80話 ウルルと教授
ウルルの案内で屋敷の様な場所の通路を歩いていく。
さっきの部屋と違い質素ながらも落ち着いた雰囲気を感じる良い廊下だ。
「なぁ、此処は何処なんだ?」
「此処ですか?此処は"神の庭"と言われる場所でいわば神の心の中です」
「おいマニ…このアホ毛の頭やばいぞ」
「完全にアレを患っちゃってますね…」
「失礼ですねぇ…聞こえてますよ?ていうか聞こえる様に言いましたよね?大体"神の庭"は小吉さんも訪れた事は何度かある筈ですよ?」
「え?そうなの?」
そう言われてみればアホ神の何も無い白色の空間や元バルト、ダスターのthe宮殿の庭とかを思い出す。
「あぁ行ったことある様な無いような…」
「でも此処は厳密には神の庭じゃありませんね…、私と教授は半神なので教授が作った装置を使って作られた人工の神の庭ですね。さぁ着きましたよ。中で教授が待ってます」
ウルルはノックもせずにドアを開けて中に入っていく…。
2人は「え?いいの?」みたいな顔をしながらも一緒について行く…。
部屋の中は異常に広く、体育館並の空間に様々な大小様々な機材が置かれていて今もその大半が稼働している。
ボンッ!!!
「ごほっ!けほっ!…うーむ…やはり魔導グラムがいかんなぁ…触媒が五色芋虫なのが駄目だったのか?いや、反応から考えるとサンチュリアの相性の問題か?ははは!燃えてきたぞォ!!!」
「教授ー、例の2人を連れてきましたよー」
「そうだ!!触媒に龍の胆石を使って反応液にメタルウッドの樹液を使えばいけるのではないか!?うおぉこうしてはおれん!早速取りに行くぞォ!!」
「きょ・う・じゅ!!!」
「わひゃ!?おぉ!ウルル君早速採取に向かうぞ!」
やたらとテンションの高いこの男性が教授の様で、容姿は身長180cm程度で20代前半に見える見た目をしている。
跳ね放題の黒髪にゴーグルを額に上げ、作業着の上に白衣を羽織っている。
顔はどちらかというとイケメンの分類なので少しムカつく。
「そんなのどうでも良くてですねー、例の2人を連れてきましたよー」
「どうでも良くなーい!!!これは来るべき時の為のどこでも便利魔力をジュースに変える君だぁ!!!」
((凄くどうでもいい…))
「これさえあればもしも遭難した時や何かの事情で酒場に行けない時、何時でもオレンジジュースとリンゴジュースとケールジュースが飲めるんだぞ!」
((青汁は要らんだろ…))
「そもそも…」
「こんなに大きい機械持ち運べませんよねぇ…」
このどこでも便利魔力をジュースに変える君は幅2m奥行1m高さ1mというどこでも便利という割には馬鹿でかい代物だ…。
「はっ!?そうか!それは盲点だったぞ!ありがとう青年とスライムの少女よ!…ん?スライム?スライムー!?」
「!?」
「スライムだぁぁ!!」
突然何故かスライムという言葉に反応した教授が驚いてるマニに抱き着こうとする…だが…
「教授、やめてください。マニさんが怖がってるじゃないですか…」
「スライム!スライム!」
ウルルが教授の首根っこを掴んでそれを阻止する…一方教授は暴走状態でマニに近寄ろうとする…。
マニも小吉もその執念と気迫にドン引きしている…。
「やーめーなーさいっ!!」
遂に我慢出来なくなったウルルがそのまま教授をどこでも便利魔力をジュースに変える君に叩き付け破壊する。
「うげっ…なんだこの匂い…」
「物凄く臭いです…」
「はっはっは!なんとこのどこでも便利魔力をジュースに変える君は糞尿からでもそれらを作り出す事が出来るーー」
「「アホかぁぁ!!!」」
小吉が教授の顎を蹴りあげ、マニが浮き上がった教授を地面に叩きつけるという綺麗なコンボが決まった。
「あぶっ!?痛いじゃないか!?ウルル君!絆創膏をくれ!」
「教授、臭いので近寄らないでください」
「ウルル君!?酷くないかね!?」
「あれ?全然ピンピンしてる…」
「私も半殺しにするつもりで殴ったんですけど…」
「チッチッチッ…甘いよ二人共…激甘昇天あんみつよりも甘いよぉ。そう!このパワードスーツver0.0.2のお陰だよ!」
