79話 変化
場所を移して、先程魔王グレンデルと死闘を繰り広げた場所から約3kmの場所にあるとても簡素な集落にたどり着いた。
山の一部が陥没して周囲が自然と崖で囲まれており、入口は短い山の洞窟から入るルートしかない。
「おぉ!綺麗な場所だな…まさに秘境って感じだ」
「ふふ、やはり人間でもこの景色は美しく見えるのだな。この場所は我々の氏族の祖先が発見した場所で、我々しか知らない。だから此処に隠れていた一部の同胞と私達は奴らの手から逃れる事が出来たのだ」
さっきの長い移動の間にコルオ達はダイゲツに大体の事情を聞いていた。
要点を纏めるとこうだ…、ハンニバルの氏族が邪魔になったフォルスの氏族が彼らを消す事は不可能だと判断し、逆に利用する事にした。
フォルスの仕掛けた策略に嵌められたハンニバルは強制的にフォルスの手駒に…一部のゴブリンは強制労働に使われ、此処に居るゴブリン達はその時に上手く逃げる事が出来た者の集まりだそうだ。
「ひっでぇ話だな…一回目は異常にやばい場所に閉じ込められて、お次は奴隷か…」
「えぇ…だから小吉さん達には本当に感謝しています。さて、とりあえず皆さんの治療をしなくちゃね!ラッツさんとコルオさんとリリーちゃんはあっちの小屋を使って。ナノちゃん達はあそこね。治療はこっちの小屋でやるわ。何かあったら私、ケイリスかこっちのダイゲツに聞いてね」
「よろしくおねがいします…」
「あぁ、分かった」
「チュ!!」
…
……
………
ケイリスに言われた小屋の中は意外にもしっかり作られており、焚き火をするスペース以外に木の床に毛布がある寝場所もきちんと用意されていた。
当初予定していた野宿よりはかなり良いと言えるだろう。
「ヒヲツケテオイタ!アトハジブンデタノム!」
「おう!ありがとさん!」
中に居たゴブリンが外に出て行くとラッツとコルオは床に座る。
「どうしたコルオ?そんな変な顔をして?」
先程からコルオはなんとも言えない微妙な表情をしていたのだ。
一緒に居た時間は短いがそれでも変に感じてしまう。
「だって魔物だろ?魔物は人間の敵だろ?俺には此処のゴブリンの考えが全くもって分からない…」
「そうか?」
「むしろなんでラッツはそんなに簡単に受け入れる事が出来るんだ?何故危険じゃないとそんなに暢気でいられるんだ?」
「…つまりお前は魔物全てが悪で人間全てが守る対象という事か?」
「そりゃそうーー」
「悪人でもか?」
「!?」
「俺の妻と子供は盗賊に殺された…今となっては人間も魔物も大差ないと考えている」
「…………」
「それにお前の仲間と一緒に楽しそうに話していたマニやイナリやトトーナ、それにこのリリーだって魔物だ。でもこいつらは例え旦那の契約が切れたとしても付いてくるだろうな…」
「…え?」
「フラールだって半分幽霊だしライアーだって獣人だしナノ達はクルーだし…あれ?純粋な人って俺と旦那だけ!?…と、とにかく!!魔物の中でもいい奴っていうのは居て、人間でも魔物と大差ない被害を出す奴は居るって話だ!!」
「!!…そうか…なんでこんな簡単な事に気が付けなかったんだろうな…」
「チュ…」
リリーが立ち上がりコルオの下へ行くと慰めるように小さな手で撫でた。
「優しいんだなリリーちゃんは…」
「チュ!」
リリーが腰に手を当てて胸を張って偉そうにふんぞり返るのを見てコルオとラッツが笑みを零す。
「もう闇雲に魔物を襲うのは辞めろよ?」
「あぁ、大丈夫だ、お陰で目が覚めたよ」
「気色悪いな…そういうのはやめろ。やるなら女にやれよな…」
「あはは!気色悪いなんて言われたのは産まれて初めてだよ!みんな勇者ってだけで余所余所しい態度を取るからね…とらないのはリンネとセリスとミディーヴァとあんた達だけだよ」
「そりゃ光栄だな。さて、寝るとしますか…今日は疲れた…」
「あれ?ラッツはお留守番じゃなかったか?」
「うっさい。あれ?リリーは?」
「チュー?」
さぁ寝ようと毛布を被ったラッツはリリーが居ない事に気が付いた…そして当のリリーさんはコルオの所で丸まっていた…どうやら今日はコルオと寝るようだ…。
「マジかよ…」
しょっちゅう一緒に居る自分よりコルオの方に行ったことに少し不満を持ちながらラッツは若干不貞寝気味に眠りに付いた。
…
……
………
チュンチュン!
