64話 魔王
「いちっ…にっ…さんっ…しっ…」
ちょっとイナリの様子を見に行こうと思い移動してると、医務室の2つ横のトレーニングルームでイナリが素振りをしていた。
「もう動いてもいいのか?」
「はい!もう大体バッチリです!」
元気そうで安心したが、やはり昨日の夜中の調子を見ていた事で不安になる。
「あんまり無理はするなよ?」
「大丈夫ですよ、ありがとうございます」
そう言ってイナリは再び素振りを始めた。
ユリウスとの戦闘が余程悔しかったのか少し力が入り過ぎている様にも見えた。
「…イナリ、ちょっといいか?」
「?…何ですか?」
てくてくとこっちに近づいてくる。
うっすらと汗をかき長い事やっていたのが分かる。
「偶には休憩も必要だと思うぞ?」
「僕は大丈夫ですーー」
「はいっ!強制な!」
「わわっ!?」
素振りに戻ろうとするイナリを後ろから捕まえて強制的にその場に座らせ、イナリの頭に顎を乗せる。
イナリの身長はかなり低いのでちょうどいい感じに収まった。
「いいい今汗かいてますから!!離してください…」
「離したらまた素振りし始めるだろ?」
「うっ…」
「そんなイナリちゃんに朗報でーす。次の目的地が決まったぞー。ちょっと怪しげな地図を調べた結果、多分ハンニバル達の所に行く事になる」
「師匠の所ですか?」
「おう。そこで不完全だった技術の訓練をしてもらおうって事になった」
「これは師匠に会っても恥ずかしくない様に練習しないとダメですね!」
すっと抜け出そうとするイナリを後ろから拘束する。
「ちゃんと休憩しろ、ずっと振ってたんだろ?」
「むぅ…」
ぼふんっ!!
いきなり捕まえていたイナリの感覚が無くなって煙が薄く残った…。
「ゴホッゴホッ!お前!擬人化解いたな!?」
ボヤける視界の端に尻尾が数本見えたのでそのうちの一本をガシッ!っと掴んだ。
「きゅっ!?」
そのままずるずると引っ張って胴体を掴む…。
「悪い子はお仕置きしないとな!」
「くぅっ!?」
そのままイナリの横腹をくすぐる。
「きゅ!きゅっ!?」
(あっ、これ案外楽しいな)
「きゅ〜〜!!!」
…
……
………
「はぁはぁ…意外に疲れるな…」
「くぅ〜……う〜〜!!」
どうやらイナリさんはご立腹の様だ…少しやり過ぎたかな?
「はいはい、ごめんごめん…」
キツネ状態のイナリを抱き上げてとりあえず撫でておく…尻尾がふさふさして気持がいい。
「きゅ〜!」
どうやらお気に召した様だ…。
「ふっ…ちょろいな…」
「きゅ!?」
「嘘だよ」
とりあえずみんなの所に戻るかな。
イナリが起きてきた事も報告しないといけないし。
…
……
………
ギィ…
「………イナリ!?もう起きても大丈夫なのか!?」
ぼふんっ!!
「はい!もうバッチリです!」
ドアを開けると早速ライアーが駆け寄ってくる。
…イナリ…頼むから抱っこしてる時に変身しないでくれ…。
「本当に良かった…死んじゃったかと思ったんだぞ!?」
ユリウスとの戦いの時の事をライアーは詳しく教えてくれなかった…。
簡単には聞いたが、回復が出来なかった事、砂の様に消えた事を言っていた。
「あぁ…あれですか…」
「私も凄く心配したんですよ!」
マニと涙目になるライアーに対してイナリは何か心当たりがある様で目が泳いでいる。
「あの…凄く言いづらいんですけど…実はあれ、ユリウスに撃たれた時に咄嗟に思い付いたんですけど…僕のイミテーションです…敵を騙すならまずは味方からって言いますよね!でも途中で1回気絶しちゃいまして…何とか危ないところで目が覚めましたけど…あはは…あれ?みんな目が怖いんですけど…」
「私達が…」
「俺達が…」
「「「どれだけ心配したと思ってんだぁ!!?」」」
「わーっ!?僕用事思い出しましたぁ!!」
ドアを開けて逃げようとするイナリを捕まえて拘束する…。
そして面白い事を思い出した。
「そうだ!さっきやってた面白い事を思い出した…」
「!!?…ご主人様!それだけは勘弁して!!」
ニヤニヤと笑いながらライアーとマニにその事を告げる。
「総員!イナリをくすぐれー!!」
…
……
………
「旦那達は元気だな…」
(ですねー)
「でも楽しそうですね…」
ラッツとリリーと神の中の1柱のイルンがその光景を眺めていた。
特にやる事の無くなったラッツが先程から読んでいたこの世界の新聞の様な物を再び読み始めた。
「……おいおい、見てみろよこの記事」
(?…すみません今字の勉強中なので殆ど読めないです…)
「お前偉いな…ちゃんと自主的に勉強するなんて…まぁ、何が書いてあるかというと、魔王が現れたらしい…」
(!?)
「魔王ですか?」
「あぁ、何でも聖教会が正式に魔王認定したらしい…」
「その魔王の詳細とかはあるんですか?」
「いや、それがかなり情報が少なくてな…書いてあるのが片腕のゴブリンってだけなんだわ」
(ゴブリンですか?なんか弱そうです)
「リリーさん、そんな事も無いですよ?過去の魔王の中にはゴブリンソルジャーの長が世界の6割を征服していた事もありますから」
「確にスライムとか道具さえ用意すれば簡単に倒せる様な魔物でもあそこに居る奴みたいに化ける様な世界だからな…」
(た、確に…)
「まぁ!なんにせよ俺達には関係のない事だよな!なんか聖教会から勇者を出すみたいな事も書いてあったし!」
(勇者ですか?も、もし会ったら魔物としてやられちゃいますかね?)
リリーがガクブルしながら自分の考えを危惧する…。
「流石にそれは無いと思いますよ?だってリリーさんって小吉さんの契約してる魔物なんでしょ?」
(あっ。そっか!なら大丈夫ですよね!)
「話し変わるけど次行く所って何処だっけ?」
(え?確かご主人様達の師匠に会いに行くとか言ってたと思いますよ?)
「そういえばそうだったな…。旦那達の師匠か…一体どんな化け物が出てくる事やら…」
自分達の知らないところで順調に巻き込まれていく小吉達であった…。