ぷしゅー…
「あれ?…動けん…ちょっとウルル君助けて」
教授が両手を広げた状態でパワードスーツがお釈迦になり、そのままの格好で動けなくなった。
「小吉さん、マニさん、こんな馬鹿放っておいて私の部屋でお茶にしましょう」
「あ、あぁ」
「そ、そうですね…」
「ちょっとー!!置いてかないでー!僕もお茶とプリン食べたいの!!あぁ!扉閉めないで!ごめんなさい!置いてかないで!!」
バタンッ…
「…やば…くっさ…」
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「はぁ、本当に教授には困ったものです…。こちらの席をどうぞ」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
案内された部屋でソファに座り改めて辺りを見渡す。
これまた体育館並の広さを持った空間に本棚が所狭しと並んでいる…、しかも上では本自体が飛んでいてそれが自ら文字通り本棚に吸収されてゆく。
黒い重厚な机の前に置かれたガラスのテーブルとふかふかのソファがあり、テーブルにいい匂いがする香茶と少し大き目のプリンが人数分(3人分)置かれる。
「わぁ!凄く美味しそうです!」
「そうですか?私の手作りなのでそう言われると嬉しいですね」
「お?美味い!」
「美味しいです!それにこの香茶も凄い合いますね!」
両手でカップを持ち上げて香茶を飲みほっこりといい笑顔をするマニはなんとも幸せそうだ。
「しかし良かったのか?ウルルは教授とやらの助手じゃないのか?」
「別に大丈夫ですよ。…教授は研究とかの事になるとあんな感じに変な風になっちゃうんですよ…普段はもっとまともな人なんですけど…」
「大変なんだな…」
「はい…あんなでも偶にはいいところもあるんですよ?」
「好きなんですか?」
「…………いえ、別に」
妙な間があったがそれを指摘するのは無粋なのであろう。
「それはそうとなんで俺とマニはこんな場所に来る羽目になったんだ?」
流石にもうこれが夢なんてアホらしい考えは消え去った。
相変わらず訳が分からない状況だが意識と感覚がハッキリしているのが何よりの証拠だ。
「それは…貴方達はまだ"駒"だからです」
「は?」
「え?」
またまた例の病に蝕まれたのかと思い2人して暖かい目を向ける。
ウルルはそれに対して「最後まで聞け」と言わんばかりにジト目で対抗してきた。
「そうですねぇ…まず貴方達の居た世界に対してどれだけの事を知っていますか?」
「俺達が居た世界か?…魔力があって魔物が居て国があって人にも種族があって…言っちゃ悪いがまるでゲームのテンプレみたいな世界…かな?」
「私もご主人様と同じ意見です」
「やっぱりクロトさんは言ってなかったのですね…いや、当たり前ですね…。では魔力についてはどれだけ知っていますか?」
「魔力ですか?私は単純に魔術とか別の力に変換出来る便利なエネルギーだと思います」
「小吉さんは?」
「同じだな」
「見事に重要な部分だけが抜けてますね…」
ウルルはその事実に少し苦笑いをせざるを得なかった…。
「なんだ?その重要な部分っていうのは?」
「ではお話しましょう。えーっと…驚かないでくださいね?まず貴方達の居た世界というのは神々の遊び場所として創られた世界で、世界自体がゲームなのです」
「…え?」
「ゲームですか?」
「そうです、ゲームです。今から何千年も前に裏の神々向けの娯楽として始まりました。内容はその世界に住む人々に取り憑いて強くし、強大な魔物を倒したり国を救ったり常に何百人存在していた魔王を倒すというものです」
「…その世界に住んでいる人って実際に生活しているんですよね?」
「勿論です…」
「だから裏向けなんだな」
「えぇ…で、神々の中でも秩序と世界と魂の管理を大切に考える組織がそれに気が付いたのが約1000年前…」
「なるほど…で、派遣されたのがクロト達のコミュニティだったって事か?」
