72話 潜入-2
周りのゴブリンに比べてかなり綺麗な2人のゴブリン…ライアーとセリスは皿洗いをやらされていた。
「はぁ…」
「どうした?セリス?」
「なんかコルオさん達が心配になってきただけです…」
「た、確かに…」
「他の人達は無事に忍び込んでたので大丈夫そうなんですけどね…」
「早いところ何か手掛かりを掴まないとな。それにしても凄い量の皿だな…、どれだけ食べているんだ?」
「そうですねぇ…これじゃ潜入どころじゃないですよね…。そうだ!良いこと思いつきましたよ!」
「良いこと?」
「はい!えーとですね…ゴニョゴニョ…」
「えっ!?それはちょっと抵抗があるのだが…私には小吉が居るのだし…」
「大丈夫ですよ!演技するだけですし、何よりも確実です」
「そ、そうではあるが…」
「じゃあやりますよ」
「ちょっと待ってくれ!まだ心の準備がーー」
セリスは最後まで聞かずに少し離れた所に居たゴブリン2人に声を掛けた…。
「貴方達…少し時間空いていますか?」
「ン?ドウシタ?」
「私達少し酔ってしまった様でお皿洗いどころじゃなくなってしまいまして…」
そう言ってセリスがライアーの肩を掴んで自分に寄せる。
ライアーの顔は真っ赤だ…。
「あそこのお皿を洗ってくれたら後で良いことをしますよ?」
「オォ!ソレハタイヘンダ!オレタチ!マカセロ!」
「お、お願い…します…」
「ソッチノネエサン、ダイジョウブカ?アッチニネドコアル!アトデイク、ヤスンデロ」
そう言って2人のゴブリンはダッシュで皿洗いに行った…。
「ふふふ、ちょろいね…。これで自由に動けるでしょ?」
「そ、そうだけれども…」
「あれ?まだ顔が赤いね。もしかして色じかけは苦手なの?」
「あ、当たり前だ!…セリスは見た目に寄らず黒いな…」
「演技だけね。言っておくけどまだ経験は無いからね。さぁ、行くよ!」
そういう問題では無いと腕を引っ張られるライアーは思った。
…
……
………
一方小吉達はというと…。
(なんの真似だよこれ…)
(潜入調査と言えばこれだろ!)
動く箱が2つあり、ゴブリンが傍を通る度に静かになる。
(本当はダンボールが良かったんだけどこの世界には無いからな…)
(本当に小吉君は訳がわからないね確かにカモフラージュには最適だと思うけど…)
(来たぞ!動くな!)
速やかに壁際に2つの箱が寄り、1箇所に固まる。
箱が2つある事でより不自然さは無くなっている。
木箱の隙間から外を見ると同時に、魔力を辺りに広げて正確な位置などを把握する。
「ホントウニシサイサマタチハタベルヨナ…」
※「本当に司祭様達は食べるよな…」
「ダナ…。モットホリョヲハタラカセナイトオレタチウエル」
※「だな…。もっと捕虜を働かせないと俺達飢える」
「ドレダケリョウリハコンダンダロウナ…」
※「どれだけ料理運んだんだろうな…」
「モウクタクタダ…オッ!コンナトコロニチョウドイイハコガアルジャナイカ!スコシヤスム!」
※「もうくたくただ…おっ!こんな所に丁度いい箱があるじゃないか!少し休む!」
そう言うと2人のゴブリンは箱に座って寛ぎ始めた…。
(おいおい…勘弁してくれよ!)
(どうするんだこれ!?小吉君の案だろ!どうにかしろよ!そうだ!こいつらを君の手下にすれば…)
(無理だ…俺のスキルは目を合わせてないと出来ない…)
(なんだって!?じゃあこれは…)
(詰みです)
(バカヤロー!!!)
こんな時だから思うけど本当に理解者の理ってスキル便利だな…、普通に意思疎通が出来る。
(小吉君が変な案出すからだぞ!)
(お前も最初は乗り気だったじゃないか!!ーーってくさっ!!?なんだこいつ!?凄まじい臭いがするぞ!)
もしかしてゴブリンって体を清潔に保つ生活魔術が使えないのか!?
でもハンニバル達は使えていたよな…。
(ははは!!そこのゴブリン!もっとやれ!あははは!!)
ぷぅ〜〜…
「アッ。スマン、ヘガデタ」
※「あっ。すまん、屁が出た」
(ぐわぁぁあぁぁああぁ!!?なんてことをしてくれたんだこいつ!!くっせぇー!!!)
(あははは!!やばい!笑いすぎて涙が出てきた!わはははは!!)
「ン?ナンカハコノナカニイルノカ?」
※「ん?なんか箱の中に居るのか?」
突如冷静に戻った2人に冷や汗が流れる…。
(コルオ…俺の言いたい事は分かるか?)
