82話 リリーという女性
「うわぁぁ!?」
「ひぁぁ!?」
ベッドから小吉とマニの2人が起き上がり悲鳴じみた声を上げる。
よく見ると元の小屋に戻ってきたらしい。
「!?…もう!ご主人様とお姉ちゃんうるさい!!びっくりしたじゃん!」
「すまん…」
「ごめんなさい…」
「そういうイナリも大きな声を出すな…。あんな戦闘の後だし小吉とマニだって変な夢くらいみるだろう…」
「パパ?朝ー?」
なんだかんだで全員起こしてしまった様だ…。
あれからしばらく経っていた様で、セリス達勇者組とフラールは先に起きて外に居るようだ。
「変な夢か…やっぱり夢だったのか?」
コツ!…カラカラン…
ベッドから抜け出した拍子に何かが落ちて床に転がる。
なにやらビンの中に錠剤が入ってる様だ…。
「…………マジかよ」
「マジですね…」
「ん?小吉ー、なにか落としたぞ。なんだこれ?薬?」
ライアーがそれを拾い上げて観察し始め、蓋を開けて匂いを確かめたりしてる。
「やめとけやめとけ!胡散臭い奴から貰った胡散臭い代物だからな」
「すまん…もう飲んでしまった…」
「…は?」
「なんか凄く美味しそうな匂いがしたからつい…」
「食いしん坊かよ!犬なのか!?」
「犬じゃない!狼だ!」
「言ってる事は変わらんわ!!」
「なになにー?お菓子ー?トトも食べる!!」
いい匂いを嗅ぎ付けてきたトトーナがライアーから一粒貰いそのまま食べてしまった。
おいこら勝手に与えるな。
「あっ!こら!ぺっしなさい!」
「もう飲んじゃった」
「ご主人様…どうしてそう頑なに嫌がるんですか?別に大丈夫だと思いますよ」
「いや、どう考えたって怪しいだろ!?」
「でもそれって今の私達が飲まないといけない物なんですよ?説明きいてました?」
「……そ、それはそうだけど」
「もう!つべこべ言わないで飲んでください!なんなら私が飲ませてあげますよ!?」
そう捲し立てたマニがライアーから薬を貰うと自分で一粒飲み、小吉にも無理矢理飲ませようとし始めた。
「あっ!ちょ!やめーー、だぁぁ!!分かった!分かったからそれ寄越せ!自分で飲む!」
「分かればいいのです!」
ゴクンッ
「…あれ?普通に美味いんだが…でも一粒で満足したわ」
そう言えば一粒だけ飲めばいいって言ってたな。
「あぁぁあぁ!もう!静かにして!!僕の睡眠の邪魔しないでよ!!」
そしてドタバタと暴れるは大きな声をだすわでとうとうキレたイナリが布団から飛び起きて狐火を放ってきた。
ワニやら虎やら獰猛な動物を模した炎が俺とマニを狙って襲いかかってきた…。
…
……
………
カコンッ!…スコンッ!
「本当に助かるぞコルオ君!最近腰が時々ズキズキと痛んでくるからな…」
「コルオでいいですよダイゲツさん。安全な寝る場所と食事を提供してくれてるんですから薪割りくらいはしますよ」
「そう言ってもらえると助かる。まだまだやる事はあるからな…」
救出した事でゴブリンが増えた以上村の拡張工事を急がなければならないのだ。
今も工事をしているが、一人のゴブリンが丸太を落としそれが後ろのゴブリンの足に直撃したのを見てダイゲツは溜息をついた。
ボンッ!!