何時かと同じように陽の光で小吉は目を覚ました…。
(あぁ…朝か…!?)
ガバッ!!
勢い良く上半身を起こして辺りを確認する…どうやら何処かの少し広めな小屋の中に居るようだ。
隣にはライアーや石像になっていた筈のイナリ達も元に戻っていてすやすやと寝ている。
「…そうか…倒したんだな…」
安心しきったのでもう一度寝ようと横になって目を瞑りふと思う。
(そういえば最後なにをしたっけ?確かコルオと2人だけになって…………そうだ!召喚したんだ!)
再び上体を起こして辺りを見回す…、しかし見覚えのある顔しか無い。
今までの経験だと産まれたばかりでもすぐにくっついて来ていたので少し拍子抜けした。
「いててて…はぁ、また大怪我かよ…勘弁してくれよ…」
黒騎士(別次元の魔神)に続いてユリウス、そして今回の旧魔王だ…流石に自身の不幸を疑う。
簡素なベッドから身を起こして外に向かう。
勿論あの後の出来事を聞くためだ。
「あれ?そういえばドアは付いてないんだな…」
外の眩しい光が目を刺激する。
でも心地の良い明るさと気温で気分が良くなる。
「いやいや!駄目だって!」
"いーくーの!!"
"ご主人様が心配なのー!!"
「結構な大怪我だったから!安静にしとかないと大変な事になるんだよ!…って!?旦那!?まだ寝てないと駄目だろ!」
「いや…別にそれ程大した事も無いんだがな…」
実際さっき起き上がる時にしか痛みは感じなかった。
立っている分には全然問題が無い。
それよりも…
"ご主人様!!"
"ご主人様!!"
この今飛び付いてきた角が生えた兎はなんなんだろう?
ズキッ!
「いっ!?」
"ご主人様!?"
"ご主人様!?"
「はぁ…言わんこっちゃない…」
"ご、ごめんなさい…"
"…怒ってる?"
「お、怒っては無いんだが少し降りてくれ…」
ピョンピョン!
「いたたた…で?もしかして君達って…」
"ご主人様の忠実な下僕でございます!"
"ご主人様の忠実な下僕でございます!"
頭に直接響く声で中々にエグい事を言ってくる…。
「げ、下僕は募集してないなぁ…あははは…」
可愛い見た目とのギャップに苦笑いと乾いた笑いしか出てこない…。
"じゃあ奴隷でも…"
"爆弾抱えた特攻隊でも…"
"いいですよ!"
"いいですよ!"
「余計重いわ!!普通でいい!普通で!」
"わーい!普通だ!普通だ!"
"わーい!普通だ!普通だ!"
「まぁいいや…で?名前とかはある?」
"普通です!"
"普通です!"
「お前らアホだろ…」
"?"
"?"
頭に?を浮かべて首をかしげている…多分素で勘違いしてるっぽい仕草に思わず頭を抑える…。
"きゃははは!"
"うふふふ!"
"引っ掛かったぁ!"
"引っ掛かったぁ!勿論冗談でーす!"
「ぐっ…ぐぬぬぬ…」
「旦那落ち着け…子供の悪戯だ」
"ご主人様!"
"名前が欲しいです!"
「よし!シロとクロな」
"ぶー!適当駄目!"
"ぶー!適当駄目!"
「旦那…犬じゃ無いんだから…」
「仕方ないな……」
とりあえずステータスを見てみようかな…
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
名□:null
□族:ハ□ウィ□ードラ□ット
生□□力:&-:"kl3a4c
□由□力:jp2g:&m-
筋□:_#y
□力: 2#5
素□さ:-c&:1u
知□:5"ngp5
□抗:2v
~スキル~
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ゾクッ…
(えっ?…どういう事だ!?文字化けだと!?)
"どうしました?"
"何か問題でもありました?"
「いや…おいラッツ、お前のステータスプレート見せてくれ…」
「?…いいぞ、ほら」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
名前:ラッツ・フランジ
クラス:ストライダー
Rank:C
生存□力:5mc@
□□魔力:9#&
□力:at
体力::/
□□さ:d5
知□:8"
□抗:w1
#データがありません#
#データがありません#
#データがありません#
#データがありません#
#データがありません#
#データがありません#
#データがありません#
#データがありません#
#データがありません#
#データがありません#
#データがありません#
#データがありません#
#データがありません#
#データがありません#
#データがありません#
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「うっ!?」
"ご主人様!?"
"ご主人様!?"
