60話 夜のお散歩
夜…静かな医務室で小吉は寝苦しさから目が覚めた…。
目を開けるとまつ毛に何かが引っかかる感触を受け、手を当てると愛用のアイマスクがしてあった。
恐らくライアーが付けてくれたのだろう。
「あつ…」
アイマスクを外して上体を起こすとデスクスタンドの弱い明かりが眩しく感じた。
時刻は…夜の11時位か?
スタンドの明かりに照らされてライアーとマニとリリーの寝顔が見える。
俺は彼女達を起こさないようにベットから起き上がる。
「いつつ…あちこち骨にヒビ入ってそうだな…」
ただ、歩くのにはなんの支障も無かったので、気になったイナリとトトーナの様子を見る事にしてカーテンを開けて覗き込む。
トトーナは寝相が悪くシーツをくしゃくしゃにしてそれに抱きついて眠っていた。
「風邪ひくぞ…」
俺はシーツをゆっくり取るとトトーナに被せる。
割と大丈夫そうで安心した。
「イナリは…」
俺はトトーナの所のカーテンを締めて他のカーテンを開ける。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
顔が赤く、息遣いも荒い…随分と苦しそうだ…。
俺は最近ライアーとマニから教えてもらった見習いレベルの回復魔術を使って少しでも和らげようとする。
「はぁ…はぁ…ご…主人様?」
どうやら寝苦しくて起きていた様だ…。
「大丈夫か?」
「…大丈夫です…大分楽になりました。ありがとうございます…」
ふふっと笑うイナリを空いた手で撫でる。
サラサラの髪と毛並みの良い耳が撫でていて気持ちがいい。
「…すー…すー…すー…」
しばらくすると苦しそうな寝顔も治りすやすやと寝息を立て始めた。
(…散歩でもするか)
…
……
………
(静かなもんだな…)
この国は大半が地下にあるので幾つかの部屋や通路ばかりが景色として通り過ぎる。
(確か住居区画には自然があるって言ってたな…)
通路を抜けてそこそこ大きなホールに出る。
人は居ないのでとても静かだ。
俺は前世で見慣れたエレベーターのボタンを押して中に入り住居区画へ向かう。
チーン!
"住居区画デス"
ドアが開くと夜空が見える…。
舗装された道と街路樹の横には家々が建ち並んでとても素敵な景観が見える。
(おぉ…スゲー…)
前世では当たり前に近い光景だったが、この世界では殆どお目にかかれない景観に心を奪われる。
(ん?遊歩道?ちょうどいいな)
俺は遊歩道と書かれた看板を見つけたのでそちらに向かう事にした。
林の中に道が出来ていて右側の木々の隙間からは真ん中に噴水のある池が見える。
それに鈴虫の声が響いてなんとも心地よい。
(凄いな…殆ど地上と一緒じゃないか…)
しばらく歩くと左側に"展望台"と書かれた看板を発見した。
俺はなんの迷いもなくそちら側に向かい螺旋階段を上がる。
「…………」
上に上がるとなんかおっさんが目に双眼鏡を当てて池の対岸を凝視していた。
物凄い犯罪臭が漂ってきたので一応声を掛ける事にした…。
「おい、おっさん…何やってんだ?」
「おぁ!?」
おっさんが肩を思いっきりビクつかせて持っていた双眼鏡を落としそうになりお手玉をする…。
「ど、どうした青年?こんな夜更けに何でこんな所に…」
何かこう…威厳というか…厳格というか…そんな感じの雰囲気を出しているおっさんだ…。
「質問に質問で返すなんてどういう教育を受けてきたんだ?」
「はっ!?ワシとした事が…すまぬ、青年よ」
「で?何やってたんだ?」
「こ、これはその…な、なんというか…趣味でバードウォッチングをと…」
「ちょっと貸せ」
「な!?何をする!やめーー」
俺は明らかに何か隠しているおっさんから双眼鏡を奪うと片手でおっさんを抑えながら片手で双眼鏡を使い対岸を見渡す。
「?」
双眼鏡を動かして見渡すとベンチに腰掛けた男女を発見した…。
そこそこいい感じの雰囲気が出ている。
「覗きか?」
「いやいや!?そんな事は無いぞ!…実はな…あそこに居るのはワシの息子なのだが、昔から女性に興味が無かったのだ…しかし今日!珍しく息子が女性に興味を持ったのだ!これは父親として全力でこのチャンスを掴むべきだと思ってな!とりあえず観察するところからーー」
「覗きじゃねぇか!!」
「べふっ!?」
俺は覗き魔のおっさんの腹に手加減して双眼鏡を投げ付けた…。
てかこの双眼鏡倍率低っ!!
