76話 旧魔王-3
長いよ…長い長い(当社比)
「ご主人様、阻止失敗しましたね」
「手応えはあったんだがなぁ…」
「小吉君、やれるか?」
「あ?逃げる訳にもいかんだろ…どう考えてもアレを野放しにするとロクな事が無い」
「はははは!我をアレ呼ばわりするか!いいだろう、今は気分がいいから我の名を教えてやろう。我は数百年の時を越えて蘇った旧魔王、グレンデルだ!!」
バチンっ!!
突然グレンデルに向かって鞭が飛ぶ。
しかし爪で弾かれてしまったのであまり意味は無い。
「名前なんて聞いてもないし聞きたくもないわ!この脳筋!」
「ちょ、ちょっとご主人様!挑発してどうするんですか!?」
「こういうのって先に怒った方が負けるじゃーー
シャンッ!!!
ーーうごっ!?」
小吉が吹っ飛び瓦礫の山に直撃する…。
グレンデルが脚を振った後の体勢で立っていることから魔力の刃を飛ばしたと見て間違いないだろう。
「「ご主人様!?」」
「パパ!?」
「小吉!?」
ガラガラガラ…
「うぉぉ!いってぇぇ!!…………なにすんだこの(自・主・規・制)!!!」
(ん?おかしいな…確かに直撃したようにみえたのだが…しかも傷が見当たらない…)
「よそ見なんかしてていいのか?ルーンカリバー!!!」
ガキィィン!!
グレンデルの後ろからコルオが飛び掛りスキルを使って神剣を振るう。
だがやすやすとそれを爪で受け止めたグレンデルに焦りの表情は無い。
「フルパワーギア!」
「お姉ちゃん!」
「問題無しです!」
コルオがグレンデルを足止めしている隙に背後を狙いイナリが駆け出す。
「ふんっ!!」
右腕でコルオを抑え、空いている左腕を背後に向かって振り払う。
ゴキッ…
左腕はイナリの頭に当たり……イナリの姿が霧のように霧散する…。
「やぁ!!」
グレンデルの頭上からイナリが刀を突き付けて落ちてきた。
「幻覚か…」
グレンデルはコルオの神剣を強く押し、隙を付いて後ろに飛び退く。
勿論イナリの攻撃は当たらないが本命はそこじゃない。
ヒュゥーーーン!!!
「!?」
着地したグレンデルに向けて水、炎、雷、レーザー等の様々な高出力のビームが照射され、牢屋の様に逃げ場を封じた。
「みんな!ナイスです!」
「小賢しい真似を…」
「でりゃぁ!!」
「なるほど…いい策だ…」
♪〜♪♪〜〜♪〜♪〜
(またか!?)
マニを迎撃しようと後ろを振り向き、爪を振るうが狙いが上手く付かず、爪の間をマニがくぐり抜けてきた。
ズガンッ!!!
「うごぉ!?」
よろよろと踏ん張り耐え、薄ら笑った時…
ドンッ!
突如グレンデルの顔を中心に爆発が起きて吹き飛ぶ。
その際ビームの檻を通過して大きな傷が付いた。
(やっぱり流し込む魔力を何百倍にもしないと魔力爆破が発動しない…。困りました…)
「ははは!やはり闘いとはこうでなくてはな!!次は我の番だ!」
グレンデルが地を蹴り一瞬で距離を詰める…狙いはマニだ…。
「ふっ!」
爪を袈裟懸けに振り、酷く鋭い刃が迫る…。
トトーナの歌声で動きが制限されている中でも殆ど自由に動いてる様に見える。
マニは異常な速さで迫る爪を先程と同じようにすり抜ける事で難なく回避する…が…
にっ…
グレンデルが読んでたと言わんばかりに凶悪な笑みを浮かべ左腕を伸ばす。
マニは先程と同じようにまた顔を狙っていたため面食らってしまう。
ゴォォォゥ!!
左手からドス黒いオーラが照射されマニを呑み込もうとする…。
(!?)