「そうです。約50年程掛けてクロトさん達が事の鎮圧に当たって99.99%の人々の自由を神々から取り返しました。残っているのは人に対する制限を極端に緩くして共存する考えを持っていて、それを人が許した場合か神が強過ぎた場合か…です」
「そう聞くと随分と自分勝手な神が多かったんだな…」
「そうですね。基本的に神は自分を特別な存在だと考えていて、自分より遥かに下の人を同等に扱う事を嫌うのが大半ですからね…ペットと思われていたら途轍もなくいい方です」
「そうなのか…じゃあなんでクロト達のコミュニティの神々は皆封神晶に閉じ込められているのに誰も助けようとしないんだ?」
「それを話すと話が大きく逸れますのでまずは魔力の説明をします。…大丈夫ですよ、ちゃんと話しますって。えーっと、魔力という物は簡単に言うと神の基本的なエネルギー源です」
「え?こんなありふれた物がですか!?」
「そうです。…と言ってもその量は桁違いですけどね…、それこそ世界を破壊する兵器に利用される位にね」
「じゃあ何故そんな危ない物がこんなに世界に満ちているんだ?」
「それは先程マニさんが言いましたけど恐らく便利なエネルギーだからです。この世界をゲームとして創る時にこれがあればエンターテインメントとしてより面白くなり、それが財になると考えたのでしょう」
「つまりあの世界に居た人達は突然現れた魔物に突然授かった力を使って対抗したのか…こんな規模のありがた迷惑な話しは聞いたことが無いな」
「おかしな話しですよね…元々そういった世界に住んでたのに神になった途端それを利用するなんて…」
「…神になった途端?…てことは最初から神じゃなかったって事なのか?」
「あれ?知らなかったのですか?神というのは元を辿ればただの生き物です。単純に異常なまでの力を身につけた生物が何かの切っ掛けで神という種族に変わるのですよ?」
「ちょっと待ってくれ…色々と変な事聞きすぎて頭が痛い…」
「という事はウルルさんも元は普通の人間だったって事ですよね?」
「はいそうですよ。ただ私の場合は殆ど教授のせいなんですけどね…。お陰で歳をとるのが極端に遅くなってます…全く、どうせならもっと成長してからやってほしかったです。…えーっと、聞きたいですか?」
「はい!是非!」
マニが目を輝かせて机に身を乗り出し興味津々な事を全身で表現する。
「そうか?神になってかなり長い年月で退屈を覚えた連中が世界をゲームに作り替えたんじゃないのか?そんなに退屈なら俺は嫌だけどね」
「全くその通りだよ小吉君。あまりにも長過ぎる年月を生きるなんて地獄だよ?俺の研究も何時かは絶対にやる事が無くなってしまうだろう…ウルルには可哀想な事をしたと本気で謝罪してるよ」
いつの間にか後ろに立っていた教授?が話しに割り込んできた…。
というか雰囲気やら喋り方まで研究中の彼とは全然違う…誰だこのイケメンは?
「謝らなくてもいいですよ教授ー。私は助手なんですから多分何処にでも付いていきますよー」
表情の読み取りにくかったウルルの顔が少しだけ嬉しそうに見えた。
ただ、それは一瞬ですぐに元の表情に戻ってしまった…。
「ただ、無断でノックも無しに女性の部屋に入るのはどうかと思いますよー?それにまだ小吉さん達に名乗ってすらないですかー」
「おっと!これは失敬…俺はアウシュ・ラトゥン・ト・メゾンーー」
「教授ーまた偽名言ってますよー?いい加減治してくださいその癖ー…」
「あぁ、またやってしまった…すまんな悪気は無い。改めまして、俺の名前はアルメラだ、よろしく。別に教授でもいいぞ」
手を差し出して来たのでこちらもそれに応える。
中々の紳士だ。
「ところで教授ー、なんで動けたんですかー?私あのパワードスーツがエネルギー切れになった時に接着剤で動けなくなる様に細工したんですけどー…」
「ウルル…隠しもしないんだな…。それは彼がちょうど来てくれたからだよ。シャワーを浴びる時間も余裕であったぞ」
そう言ってアルメラが後ろを指さす…。
そこには…
「あぁぁ!!!お前!!」
「…………煩いな」
あの技術都市ヘルメスで出会った黒フードの男が本棚にもたれ掛かって立っていた…。