そしてなんの脈絡も無く突然小吉達が居る筈の小屋から煙が吹き出した…。
「は?」
「え?」
「げほっ!げほっ!イナリ…せめて加減しろよな…」
「こほっ!こほっ!あれは完全に私達が悪いですからしょうがないですよ…」
「わ、悪いのは小吉とマニだけじゃないのか?なんで私まで…」
「あははは!みんな真っ黒けー!」
「もう!ご主人様とお姉ちゃんなんか知らないからね!!」
中にいた筈の怪我人が全身煤で真っ黒になって出てきたのでその場にいたゴブリンやコルオとラッツが驚いて固まっている。
「てかなんで煤が出たんだ?魔力じゃないのか?」
「ふんっ!!」
自然な感じを意識してイナリに聞いてみたが頬を膨らませてそっぽを向いてしまった…。
どうやら完全に怒ってるらしい。
「あら?ライアーさん達どうしてそんなに真っ黒ですの?」
「おはようイナリ。今から私達とフラールで水浴びに行くんだが一緒に来るか?」
「いくいく!丁度僕水浴びしたかったんだ!あっ、お姉ちゃんは行かないから」
「ライアーさんもどうですか?」
「ありがとうセリス…ちょっと着替えを取ってくるから待っててくれ」
「トトーナちゃんも行く?」
「行くー!」
「マニちゃんは?」
「いいよセリスさん…お姉ちゃんは放っておいて」
「気にしないでくださいセリスさん…ありがとうございます…」
「あぁ…なんかごめんね?という訳で小吉さん、みんなを借りていくね」
「…お、おう」
ゾロゾロと女性陣が洞窟を通じて外に出ていった。
マニを見るとちょっと悲しそうな顔をしていたので頭を撫でておく。
「ご主人様…」
「なんだ?」
「イナリが帰ってきたら一緒に謝ってくれませんか?」
「勿論だ。流石にあれは怖い…。さて、俺らもその辺で体洗いに行くぞ」
「そうですね…。あっ、水は任せてください!」
とりあえず人目のつかない小屋の裏手に向かい体を洗う事にした。
…
……
………
「いやぁー、やっぱり温かいお湯に限りますなー」
「ですなー」
小屋の裏手はすぐに崖になっていて、岩肌がそびえ立っている。
その崖と小屋の間には微妙に広いスペースがあり、温水を浴びるだけでは足りなくなった小吉とマニが何をとち狂ったのか風呂を作り始めていた。
小吉が丁度良い感じに穴を空けてそれをマニが魔術で固める、そして最近使い始めた想像魔術でお湯を循環させて崖からお湯が溢れ出る様に改造していた。
「本当に魔術って便利だなー。俺使えないけどー」
「しょうがないですよ…才能の問題なんですよきっと」
「泣くぞ」
「やめてください」
(あれ?ご主人様達なにをしてるんですか?)
声が聞こえた…というか感じたので辺りを見回してみたが見当たらない。
多分リリーだと思うが、多分草で隠れてしまってるのではないかと予想を立てる。
「リリーか?何処に居るんだ?」
(此処ですよ)
ガサガサ…
浴槽の淵にもたれかけて腕を乗せていたのだが、丁度肩の辺りにリリーが出て来た。
(おぉ!いきなり水の音がしたので来てみたら何か面白い事やってますね!)
「入るか?」
(是非!)
目をキラキラさせていたので何となく勧めたら即答してきた。
ぽちゃん!……ぶくぶくぶく…
(ぷはぁ!…あぶぶ!)
リリーが水面に顔を出して手足をバタバタさせている…これってもしかして溺れてる!?
急いでリリーを手のひらに乗せて足場を提供する。
(ハァハァ…死ぬかと思いました…)
「もしかしてリリーって金づち?」
(どうなんでしょうか?)
「リリーさん、これ使って下さい」
「りりー!わたち使ってー!」
マニが差し出してきたのは何時ぞやのチビマニだった…しかもご丁寧に浮き輪みたいなドーナツ型で最新の喋る機能まで付いている。
(おぉ!ありがとうございます!)
万歳のポーズをしてるリリーに上から被せてお腹辺りに持っていく。
丁度ぴったりのサイズだ。
パチャパチャパチャ!
(これ凄く楽しいですー!)
目の前の浴槽の中であっちに行ったりこっちに行ったりしてとりあえず動き回っている。
(そう言えば昔家にこんなおもちゃあったなぁ…)
(ひゃっはー!!)
「ひゃっはー!!なのですー!」
「お前いつの間にそんな事できる様になってたんだ?」
「ユリウスの一件でコツを掴んだだけですよ?まだ出そうと思えば出せますよ?」
「や、やめてくれ…訳の分からない事になりそうだ…」
(チビマニさん!もっとスピード上げましょう!)
「らじゃー!!」
(ひゃあぁぁ!!)
最早ミニ四駆レベルで水面を疾走し始めたリリーを見てすっかり忘れていた事を思い出した。
「リリー、そう言えばお前ヘルメスを出発する時にイルンから何か貰ってたよな?あれどうなったんだ?たしか練習しときます、とか言ってたよな?」
「あっ!それ私も気になります!」
興味の眼差しが2本突き刺さった事でリリーと空気を読んだチビマニが急ブレーキを掛けた…が、失敗して淵に顔から突っ込んだ。
(いたたた…)
「ごめーん」
(いいです…大丈夫ですから…。それよりもご主人様達…やっぱり気になっちゃいますか?)
「当たり前だろ?魔力が殆ど無かったとはいえ神の1柱だ…凄いものを貰ったんじゃないのか?」
(はい!最初は何を貰ったのかすら分からなかったですけど今はバッチリです!見たいです?)
「じゃあ見たくない」
(嘘です!嘘です!私が見せたいだけです…。じゃあいきますよー)
プールサイドに上がった濡れネズミは両手を上げて某戦隊モノの様なポーズをし始めた…。
(へんしーん!)