咄嗟に体を捻り回避をしようと試みるが…
「あうっ!?」
オーラが脇腹から右腕にかけてを呑み込んでいき、そのままの勢いで吹き飛ばした。
「お姉ちゃん!!」
「マニちゃん!?」
慌ててイナリとコルオがオーラを断ち切って間に割って入る。
「イミテーション!!」
イナリとコルオのイミテーションが生成されグレンデルを囲む。
本人達とイミテーションとで入れ替わり立ち代わりで斬撃と魔術を浴びせかける。
「みんなも手伝ってあげて!」
更にフラールとライアーによる援護もそこに入る。
「マニ!!大丈夫かーー」
小吉が顔色を変えてマニに駆け寄る…。
恐らく先程オーラが直撃したであろう部位は欠損していた…。
「おい!しっかりしろ!」
「体積が減っただけなので大丈夫です…でもこんなにも痛いのは初めてです…。痛くて変身が上手くいきません…私1人で治せるのでご主人様はあっちを手伝ってあげてください…」
「…その言葉、絶対だな?」
「絶対です…」
「絶対に生き延びろ、命令だ」
小吉は立ち上がりカリバーンを取り出し駆け出す。
グレンデルが手近のイミテーションを一振りで両断し、後ろからの斬撃をしゃがんで躱した後に足払いを掛け喉元を切り裂く。
イミテーションの束では殆ど意味を成していない状態だ…。
「くはははは!!最高に楽しいではないか!!」
トトーナが飛ばした羽の針を切り裂き、アラ君が発射したミサイルをオーラを当て爆破する。
爆炎と煙を割いてイナリとコルオが飛び出し一太刀入れようとするが容易く爪に受け止められ、すぐにその場を飛び退く。
ゴロゴロゴロ…
ピシャーン!!!
「あがぁ!!?」
通常の雷の比ではない電圧を持った雷がグレンデルに直撃しグレンデルが膝をつく。
「ふふふふ…」
不敵に笑うグレンデルに嫌な予感を感じたイナリが止めを刺そうと距離を詰めた瞬間…
「うがぁぁあぁぁあ!!!!」
グレンデルが立ち上がり爆音の様な咆哮とドス黒いオーラを迸らせる…。
「っ!?」
あまりにも予想外の行動と爆音に耳を抑え距離を取ろうとするがグレンデルは既に動き出していた…。
ドスッ!!
馬鹿みたいな力を持った蹴りがイナリを捉え、体がくの字になって大きく吹き飛ばされる…。
その際刀が折れて何処かに飛んでいってしまった。
「我ながら見事な蹴りだ。立ち上がる事もままならないだろうな…」
「イナリお姉ーーきゃぁ!?」
トトーナが悲鳴に似た声を出し飛んで駆け付けようとするが何かに引っ掛かって飛び上がった瞬間に転んだ。
「ーーひっ!?」
そして足元を見ると黒いモヤが左足を覆っておりどうにもこうにも動かす事が出来ない…。
トトーナが気が付いた直後モヤが一気に膨張しトトーナを覆い尽す…。
「トトーナ!!!」
「帰ってきたか、魔物使いの小僧…。心配するな…殺しはしない。これ程の手練は惜しい人材だからな。だが貴様等人間共は我の世界には要らん!」
「ふざけんな!!てめぇなんぞにこいつらは絶対にやらねぇ!!」
小吉が駆け出し、グレンデルはその場で待ち構える…その顔はまさに命懸けのやり取りを楽しんでいるようだ。
リーチの長いグレンデルが先に仕掛け、長い爪を地面に突き刺し振り上げる事で土砂を巻き上げる。
ゴォウ!!
しかし巻き上げられた土砂は超高温の炎で燃やし尽くされ意味を成すことは無かった。
やったぜ!みたいな顔をするコルオを他所に小吉はそのままグレンデルの懐に入り込み剣を振り抜く。
予想外の行動を見たグレンデルはそれをげいするのは無理と判断し後ろに飛び斬撃を避けようとするが…
ガクンッ!!
「!?」
右足に力が入らずによろける…、見ると右膝から下の辺りに小さな折れた刀の破片が突き刺さっており、今の反動で筋が切れた様だ。
「ごほっ!ごほっ!…ざまぁみろです…」
木にもたれ掛かっていたイナリが苦悶の表情とうまく行った事に対する笑みを浮かべた後、トトーナと同様に黒いモヤに包まれた…。
ザクッ!!
