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魂喰い覚醒で最強へ成り上がるFランク少女、意識を奪う闇と共に歩む  作者: beck2026
魂喰いの少女編

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第98話:吸命の灰砂漠と、お母さんのコロッケ

ジュワァァァァ……という小気味良い音が、如月家のキッチンに響いている。

「三月、もうすぐ揚がるから、テーブルにお皿を並べてくれる?」

「はーい、お母さん!」

エプロン姿の母・由美子が、菜箸を器用に使いこなしながら、きつね色に揚がったコロッケを次々と油から引き上げ、しっかりと油を切っていく。

昨晩の夕食で余った肉じゃがを細かく潰し、少しだけひき肉と玉ねぎを炒めて足した、由美子特製のリメイクコロッケである。

かつては過労で倒れかけていた母親が、こうして笑顔で台所に立ち、家族のためにひと手間かけた料理を作ってくれている。三月は戸棚から大皿を取り出しながら、その光景に胸の奥が温かくなるのを感じていた。

「うわっ、熱っ! でもすっげえ美味い! お母さんのコロッケ、昨日の肉じゃがの味がしっかり染み込んでて最高だよ!」

食卓で一番にコロッケにかぶりついた弟の拓也が、ハフハフと息を吐きながら満面の笑みを浮かべた。

その隣では、父の昭雄が「拓也、ソースをかけすぎだぞ。由美子、俺にももう一つ取ってくれるか?」と機嫌良く笑い、食卓には絶えることのない笑い声が溢れている。

「ふふっ、いっぱい作ったから焦らなくても大丈夫よ。三月も、温かいうちにたくさん食べなさいね」

由美子からお皿にコロッケを取り分けてもらい、三月は春の陽だまりのように温かな笑顔を浮かべて頷いた。

彼女が着ているのは、今日も長袖の少し厚手なルームウェアだ。

その服の下、彼女の両腕には、一ヶ月前の第30層での死闘で負った、赤黒く焼け焦げたケロイド状の凄惨な傷跡がびっしりと走っている。

彼女の固有スキル「魂喰い」に都合の良い治癒能力はなく、この物理的に損壊した生身の肉体の傷跡が消え去ることは永遠にない。神経が繋がり、以前以上の力で動かせるようになったとはいえ、時折ひきつるような鈍い痛みが走ることもある。

だが、三月はその痛々しい傷跡や鈍痛のことなど、微塵も気にしていなかった。

むしろ、目の前で笑い合う家族の姿や、母親の作った美味しいご飯を食べるたびに、この傷は「自分が彼らの日常を完璧に守り抜いたという確かな証明」として、彼女の心に冷たくて甘い安心感をもたらしてくれるのだ。

「ごちそうさま! 今日も最高だった! さて、東雲先生の仮説をまとめたレポートの清書をしないと」

拓也が勢いよく立ち上がり、自室へと向かっていく。

三月は「お母さん、お皿洗いは私がやっておくね」と声をかけ、ゆっくりと立ち上がって空いた食器を重ねてシンクへと向かった。

完璧な日常。完璧な嘘。

このお母さんの料理と、家族の幸福な空間を維持するためなら、腕の傷痕だろうが人間の心だろうが、安い対価に過ぎない。

三月はスポンジで皿を洗いながら、今夜の探索のタイムスケジュールを冷徹な演算回路で静かに組み立てていた。

深夜。

家族が完全に寝静まったのを確認した三月は、自室で漆黒のインナースーツと、腕の傷をすっぽりと隠す新しいロングコートに身を包んだ。

背中には、超高密度の魔法金属である星鉄で打たれた特製の封印鞘と、新しく生まれ変わった相棒、「(新)双極の魔刃・黒月」を背負っている。

ただ背負っているだけで地上の金属の数十倍という異常な質量を感じるが、三月の「怪力(中)」と拡張されきった基礎ステータスからすれば、なんの支障もない重さだった。

三月は誰の目も届かない虚空に向かって右手をかざす。

純粋な極大魔力と「重力操作(微)」の併用。空間そのものを圧倒的な質量と重力で物理的に捻じ曲げ、強引に穴を開ける力技。

音もなく展開された漆黒のポータルの中へと、三月は躊躇いなく足を踏み入れた。

一瞬の暗転の後。

彼女の足が降り立ったのは、月も星もない、灰色の空に覆われた荒涼たる世界だった。

迷宮第33層「吸命の灰砂漠」。

見渡す限り、どこまでも続く砂漠の階層。しかし、地面に堆積しているのは砂ではなく、雪のように細かく、そして不気味に蠢く「灰」だった。

その灰は、生物が足を踏み入れた瞬間、獲物に群がるようにまとわりつき、対象の体内から魔力と生命力を強制的に吸い尽くすという、極めて悪辣な環境トラップそのものであった。

普通の探索者であれば、この階層の空気を吸い込み、灰の地面を数歩歩いただけで、全身の魔力を枯渇させられて干からびたミイラと化すだろう。

シュルルルルッ……!

