
「勇者のくせに責任感も無いとは…見損なったぞ!」
「そーだそーだ」
「いやいや!誤解だよみんな!この女性はリリーちゃんだよ!小吉君もーーってなにお前までそっちに混ざってんだぁぁ!!!」
「俺はね…いつかあいつはヤルと思ってたんですよ」
「そうなのか?小吉?」
「待ってライアーさん!100%そいつの偏見だから!」
「ご主人様ー」
むにゅ…
「あれ…ほんとにリリー?僕の目がおかしいのかな?」
「あはは…多分私も目がおかしいですね…」
「ぐぬぬ…小吉!いつの間にそんな仲になってたんだ!私達の一族は不倫など許さぬぞ!!」
「離れろって…ってライアー?どうしたーー」
「ちょっと来い…話がある」
そう言ってライアーは小吉の首根っこを掴んで何処かへ行ってしまい、残されたリリーの頭には立派な?が浮かんでいた。
小吉を指差し爆笑しながらコルオは地面をのたうちまわっていた…その背後には髪が逆立つ程の怒気と殺気を迸らせた3人の女性が立っている…。
その後、2人の男性の悲鳴が聞こえたらしい。
…
……
………
日が落ちてきて空がいい具合に暮れてきた。
昨日の夜とは違って今日は小吉達やコルオ達が全員ある程度回復したのでゴブリン達はお祭り状態になっている。
しかし小吉とコルオとハンニバルだけは奥の高台で酒とつまみを食べながらこれからの事や今までの事を話している。
そんな風景を眺めながらフラールが座って膝の上の2頭の兎を撫でていた。
"こ、怖かった…"
"本当に食べられちゃうかと思った…"
「ノエル、シエル、大丈夫ですよ。でもマニさんをいじめてた2人も悪いんですよ?」
"反省してます…"
"反省してます…"
あれからマニの小吉を使った策略で一時的に火炙りになりかけた2頭はその事を思い出してぷるぷるしていた…。
名前は先程小吉から貰ったもので黒毛の方がノエルで白毛の方がシエルだ。
小吉がビクビクしながらノエルとシエルのステータスを確認した所種族だけが分かっている。
どうやらハイウィザードラビットという種族らしい。
(もふもふ…)
フラールはノエルとシエルの毛並みに見事に取り込まれた様で本当に幸せそうな表情で撫で続けている。
まるで上質な素材をふんだんに使った人形の様な印象を受けたフラールはどうにかぎゅーっとしたい衝動を抑えていた…。
「それにしても暇ですねー」
ライアーはゴブリンの女性陣に捕まって話しており時々顔が赤くなっていている。
イナリはミディーヴァと村の真ん中にあるキャンプファイヤーの前で余興の模擬戦をしてる…。
トトーナとマニがゴブリンの中の拳術のエリートから教えを貰っており、トトーナの見様見真似の拳がこれまた笑えてきた。
ラッツはゴブリンの地酒に舌づつみをうっていてアルコール度数が高いのか既に顔が赤くなっていた。
セリスは壁際にセットしたリンゴに矢を射るパフォーマンスで人集りを寄せている。
みんなが思い思いの事をして楽しそうに過ごしている。
「「「クエっ!」」」
「きゅー!!」
「え?ナノちゃん達?…そうですね!確かに仲間外れは駄目ですよね!偉いですよアラ君!」
「きゅっ!」
フラールがアラ君を褒めて撫でていると膝の上の2頭に気がついたアラ君がフラールの胸に飛び込んで引っ付いた…まるで「ご主人様は僕のもの!」と自己主張してる様だ。
"むぅ…"
"むぅ…"
「え?ちょっとみんな!?ーーひゃあ!?く、くすぐったいです!」
さらにそれに嫉妬したノエルとシエルがフラールの頭に登ろうと体をよじ登り初めた。
もふもふもこもこな2頭がよじ登ってくるのでフラールはくすぐったくて堪らないらしい。
「ちょっと!?そんな所に入らないでくださーーあははっ!」
「「「クエっ!?クエーッ!!」」」
そんなフラールを見たナノ達が主犯3匹を銜えて引き離すことで無理矢理中断させる。
これ以上はいけないという素晴らしいはんだんだとナノ達は自負している。
「はぁ…はぁ…」
"ちょっとぉ!何するの!?"
"ちょっとぉ!何するの!?"