「旦那!?大丈夫か!!」
突然吐き気を覚えて屈み込むが何も食べていなかったので胃液だけが出てきた…。
喉が焼け付く様に痛くなって酸っぱい味が広がる…。
「旦那!水だ…飲めるか?」
ラッツからひったくる様に水筒を受け取ると中身を一気に飲む…。
「ゴホッ!!ゴホッ!!」
「大丈夫か?一体どうしたんだ?」
「はぁはぁ…ラッツこれに異常はあるか?」
「俺のステータスプレート?……いや、何もないが…」
(じゃあ俺がどうかしちまったのか!?心当たりなんて無いぞ!!)
今まで当たり前に出来ていた事が出来なくなり困惑する…しかもそれが自分限定となればパニックになってもおかしくない…。
「もう一回寝たらどうだ?やっぱり全然大丈夫なんかじゃないんだよ…」
"ご主人様…"
"ご主人様…"
「あぁ…そうする…」
そして小吉はうつむきながらそう呟くと中に戻っていった…。
「?」
ラッツは自分のステータスプレートを眺めてひっくり返したり匂いを嗅いだりしてみたがやはり異常は無く、頭に?が浮かぶだけだった。
…
……
………
「なんだったんだあれは…はぁ、やっぱりまだ疲れてんのか…。寝るか」
ベッドに寝転がってまだ温もりが残っている毛布を被り朝日を遮断した。
〜
〜〜
〜〜〜
「…れ?………様?ご……様!ご主人様!」
「!?…なんだマニか…一体どうしたんだ?」
「たたた大変です!大変なんです!」
グレンデルと戦う前よりも小さくなってしまっているマニがとにかく慌てている…仕方なく毛布から顔を覗かせると…
「………は?」
そこは小屋の中ではなく何処か全く分からない赤と黒を基調とした落ち着いた雰囲気の高級そうな部屋だった…。
どうやら小吉とマニは部屋の真ん中にある天蓋付きのベッドの上に居るようだ。
「…此処は?それにライアーやイナリ達は!?」
「分からないです…気が付いたら私とご主人様しか居なかったです…。それにドアも鍵が掛かっていて開かなかったです…」
「あははは!いやいやそんな馬鹿な!これは俺の夢だよ!こんなドア位念じれば開くでしょ?」
ガチャ…ガチャガチャガチャ…
「…………」
「…………」
バンバンバン!…ドンドンドン!!…ガンガンガン!!!
「…大体なんで部屋の中に鍵はおろか鍵穴すら無いんだよ!構造おかしいだろ!作った奴頭おかしいだろ!……そうだ!もう一回寝れば元通りに…」
ドアから戻って来た小吉はベッドに滑り込んで寝ようとし始める…。
「ご主人様ー!一人にしないでくださいよー!!」
「やめろー俺は帰るんだー」
「残された私はどうするんですか!?」
「マニは夢の一部だ!だから大丈夫だ!」
「私はちゃんと本物で此処に居ますってばー!!」
「…本当に居るのか?」
「え?」
「此処に居るのは本当に"本物のマニ"か?本物なら此処に居る訳が無い。今も多分小屋のベッドですやすや寝てる。じゃあ此処に居るのは一体誰だ?本物と同じ記憶を植え付けられた別の何かじゃないのか?」
「やめてくださいよぉ!!怖いじゃないですか!!本物ですよね?私本物ですよね!?」
「…………」
「なんとか言ってくださいよぉ!!うわぁーん!!」
マニは泣きながら小吉を揺らして起こそうとする…小吉が動く気配は全く無い。
コンコンコンッ!!
「「!?」」
突然ドアがノックされて驚く2人…。
「入りますよー?」
ガチャ…
ドアの鍵が解除されて扉が開く。
外から入ってきたのは紫色の長髪で幼い顔に細い黒フレームのメガネを掛けている身長160cm位の女性だ。
服装は黒と紫色を基調とした服とスカートの上に体よりやや大き目の白衣を羽織っている。
胸はライアーよりも無く、まさにキングオブまな板である…でも全体的に落ち着いた雰囲気が出ている美少女と言った感じだが頭の上のアホ毛にどうしても目がいってしまう…。
「おはようございます、小吉さん、マニさん。私はウルルと言います、よろしくおねがいします」
「「ど、どうも…」」
「早速ですけど教授がお待ちですのでこちらへどうぞー」
それだけ告げるとウルルは外に出ていってしまった。
「どうします?」
「え?行くの?」
「誰かが私達を待ってるみたいですし何もする事がないじゃないですか…」
「…まいっか!あのアホ毛まな板面白そうだったし!」
「ご主人様!まな板って言うのは勘弁してあげてください!予想の5倍は傷つきますから!」
そういう自分のない胸を抑えて必死にウルルの味方をする…既に何か似たもの同士的なシンパシーを感じたのだ。
「へいへーい」
「絶対に分かってないですよね」
「はいはい分かった分かった。行くぞー」
何故か分からないが危険は無いと感じたので特に何の警戒もしないまま2人は外に出て行った…。