三月が足を踏み下ろした瞬間、周囲の灰が意思を持っているかのように彼女のブーツに絡みつき、その莫大な魔力を吸い上げようと牙を剥いた。

「……なるほど。環境そのものが生命力を削りに来る階層ね」

だが、三月の顔には一切の焦りも苦痛も浮かばなかった。

彼女の体内の血管と魔力回路には、第30層の主から毟り取った「絶魔の竜血(小)」の理が強固にコーティングされている。外部からの不当な魔法干渉や魔力吸収を、その竜の防壁が完全に弾き返していたのだ。

それに加えて、これまでの階層主を喰らい続けて巨大化しきった三月の「魂の器」は、もはや底なしの海のような魔力許容量を誇っている。

仮に防壁をすり抜けて魔力を吸われたとしても、この灰の砂漠が三月の魔力を吸い尽くすよりも前に、砂漠側の許容量がパンクする方が先であった。

「足元が汚れるのは好きじゃないのよね。玄関を掃除するお母さんの仕事が増えちゃうから」

三月が「重力操作(微)」を起動し、自身を中心とした半径数十メートルの重力ベクトルを外側へと弾き飛ばす。

ザァァァァァッ!!という音とともに、彼女にまとわりつこうとしていた生命吸収の灰が、強烈な重力波によって円形に吹き飛ばされ、足元にクレーターのような安全地帯が形成された。

その直後だった。

三月の重力操作に呼応するかのように、数百メートル先の巨大な灰の砂丘が、地鳴りを上げて崩れ落ちた。

ゴゴゴゴゴゴォォォォォ……ッ!!!

舞い上がる灰塵の中から姿を現したのは、全身が枯れ木のような骨と、蠢く灰だけで構成された巨大なアンデッドの竜。

第33層の主、「灰塵の骸竜アッシュ・ボーン・ドラゴン」。

全長四十メートルを超えるその巨竜の眼窩には、生命の暖かさを憎悪するような漆黒の炎が揺らめいている。

竜が巨大な顎を開くと、周囲の灰が竜の口内に向かって凄まじい勢いで収束し、極限まで圧縮された「生命吸収の灰熱線ブレス」のチャージが開始された。

直撃すれば、いかなる防具ごとでも生命力を根こそぎ奪い去る、広範囲の即死攻撃。

「無駄よ。私の器は、あなたの口よりずっと大きいの」

三月は背中に背負った超質量の特製星鉄封印鞘から、「(新)双極の魔刃・黒月」を静かに抜き放った。

鞘から漏れ出す極寒と爆熱の魔力が、星鉄の刀身に完璧に定着し、真紅と蒼碧の極光を放つ。

「多重並列処理」によって、限界を遥かに超えた二つの相反魔力を、黒月の刀身へと一気に流し込む。

星鉄の刀身は、主の無茶な極大出力を一切の熱や歪みを生じさせることなく、完璧に受け止めていた。「絶魔の竜血(小)」のコーティングにより、傷だらけの両腕への魔力自壊も完全に遮断されている。

灰塵の骸竜が、すべてを枯渇させる灰の熱線を放つべく、首を大きく反らせた、その瞬間。

「極大重力」

三月は左手を竜へと向け、「重力操作(微)」の出力を竜の頭上の一点に極限まで圧縮した。

光すら曲げるほどの超高密度の重力場が、竜の頭部を上から強引に押さえつける。

チャージを終えていた灰の熱線は、竜自身の口の中で重力によって暴発し、竜の巨体が自らのエネルギーに飲み込まれて大きく体勢を崩した。

その隙を、三月が見逃すはずがない。

「俊敏(中)」による超高速の踏み込みで、三月は一瞬にして骸竜の懐へと肉薄した。

限界まで高められた「氷結(真)」と「爆熱(微)」の相反魔力を乗せた、星鉄の超質量の一撃。

熱衝撃波サーマル・ショック

黒月が竜の巨大な肋骨を両断した瞬間、極度の凍結が骸竜の巨体を一瞬で絶対零度の氷像へと変える。その直後、内部へとねじ込まれた爆熱が凄まじい勢いで膨張した。

パリィィィィィンッ!!!

鼓膜を裂くような破壊音とともに、未知の深淵の主が、分子レベルで木端微塵に爆砕される。

降り注ぐ灰の破片は、三月の自動透過と重力操作によって、彼女のコートに触れることすらなく地面へと落ちていった。

「……本当に、自壊を気にせずに極大魔法を撃ち込めるって素晴らしいわ。鉄山さんには、また良いお酒でも差し入れしないとね」

三月は完璧な切れ味と魔力伝導を誇る黒月を軽く振り、鞘へと納めた。

そして、宙を舞って足元に転がってきた、骸竜の巨大な魂(魔石)を拾い上げ、口へと放り込む。

流れ込んでくる「生命力吸収」や「灰塵操作」といった強力なスキル群。

だが、三月は一切の迷いなくそれらを棄却した。彼女の極大重力と熱衝撃波の前には、相手の命をちまちまと吸い取るようなスキルなど、魔力回路のノイズにしかならない。

彼女は魂の莫大なエネルギーを、純粋な「魔力許容量の拡張」と基礎ステータスの強化へと全て変換した。

器がさらに巨大に広がり、神経の末端まで圧倒的な力が満ちていくのを感じながら、三月は灰色の空を見上げて小さく息を吐いた。

「早く帰って寝ようっと。明日の朝ごはんは、お母さんがフレンチトーストを焼いてくれるって言ってたし」

人類未踏の第33層を、圧倒的な魔力量と物理の暴力のみで蹂躙し終えた少女の頭の中は、明日の朝食のことでいっぱいだった。

両腕に消えない怪物の証を隠し持った少女は、愛する母の手料理と温かな食卓を守るため、ただひたすらに冷徹に、次の深淵を噛み砕くための歩みを進めるのだった。

お母さんの料理を守るために、どれだけ血を流そうとも怪物の道を進むという三月の歪んだ愛情がより一層際立つ形となりました。

戦闘シーンでは、環境トラップすらも己の「器のデカさ」と「竜の血の防壁」でガン無視し、極大重力で敵のブレスを自爆させるという容赦のない蹂躙劇を見せつけます。新しい黒月も絶好調ですね。

次回の更新もどうぞお楽しみに!

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