(あぁ、丁度俺も思っていた所だ…)
「「くせぇんだよコラァァァ!!!!」」
箱を突き破って上に乗っていたゴブリンを吹き飛ばす。
乗っていたゴブリンはそのまま通路の天井に頭をぶつけて気絶する。
「もういい!箱はやめだ!」
「とりあえず水を掛けてやる!」
そう言ってコルオがゴブリンに水を掛け始める…、少しは臭いも落ちるかもな。
そしてとりあえずゴブリンを壁に寄せてそのうえに箱の残骸を載せることでカモフラージュして先に進む。
…
……
………
「ふぉっふぉっふぉっ!どんどん食べ物を持って来い!」
かなり太った大きなゴブリンが骨付き肉を頬張りながら他のゴブリンに命令する。
身なりはかなり立派であるが、人によっては悪趣味と言うかもしれない程に金色でまとまった防具を身につけている。
「ブルタン。食ってる場合じゃないだろう…"人形"が敗走したんだぞ」
傍に居たかなりの細身で高身長な杖を持ったゴブリンが青筋が浮かびそうな程の声でブルタンに話しかけた。
「ふぉっふぉっふぉっ!放っておけばいいだろうファルス!どうせ本命は別にあるのだからな」
「そこではない!"人形"を破るくらいの強さを持った侵入者が居たって事だろう!それくらい気がつけ!馬鹿!」
「ふんっ!馬鹿と言った方が馬鹿なのだ!…おーい!次は魚を持ってくるのだ!塩コショウとスパイスを効かせたやつをな!」
「お前も真面目に考えろ!!本命はまだ使う訳にはいかんだろ!アレは準備に時間が掛かり過ぎるのはお前も知っているだろ!?」
「もちろん知ってるぞ。別にアレを使わなくても"人形"共を使えば問題ないだろう」
「しかしそれがやられた場合はどうするんだ?我々の力では"人形"を抑える事だけで精一杯なのだぞ?」
「ふぉっふぉっふぉっ!別に大丈夫だと思うぞ?なんせあいつらは単体でもかなり強いからな!流石はゴブリン氏族随一の武闘派だ。手駒としてこれ程心強いものは無い」
「甘い!お前は楽観的過ぎる!大体いつもいつもーーー」
そう言ってファルスと呼ばれたゴブリンが普段からの憤りをぶちまけ始めた…。
段々と傍に控えていたゴブリンが距離をとって行くのを小吉ゴブリンとコルオゴブリンが入口の影から見ていた…。
「なんだ…あの成金デブは…」
「小吉君。その横の細身のゴブリン…あれが君の言っていた"司祭"じゃないのか?」
「多分そうだ。さっきの会話からも間違いないと思う」
「どうする?他の仲間に連絡するか?」
「そりゃ勿論するだろう…。それともお前は手柄が欲しいだけのアホなのか?」
「んなっ!?そんな訳あるか!よし!呼びに行くぞ!」
意気揚々と歩き始めたその時…
「オイ!ソコノオマエタチ!コレハコベ!ヨロシク!」
中の様子をみてヤバイと判断したのか、2匹のゴブリンがたまたま傍に居た小吉達に二人がかりで運ばないといけない様な大きな皿を渡して走って逃げていった…。
あまりに一瞬の出来事だった事から2人は唖然としている。
「「は?」」
食欲を強く刺激する様な匂いが漂いちょっとヨダレが出てきた…。
「これを中に運ぶのか?」
「別に放っておけばいいんじゃないのか?それにしてもいい匂いだな…」
皿の上の鉄板の上では魚が未だにパチパチと焼かれている。
それに香ばしい匂いがとても美味そうだ。
パクっ
「あっ!小吉君、君だけずるいぞ!俺にも食わせろ!」
パクパクっ
「この部位スゲー美味いぞ!」
「皮もパリパリして凄く美味い!あいつはいつもこんなのを食べているのか…」
お腹が空いていたのもあるが、かなり美味しくて手が止まらない…その時、
「おーい!!!魚はまだかー!!!早くせんかー!!!」
ズシンッ!ズシンッ!
とうとう痺れを切らした成金デブのブルタンが入口に向かって歩いてきた様だ。
「は、はい!ただいまお持ち致します!!」
「馬鹿!小吉君!ここは逃げるんだよ!」
「お前達…こんなところで何をやっている…」
さぁ逃げよう!そう思った時は既に遅く、入口からブルタンが顔を覗かせていた。
2人は咄嗟に食べていた魚をひっくり返して食べた部分を隠す。
「?…早く持って来い!腹が減って仕方が無いのだ!!」
余程食べたいのかブルタンの目は皿から離れない…。
(今は持っていこう…)
(そうだな…持っていくだけだ…すぐに戻ればいい…)
2人は皿を持ち上げて中に入っていく。
ブルタンは既に席に戻っており、その前に皿を置いたらすぐに不自然にならない様に全速力で部屋から出ようとする…が…
ガシッ!ガシッ!
「「へ?」」
「お前達…これはどういう事だ?」
ブルタンに掴まれた2人が見た物は皿の上の喰いかけの魚だった…。
「「oh…」」
「ワシの魚を食ったのは貴様達だな!?」
口臭が途轍も無く臭い…。
慌てて首を横にブンブン振るが既にブルタンの中では犯人が決まっている様だ…。
「ワシが楽しみにしていた魚を食べるなんて…貴様達は死よりも恐ろしい目に会うと思え!!!……ん?」
何かに気が付いたブルタンは小吉に顔を近づける。
脂ぎった顔が迫ってきて若干の吐き気を覚えた…。
「お前誰だ?」
((ヤバイ!バレた!?))
バレたと分かったらすぐに拘束されているブルタンの手から力ずくで脱出し、ゴブリンの変装を解く。
「なんでバレたか知らないがお前達に聞きたい事が山程ある!覚悟しーー」
ぱかっ!
「「は?」」
突如立っていた床が開き暗闇が顔を覗かせる…。
「「あぁぁああぁぁぁ!!!?」」
そして仲良く2人で落ちていった…。
「アレが例の侵入者か…」
ファルスがリモコン片手に呟く…。
心底呆れた表情から2人の事をかなりの馬鹿だと思っているのだろう。
「ふぉっふぉっふぉっ!あっさりと死んだな!なにせ下は地獄のような所だからな!」
「「わははははははは!!!」」
ブルタンとファルスの笑い声が部屋に響き、その声は小吉達にも届いていた…。




