66話 セリスさん
リリーちゃんの新能力はその内です…。
ヘルメスを出発して一週間半が経過した。
ナノ達の元々持っている速さに小吉のスキルを上乗せした事で驚異的なスピードで進んでいる。
今回は東へ大きく戻る様なルートで進んでいる為、6日ほど前に商業都市のかなり北を通っている。
そして今は夕方になってきた事と、近くに村があった事から今日は少し早めだがそこで1泊する事にした。
「よーし着いた!お前達、お疲れさん」
俺はナノから降りると今日一日分のナノ達の苦労を労う。
「ライアー、ちょっと村で泊めてくれそうな所を……って、おーい?起きてるかー?」
「…ん?………あぁ」
物凄く眠そうな顔でぼーっとしているライアーのめの前で手を降るが反応がかなり鈍い…こころなしかフラついてる様な気がする。
「旦那…トトーナも寝ちゃったぞ…」
ラッツがトトーナをおんぶして歩いてくる…完全に休日のお父さんだな…。
「仕方ないな…マニ、イナリ、フラール、ちょっと泊めてくれそうな所を探してきてくれないか?」
「分かりました!」
「了解です!」
「はいはーい!いこ!お姉ちゃん!」
頭の上のマニをイナリの頭の上に載せ変えるて走ってく2人を見送った。
そして殆ど寝てる様なライアーを背負うと、最低限の荷物をナノ達のカバンから出して歩き始めた。
「俺達、結構遠くまで来たよな…」
「そりゃあんなスピードで11日も走ればかなり遠くまでくるでしょうが…。それにしても目的地ってのは後どれくらいなんだ?」
「地図を見る感じもう少しだな。多分そこのジャングルを1日程進めばつくんじゃないか?」
「アレをか!?…俺、虫とかダメなんだが…」
「ラッツ…それでもおっさん代表か?」
「なんだよ!?おっさん代表って!?」
「そのまんまだよ」
「そういう旦那はどうなんだよ!虫!」
「虫か?素手で触れるくらい大丈夫だ」
「あーっ!?あそこにゴキ〇リが!?」
ラッツが唐突に声を上げ、近くの岩を指さした…。
岩には嫌悪感を覚える黒い虫が居た…。
「………………旦那?何やってんの?」
ラッツは忽然と姿を消した小吉を探してキョロキョロしてると50m程先にあった民家脇の大きな壺にライアーを背負った小吉が顔を突っ込んでいるのを発見した…。
「いや、おかしいなぁ?此処に伝説の大陸の入り口があった気がしたんだが…」
「苦手か!?苦手なのか!?うわははは!!旦那にも苦手があったんだな!うひひひ!」
「わ、笑うな!」
「あっ、居ました!おーい!ご主人様ー!」
奥からフラール達ががひょっこりと顔を出してこっちに声を掛けてきたので手を振ったら駆け寄ってきた。
「見つかったか?」
「ダメです…泊まれる民家どころか1人も人が居ません」
「なっ!?でも生活の跡はあるぞ!?」
「はい、確かにあります…でもだーれも居ないんですよ…」
「僕、ちょっと怖くなってきました…」
「そういうのは口に出すと余計怖くなるぞ」
「えっ!?」
イナリがしまった!といった様な顔をして、マニとフラールが咄嗟に両手で口を抑えた。
「旦那、どうする?」
「多分そのうち戻ってくるだろ?此処で待てばいいさ」
そう言って近くの民家の長いすを借りてそこにライアーを寝かせる。
ついでにほっぺたをむにむにしておく。
「ふふっ…何時までそうやってるんだ?」
いまだに口元を抑えてる2人とちょっと青ざめてきたイナリに少し頬が緩んだ。
…
……
………
パチパチッ…
時刻は大体9時位なのですっかり陽が沈んでしまい辺りにはゆらゆらと揺れる焚き火の光と虫の音色しかない…。
「結局誰も来ませんでしたね…」
「だな…」
今はマニと俺の2人で火の見張りと、多分無いであろう人が来た時の対応の為に起きている。
他のメンバーは持ってきたシートに毛布を出して纏まって寝ている…もちろんラッツは別で寝袋を使用中だ。
「でも一体なんで誰も居ないんでしょうか?」
「ずっとそれを考えてはいたんだが…いきなり村を放棄する何らかの事情があった…、でもこれだと食料とかをあんなに残してあるのが分からない。次に無茶苦茶だが全員が攫われた…、これはない事も無いだろうが論外だな。で、最後は何かから一時的に避難した…、これが1番有り得そうなんだよな…」
「ご主人様って時々凄く頭が回るなぁって思います」
「時々は余計だ」
マニのほっぺたを両手で摘むと、むにーっと反対の方向に引っ張る。
「あででででで!!」
「お前…これで痛みを感じる様には見えないんだが…」
「大正解です!演技です!」
掴んでたマニを離すとゴムみたいにバチーン!と元に戻った。
(おぉ!面白い!)
「ご主人様…人の顔で遊ばないでください…」
「いいじゃないか!俺はこっちに来てから遊びに飢えてるんだよ!」
本当はゲームとか凄くやりたいと思ってるんだよ!積みゲーとかまだ一杯あったのに!