眩しい光がリリーを中心に放たれ、思わず目を瞑る…。
全身が目の様なものであるマニは「あひゃ!?」と変な声を上げて咄嗟に俺の後ろに隠れた。
ドボーン!!
水に何かが大きな物が飛び込んだ様な音がして顔に温水がかかる…。
そして目を開けるとネズミの姿は無く代わりに…
「どうです?私の新しい姿は?」
身長170cm程で元の三毛模様に似た長い髪の毛に丸い大きな耳が付いたグラマラスな女性が立っていた…。
しかも下着姿で…
「agptag@_'#!?」
「えっ!?どうしましたご主人様!?」
「寄るな!色々といかん!」
「あれがリリーさん…?負けた…」
「なんで逃げるんですか!ご主人様!?」
此処に居るのは色々とまずいのでとりあえず浴槽から出ると、腰に巻いてあった長めのタオルを落ちない様に抑えて距離を取る。
「と、とりあえず服を着ろ!」
「え?…あぁ、なるほど!つまり私のナイスボディに興奮してしまったと!大丈夫です!いつでもウェルカムです!」
「リリーさん、ご主人様は貞操観念の低い女性はNGですよ?」
「そうなんですか?…わふっ!?」
何時まで経っても隠そうとしなかったのでとりあえず予備に持ってきたタオルを投げ付ける…この時程用意が大事だと思ったことは無い。
「マニ、リリーを放っておくといつの間にか子供とか居そうだから見張っておいてくれ」
「了解です!ふふふ…そのスイカの秘密を暴いてやります…」
「私はそこまで交尾に興味は無いですから安心してください。マスコットが夢を壊しちゃダメですからね」
「既に見た目がマスコットじゃないんだが…」
どちらかというとアイドルとか女優ってレベルだ…。
…
……
………
とりあえずライアーの服を勝手に借りて着せてみた。
長さやお腹周りのサイズはバッチリなのだが…。
「ボタンが飛ぶとか初めて見たんだが…」
「ご主人様、これきついから脱いでいいです?あとお尻の辺りも苦しいんですけど…」
「あははは!!ボタンが!ボタンが!あははは!」
「マニ…笑うな…俺だって我慢してるんだぞ…」
「もういっそのこと羊毛でも刈り取ってきて体に張り付ければいいんですよ!あははは!」
"あははは!"
"きゃははは!"
「この声は…あいつらか…」
"リリー凄い凄い!"
"さっき見てきたけど一番大きかったリンネさんより大きいよ!"
"ちなみに1番小さかったのはライアーさんとセリスさんだよ!"
"違うよ!1番小さいのはマニお姉ちゃんだよ!"
"きゃははは!"
"あははは!"
「なんですか!?この失礼な食用兎は!?」
「えーっと…お前の弟と妹?」
"ペッタンコー、あははは!"
"ペッタンコー、きゃははは!"
「むきー!!ご主人様!今夜はご馳走ですよ!」
"怖い怖ーい!きゃははは!"
"怖い怖ーい!あははは!"
兎共が空に飛んで逃げていって、それを顔が真っ赤っかのマニが追いかけていった…しばらくすると何処からともなく破壊音と爆音がしてきたが気にしないでおこう…胃が痛くなるから。
「ご主人様…どうしましょう?」
「とりあえず冬用の上着でも着ておけ」
念の為に1着買っておいたモコモコの上着を投げて渡した。
着替え終わったリリーは結局下着と膝まである上着1枚というなんとも言えない格好に変身した…。
素足だったのでついでにサンダルも渡しておく。
「そそられます?」
「…………ふん」
少しだけ可愛いと思ったけどそれを言うと絶対に調子に乗るとも思ったので結局鼻であしらった。
「でもやっぱり魔力がぐんぐん無くなっていきますね…とりあえずライアーさん達にもお披露目したいのでそれが終わったら元に戻ります」
「それはいいんだけどさ…なんで俺の背中に乗るの?」
自然に首に腕を掛けて背中に乗ってくるのでとりあえず振り払っておく…どんな誤解が生まれるか分かったもんじゃないからな。
「だってご主人様のポケット入れませんし、頭だって乗れませんし…」
「そもそもなんで乗る前提なんだよ!?歩けよ!イルンから貰った立派な足があるだろ!?」
汚れないようにサンダルだって与えたのに…こいつの考えはよく分からない。
「はっ!?そうだった!…おぉ!歩ける!」
変な所でカルチャーショックを受けているリリーを見てひよこの雛とか産まれたばかりの馬を見ている気分になる小吉であった。
クギリガー…