「きゅきゅー!?」
「クエッ!クエクエッ!クエーッ!!」
小吉が居ないのでフラールには何を言っているか分からなかったが雰囲気で「何するのじゃないでしょ!!」みたいな事を言っている様な気がした。
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「あぁ…ちょっと初っ端から飲み過ぎたかな?この世界の成人の年齢が低くて良かったわ…」
ちょっと用を足してくるといって抜けて きた小吉が洞窟を抜けて近くの川に来ていた。
この世界に来たばかりの時に酒場でマニと馬鹿みたいに飲んでいた事を思い出して懐かしく思いながらベルトを外していく。
「はぁ…封神晶は後4つか…まだ厳しいか?」
「そこに誰か居ますの?」
「ほわぁ!!?」
まさか誰か居ると思っていなくて用を足しながら独り言を呟いていたので普段よりもさらに数倍驚いた。
しかしそれでも出るものは止まらないので羞恥プレイ状態でプチパニックである。
「ご、ごめんなさい…そ、そのまま続けて下さい…わたくしは見てませんので」
穴があったら飛び込みたい状態にその丁寧なフォローになっていないフォローのせいで地面をぶち抜いて飛び込みたい感じにランクアップしてしまう。
音だけが響くのが死にたくなる位に恥ずかしい…。
「で、何でこんな場所に居るんだ?中でみんなと居ればいいだろ?」
ベルトを締めながら声の主、リンネに尋ねる。
恥ずかしさは一周して鋼の心へと昇華している。
「ちょっと悩み事があったので一人で居たかったのですわ」
「あぁ、なるほどな…確かに此処なら静かだからな。なら1人の方がいいよな?すまん邪魔したな…」
「いえ、別に構いませんわ」
川辺で膝を抱えて座るリンネのウェーブの掛かったベージュの髪と月の明かりが合わさってとても絵になってると思ったが彼女を一人にするため戻ろうと歩き出す。
「………やっぱりちょっと待ってください」
「ん?」
「一人になりたいとか言っておいてなんですけどお話を聞いて欲しいです…少しお時間頂けないですか?」
「…頭が少し回らないけどそれでいいなら」
そう言ってリンネの隣に座る。
水面にはゆらゆら揺れる月が写っていて幻想的だ。
「で、話しってなんだ?」
「小吉さんたちの事です。…私達聖教会では一部の最高神官様達が絶対神様のお告げを聞いてそれにしたがって指示を出したりしています。みんなそれが正しい事だと…自分達に幸福をもたらすと考えて行動しています…。私はそんなに信仰が厚い方では無いのですが最高神官様達の言う事は正しいと思っていました…」
そこまで言うとリンネの声が滲んできて彼女ら顔を膝に埋めてしまう…それでも話は続く…
「魔王に言われたんです…それだけを見すぎて他を見ていないと…罪もない人物に濡れ衣を着せると…もう分からないですわ…。お父様達がしてきた事はなんでしたの?魔物は悪い生き物の筈なのになんでハンニバルさん達は優しいの?なんで小吉さん達は彼らと仲良くなれるの?」
泣いているのか言葉の間に変な間があったりしている…予想より重い悩みだったようだ。
「これだけは言っておきたい…魔物が悪い生き物って誰が決めたんだ?」
「え…?だって残された書物だと殆どそういったものですし…実際になんらかの被害は魔物が引き起こしたものですし…」
「じゃあ実際に見た事は?」
「見た事…ですか?」
「そう。自分で見て体験した事だよ。現にハンニバル達は人間と共存する道を選んだ。知能を持った魔物の中にはそういった連中も居るって事だ。あまり言いたくは無いけど宗教くらいの大きな組織になると都合の悪い事は隠したくなる物だと思ってる」
「…………」
「だから自分で見て体験した事が1番信用出来るんじゃないのか?そんないつ誰が書いたか分からない本よりも自分で見た方が何千倍も現実的だ」
「それは…そうですけど…」
「それに第一お前達が仲良くしていたマニやらトトーナも魔物だ」
「!?」
リンネがその言葉に驚いて顔をあげて目を見開く…
「あれ?言ってなかった?」
「小吉さんが魔物使いだというのは聞いてましたわ…でもマニちゃんやトトーナちゃんは亜人族の子供だとばかり…」
「……やっぱりあれ子供に見えるのか」
中身は大人もビックリして吹っ飛んでくくらいの力量の持ち主だけどね…。
「魔物って聞いてあいつらの評価が変わるか?」
「……いえ、変わりませんわ。彼女達はみんないい子だと思いますわ」
「なんでだと思う?」
「…………分かりませんわ」
「リンネがあいつらがいい奴と思える体験を沢山したからだ」
「!!」
「ハンニバル達も同じだ。…………これでいいか?あんまり自分の考えをこうやって話すのは恥ずかしくてあんまりやりたくないんだよ」
「ぷっ!あははは!……はぁ、ありがとうございます。おかけで少しスッキリいたしましたわ!」
ぶっちゃけ俺としては消化不良になるだろうと思っていたので目が丸くなっていると思う…。
でもなにがどうあれ彼女が納得したのならそれで万事解決でいいのか?
…
……
………
2人で洞窟を抜けて村に入るとこちらへ誰かが走ってきた。
「あっ、リンネ!あっちでゴブリンさん達が歌ってるんだけど音痴なの…だからお歌を教えるのを手伝って?」
「…行ってきたらいいじゃん?」
「小吉さんに言われなくても勿論行きますわよ。さぁ素人の皆さんにプロの本気を見せてあげましょ!行きますわよ!」
「うん!」
トトーナが誘ってきた筈だがテンションが上がったリンネがトトーナの手をとって歩き始める。
しばらくすると聞いてて心地の良いコーラスが聞こえてきた。
それに続いて音痴ながらも楽しそうな歌が聞こえてきて小吉の頬が少し緩んだ。