やはり自分も少し気になったので悶えるおっさんを尻目に肉眼に身体強力を施して凝視する。
ベンチに座ってるフードを被った小柄な女性と背の高い男性が並んで座っている…。
(なんかフラールに似てんなぁ…多分気の所為だろうけど…)
「いたた…腰に響いた…」
「あれは放っておけば勝手にくっつくだろ…余計な事はしなくていいんじゃないか?」
「そ、そうか?それなら嬉しいんだがな…では、ワシはこれで失礼する。…これでこの国も安泰ーー」
最後に何か言ってた気がするが風の音にかき消される…。
(地下なのに風邪吹くんだな…流石ファンタジー世界…)
小吉は変な所に感心しつつ散歩の続きをする事にした。
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「随分と暗くなっちゃいましたね」
「あはは!ごめん…女の子をこんな時間まで連れ回して…」
「いえいえ!私も楽しかったのでいいですよ!まさかクリントさんにあんな特技があったなんて…」
この2人は部屋を出たあと案内と称して商業区画や娯楽区画を回っていたのだ…後半はクリントのギャンブルでのイカサマで荒稼ぎしていたのだが…。
「でもフラールちゃんも凄いじゃん!ちょっとコツ教えただけですぐに出来る様になったし」
「ふふふ…私手先だけは器用なんですよ 」
「そうだね。…でも良かったよ、部屋を連れ出す前はどれだけ大丈夫って言っても深刻そうな顔してたからね…」
「それは…ご心配おかけしてすみません…」
「別にいいよ、それだけ仲間想いって事でしょ?」
「ふふ…クリントさんは優しいんですね」
「それは皆の憧れの王子様だからね!」
「あはは!それ自分で言います?」
「それぐらいの覚悟でやってるって事さ」
やっぱり面白くておかしな人です。
一緒に居て楽しいです!
「………いつ出発するの?」
「え?いつでしょうね?小吉さんとイナリちゃんとトトーナちゃんの怪我が治ったらですかね?」
「そう…。じゃあ旅が終わったらどうする?」
「旅が終わったらですか?………どうしましょうね?」
「いや、俺に聞かれても…。………出来たら戻ってきて欲しいなって…」
「?…なんでですか?」
(に、鈍い…)
クリントは頭を抑えて蹲った…。
「大丈夫ですか!?頭が痛いんですか?」
「いや…大丈夫…ちょっと色々あっただけ…」
(でも…流石に会って1日も経たずに好きです!って言ってもアレだよなぁ…)
「さて!そろそろ戻るか…多分みんなもう寝てる頃だし」
「そうですね!…あっ!そうだ!マニちゃんとかイナリちゃんとかの寝顔凄く可愛いんですよ!ふふ…ちょっと鑑賞するのが楽しみです!」
2人はベンチから立ち上がると仲良く歩き出した…。
クリントが手を繋ごうか迷っている…。
バサバサ!!
「きゃあ!?」
「危ない!」
突如横の茂みから鳥が飛んでいって、それにフラールが驚いて転びそうになった。
しかしクリントが優しく支える…。
「(そうだ!!)……暗いから足元危ないし手を繋ごうか」
「あ、ありがとうございます」
(よっしゃ!!)
心の中でガッツポーズをするクリントであった…。
「よし!」
手を繋いだ2人の遠くの後方では国王であるデッケンが双眼鏡を覗いてガッツポーズをしていた…。
「…お前まだやってたのか?」
「!?!?」
2014/10/6
(誤字、表現の修正)