「あぁ…なんかアホ神に対して腹が立ってきた…」
「は、話を戻しますけど仮にその"避難した"が本当だったら一体何から逃げて来たのでしょうか?」
「それなんだよなぁ…、ちょっとした魔物なら村に居るハンターとかに頼めばいいし、それ以前にゴブリン達から聞いた話だと住んでる場所の周辺は平和って言ってたんだよな…」
「じゃあ尚更分かりませんね」
一体なにがあったのか本気で気になってきた2人が悩んでいると声が掛かった。
「あ、あのぉ?………もしもし!!」
「うおっ!?」
「わひゃ!?」
「ひゃっ!?そ、そんなに驚かなくてもいいじゃないですか!」
「…誰だ?」
危うく反射的に手を出すところだった…。
しかし警戒はしたままだ…相手が誰だか分からない上に女の子1人なのだ…1人でこんな所に居るのは理由が分からない。
整った顔と肩まである茶髪に帽子を被り、額にはゴーグルが上げてある。そして150cm位の小柄な体に緑っぽいなんの皮か分からない皮と所々鉱石で強化してある革鎧を着て、同じような素材の動きやすそうなスカートを装備しており、何よりも目を引くのはその背中にある背丈程もある巨大な太い弓だ…。
「そ、そんなに警戒しなくてもいいじゃないですか!?私はセリス・アマルガムと言います。職業はスカウトマスターです。ランクはSです…い、一応ステータスプレートです」
どうやら完全に敵意が無い様なので警戒を解いて剣を収める。
ちゃんとステータスプレートも確認して嘘がない事も確かめた…数値とスキルは勿論隠してあった…。
「済まなかった…、いきなり声を掛けられたものでつい…。それと俺のステータスプレートなんだが前の都市で色々あって壊されちまったんだ…」
「変わりに私のを見せますね!」
「それはそれは災難でしたね…、あっ!どうも………ありがとうございます、マニさん!」
「俺の事は小吉って呼んでもらえればいい。ところで君はなんでこんな所に居るんだ」
聞きたい事は色々とあるが取り敢えずはこれだ。
「あっちで仲間とキャンプを張っていたのですがここから火の光が見えましてね…誰も居ない筈だったので確かめに来たんですよ」
「あっち?」
セリスが指を指した方向を目を凝らして見てみる…しかし分からないので目に身体強化を施したらようやく明かりがあるのが見えた…。
「おいおい…めちゃくちゃ遠いじゃないか…」
「そうですか?私にはみんなが見えるのですが…」
最早目がいいって次元の話ではない…まるで目に望遠鏡が付いてるのと同じだ。
「ほえー…セリスさん若いのに凄いですね!」
「いえいえそれほどでも…、マニさんも見た目にそぐわずとても強いみたいですね」
「私よりもご主人様の方が凄いですよ!」
(いや、どう考えても俺はお前達には勝てないんだがな…)
「そうなんですか?凄いですね!」
セリスのちょっとキラキラした視線が痛い…。
「あっ!大事な事を忘れていました!早くこの地域から離れてください…この辺りには新しい魔王が出現したのです…」
「「…魔王?」」
「はい…既に魔王が近くの街を破壊しています…この辺りでも魔王の配下が暴れていて商人等が殺されています…」
「マジか…どれくらい強いんだ?」
「聞いた話ですと相当の怪力の持ち主だそうで、武術にも長けているそうです」
「怪力で武術に長けてる…」
頭の中では巨人がデカいハンマーを持ち上げて器用に振り回す絵が想像できた…。
「それは恐いな…」
「大丈夫です!その魔王を倒す為に私達が聖教会から派遣されたのです!」
「それは頑張ってほしいな…ここの森には俺達の恩人達が住んでいるからな…あいつらちゃんと避難できたかなぁ?」
「知り合いが居るんですか?」
「まぁな…あっ!でもアイツなら魔王にも勝ちそうだな…」
なんせあのハンニバルだ…むしろ魔王が逃げていく予感がする。
「ですよね!師匠なら魔王にも勝てますよね!」
「そんなに強いんですか!?それは1度お手合わせしてみたいですね!」
「多分勝てんと思うぞ…俺でも分からんからな…」
「舐めてもらっては困りますね…私も自分で思う程には強いと思っていますから」
「セリスさんも言いますねぇ!私も負けてませんよ!」
「ふふふ…こんな時で無ければもっとお話し出来ましたのに…」
「全くだ…」
「ですねぇ…」
"セリスさん…そっちは大丈夫でしたか?"
突如頭に直接響く様な女性の声が聞こえてきて驚いた…。
「あっ、リンネさん。大丈夫でしたよ、人が居ましたがちゃんと忠告しておきました」
"そうですか。なら早く戻ってきて下さい、貴女が遠くに行き過ぎたせいでみんなが心配していますよ?"
「分かった…すぐに戻るよ…」
「引き止めて済まんかったな」
「いえいえ、私も楽しかったです!また会った時はじっくりお話しましょう!」
「そうですね!魔王退治頑張って下さいね!」
「ありがとうございます。小吉さん達も森に入るのはいいですけど魔王に出会ったら即逃げてくださいね」
「あぁ、分かったよ」
そう言って彼女は仲間の方へと走っていった。
「さて、そろそろ交代の時間だな…おーい、起きろリリー、ラッツー」
そして寝ぼけてるラッツとリリーにその場は任せて俺とマニも眠りにつく事にした。