小吉の斬撃がグレンデルの腹を捉えて血しぶきが舞い、追撃として限界まで強化した脚による蹴りを放ち大きく吹き飛ばす。
「……くそっ!やっぱり解けてないか!」
イナリとトトーナの拘束が解けていないことからまだグレンデルを倒していないと考え砂煙の向こうを見る。
「きゃあ!?」
と、何故か砂煙と関係のない方向からフラールの悲鳴が聞こえて反射的にそっちを見る。
「ふははは!!お前達は強い!見事なチームプレイだ!あの狐娘もただでは終されせまいと咄嗟の判断で我に牙を剥いた…しかし人間はこういうのには弱いのだろう?」
そこにはフラールの首に爪を突き付けているグレンデルの姿があった…。
ジュルジュル…
「そんな…傷が治っていく…」
「諦めるなライアー!あんな事…相当魔力を使う筈だ、勝機はある」
グレンデルが少しだけ苦悶の表情を浮かべている事からそんなに何回も出来る事ではないと予想する。
「ふぅ…それはどうかな?それはそうとこの小娘も面白いな…人間でも魔物でも無い…いや?両方に属しているのか?まぁいい、こいつも捕まえておくか…」
ズズズズ…
フラールの足元にあの黒いモヤが発生しフラールが暴れだす。
「嫌!!やめてください!!」
「ふん、無理な相談だな。おっと動くなよ?こいつを拘束する前に首が無くなるかもしれんからな…」
「嫌!!…はぁ…小吉さん、絶対に助けてくださいね…」
少し涙目になりながらもそれを悟られまいと必死に笑みを浮かべるフラールをただただ見守る事しか出来ない自分自身に腹が立ってきた…。
「当たり前だ。全員助けるよ」
やがてフラールの全身を黒いモヤが覆って動かなくなった…。
「さて、続きといこうか…次は誰をこうしたい?」
「貴様!!」
ライアーが走りながら飛び上がる。
その目には少し涙が浮かんでいる…。
「ふっ!!…ウォォーーン!!!」
空中で獣化を使い確実に前よりも強力になった白い毛並みの全長4m程の大きな狼に変身したライアーが着地した瞬間…
ガシッ!
「落ち着け、冷静になれ」
小吉がライアーの頭を両手で掴み頭を冷ます。
(…済まない)
「大丈夫だ、必ずやれる。コルオ!」
「あぁ…」
「「やるぞ…」」
まず先陣を切ったのはコルオと小吉だった。
「フレアボール!!」
(イナリちゃんみたいに筋を斬る事が出来れば…)
コルオは魔術を連続で放ち、超高温の炎がVの字になる様に配置し逃げ道を塞ぎつつ攻撃を加える。
「いい案だ、しかし…ふん!」
グレンデルが治った右足で大きく空中を蹴り、更にそのまま一回転して今度は爪を振るう。
シャン!シシャン!!
最初の魔力の刃が魔術を切り裂き、次の3つの刃が余波をかき消してそのままコルオに迫る。
コルオはそのまま走り続け魔力の刃が当たる前にスライディングで避けつつ更に距離を詰める。
ヒュヒュッ!!
今度は後ろに回り込んでいた小吉が鞭による攻撃をする。
「ふははは!やはり貴様が1番猛ってるではないか!!」
「…………」
グレンデルはジャンプでそれを避けると空中で小吉に左手を向けてドス黒いオーラを放つ。
勿論そこまでは簡単に予想できていた小吉は難なく避け何かを引っ張る仕草をした。
ヒュルヒュル…シュパンッ!!!
「なに!?」
宙で逃げ道が無くなったグレンデルに細い糸が絡みつき空中で固定される…。
「ガルルルル…」
ライアーが唸り声を上げると辺りを雷雲が覆い尽くす。
同時にコルオも剣を振りかぶった。
「ホーリーカリバー!!!」
「ウォォォン!!!」
ザクッ!!…ズゴォーン!!!
「ぐふっ…」
コルオがグレンデルを切ってそのまま離脱した瞬間、極太の雷がグレンデルに降り注ぎ地面を穿つ…。
電撃が糸を焼き切り黒焦げのグレンデルが地面に落ちる。
「まずは1回…」
今までの状況から既に楽観が消えまだ生きている事を前提に集中する。
ヒュン!
(そこだ!!)
穴から飛び出してきた何かに一気に近寄って剣を一閃する。
ブシュッ!!
肉を斬る確かな手応えと呻き声を感じたすぐ後、空中で魔力の噴射を使い無理矢理体を動かして何かに対してかかと押しをする。
ゴッ!
ガシッ!
「っ!?」
ズドン!!
「がはぁ!!!」
地面に背中から叩き付けられ肺の空気が全て抜けてゆく…。
砂煙が晴れるとグレンデルが小吉の足を掴んで立っていた。
どうやらかかと押しをした瞬間に足を掴まれて逆に地面に叩きつけられたようだ…。
「はぁはぁ…死ね、小僧…」
グレンデルが爪を振り上げる…だがしかしその瞬間、既にそこに小吉は居なかった。
「グルルル…!!!」
「げほっ!げほっ!」
ライアーが口に銜えた小吉を降ろすとグレンデルに向き直り唸り声を上げる。
「ライアー、助かった…」
「ふふふ、命拾いしたな小僧…せいぜいその狼に例を言うんだな」
「グルルル…」
ガクッ……
突然ライアーが膝をつく…しかしその目は真っ直ぐとグレンデルを捉えたままだ。
「ライアー!?」
ポタポタ…
ライアーの体の左脇腹に大きな切り傷が出来ていてそこから大量の血が垂れている…。
(私は大丈夫だ…それよりもーー)
「馬鹿!!まずはお前の傷を治すのが先ーー」
(馬鹿はお前だ!!小吉は仲間を大切にし過ぎだ…仲間がやられるとすぐに焦る。それも大事だがそれで負けていたらどの道全員死ぬ…まずは勝ってからだ)
「ライアー君!大丈夫か!?」
駆け寄ってきたコルオが回復魔術でとりあえず傷を塞ぐ…、ヨロヨロとライアーは立ち上がるとグレンデルを睨み付けて威嚇をする。
「…分かった…でも無茶はしないでくれ、頼む」
(勿論だ…)
「ふんぬ!!!」
グレンデルが近くにあった家を潰している直径10m程の大岩を持ち上げる…。
いち早くそれに気が付いたライアーはすぐに2人を銜えて背中に乗せると駆け出した。
「おりゃぁぁぁ!!!!」
そしてグレンデルが空に向かって思いっきり大岩を投げると自身もジャンプして大岩の上に先回りし両手を組んで振り上げる。
「だぁりゃぁぁ!!!」
バゴンッ!!
そして組んだ両手を飛んできた岩に叩きつけ粉砕する…、粉砕された大岩がボーリングサイズから大型犬サイズまでの大小様々な形に砕け地上に降り注ぐ。
ズドン!ズドドドドドド!!!
当たったら痛いで済まされない程の勢いが付いた岩の間を器用にライアーがすり抜け、避け切れない物は小吉とコルオが砕く。
そして全ての岩を見切った瞬間グレンデルに大きく跳躍しライアーの背中から2人が飛び上がる。
「「化け物みたいな攻撃してんじゃねぇぇ!!!」」
シャン!ズシュ!!
「がはっ!!?」
小吉の斬撃が左腕の肘から先を…コルオの斬撃が右脚の脛から先を斬り飛ばした…。
そしてライアーが2人を上手くキャッチし、グレンデルが地上に墜落する…。
ズンッ!!
スタッ!!
「くぅ〜ん…」
シュルルル…
地上に不時着気味に降りるとライアーが元の姿に戻り、顔には苦悶の表情を浮かべて膝を付く…。
「はぁはぁ…すまん、小吉…少し無茶をしてしまった様だ…」
座る事もままならなくなったライアーは地面にそのまま伏せる…。
「おい!ライアー!しっかりしろ!うぐっ!!」
ぬるっ…
腹部に激痛が走り思わず手で抑える…すると
手に何かが付着し変な感触を感じたので見てみると真っ赤に染っていた…。
「ごほっ!!ごほっ!!」
コルオも血を吐きつつ立ち上がった…こちらは胸に大きな傷が付いていて、顔にも赤く血が流れている。
どうやらさっき手足を切り落とした時に2人とも反撃を受けていた様だ…。
「立てるかい…小吉君?」
「当たり前だ…そっちこそフラフラじゃないか…」
何故立ち上がったかなんて言うまでもない…。
向こうも立ち上がったからだ。
しかし足はきちんと再生しているものの左腕は再生が不完全になっていて指が無いただの棒みたいになっている…。
そして爪だ…1つは先が欠け、1つは半ばから折れている。
「くくく…本当に久しぶりだ…勇者と戦った時と同じ気分だ…」
「コルオ…俺達が束になってもあの筋肉お化けを倒せるか分からねぇ…」
「…………」
「だから確実に倒せる様に奥の手を使う」
「なら俺も奥の手を…」
「いや、コルオのは取っておいてくれ…」
そう言って小吉はポケットの中から頑丈な金属の小さなボトルを取り出しその中身を一口で飲み干した。
「なんで?」
「俺が暴走したら止めるためだ。……いくぞ、…強魔召喚!!」




