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魂喰い覚醒で最強へ成り上がるFランク少女、意識を奪う闇と共に歩む  作者: beck2026
魂喰いの少女編

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第97話:極大重力の理と、温かな肉じゃが

「美味しい! 姉ちゃんの肉じゃが、最高! 糸こんにゃくに味がめっちゃ染みてる!」

如月家のダイニングに、弟・拓也の弾むような声が響き渡った。

テーブルの中央には、大皿に山盛りになった湯気立ての肉じゃがが置かれている。甘辛い醤油と出汁の香りが部屋いっぱいに広がり、父の昭雄も母の由美子も、満面の笑みで箸を進めていた。

「ふふっ、たくさん作ったからおかわりしてね。お父さんも、塩分は控えめにしてあるから安心して食べて」

三月は、家族の輪の中心で、春の陽だまりのように温かな笑顔を浮かべていた。

彼女が着ているのは、少し厚手の長袖のカーディガン。季節感としては少し暑いかもしれないが、彼女は「最近ちょっと冷え性になっちゃって」という完璧な嘘で、家族の誰にも違和感を抱かせることなくその服装を通していた。

長袖の下、彼女の両腕には、一ヶ月前の第30層での死闘で刻まれた、赤黒く焼け焦げたケロイド状の「凄惨な傷跡」がびっしりと走っている。

彼女の持つ「魂喰い」に治癒能力はない。怪物から毟り取ったエネルギーでステータスの最大値がどれほど神の領域に近づこうとも、物理的に損壊した生身の肉体の傷跡が綺麗に消え去ることは永遠にない。

だが、三月はその痛々しい傷跡のことなど、微塵も気にしていなかった。

(……この笑顔を守るために負った傷だもの。勲章みたいなものね)

彼女の心に、自分が人間からかけ離れた怪物になり果てていることへの後悔や、家族に嘘をつき続けている罪悪感は、やはり一切存在しない。

ただ目の前で、かつては死の淵にいた父親が健康そうに笑い、過労で倒れかけていた母親が穏やかに微笑み、弟が夢に向かって元気に白米を掻き込んでいる。この光景という「結果」だけが、彼女にとっての世界のすべてだった。

「ごちそうさま! さあ、東雲先生に頼まれたデータ整理の続きをやらないと!」

拓也が勢いよく立ち上がり、自室へと向かっていく。

三月はその後ろ姿を優しい瞳で見送ると、ゆっくりと立ち上がり、空いた食器を重ねてキッチンへと向かった。

完璧な日常。完璧な嘘。

この幸福な「箱庭」を維持するためなら、自分はなんだって噛み砕く。

三月はスポンジで皿を洗いながら、明日の「予定」を冷徹な演算回路で静かに組み立てていた。

翌日の深夜。

家族が完全に寝静まったのを確認した三月は、漆黒のインナースーツとロングコートに身を包み、自室の虚空に向かって右手をかざした。

昨日、第31層の主「虚海の星喰い(ヴォイド・リヴァイアサン)」を蹂躙した際にも、三月は「空間歪曲」などの大味なスキル定着を冷徹に棄却した。彼女が選んだのは、常に純粋な「器の拡張」と基礎ステータスの底上げだけだ。

そのため、彼女が作り出す「漆黒のポータル」は、空間魔法などの小手先の技術によるものではない。

純粋な極大魔力と「重力操作(微)」の併用。空間そのものを圧倒的な質量と重力で物理的に捻じ曲げ、強引に穴を開けるという力技である。

「……行きましょうか」

三月は暗黒の渦の中へと足を踏み入れ、さらなる未知の深淵へとその身を投じた。

一瞬の暗転の後。

彼女の足が降り立ったのは、視覚情報が完全に狂いそうな、異次元の迷宮だった。

「……なるほど。第31層の主が空間を操る怪物だったから、この深淵はこういう環境になるわけね」

迷宮第32層「断絶の万華鏡界」。

そこは、重力という概念が完全に崩壊し、無数の巨大な幾何学的な「島」や「神殿の欠片」が、上下左右の区別なく虚空に浮遊している空間だった。

空という空が、まるで割れた鏡のようにひび割れ、それぞれの破片の奥に異なる景色が乱反射している。足元の道が途中でプツリと途切れ、数メートル先の空間が完全に「断絶」して別の座標に繋がっているという、物理法則を無視した狂気の階層。

普通の探索者であれば、一歩歩き出した瞬間に空間の断層に身体を両断されるか、永遠に虚空を落ち続けるトラップだらけの領域だ。

「面倒な場所だけど、別にどうってことはないわ」

空間を渡るスキルなど持っていなくとも関係ない。

三月は「空間把握(中)」で周囲の断層データを脳内にダウンロードすると、「重力操作(微)」を起動。自身の肉体にかかる重力ベクトルを自由自在に変更し、途切れた道から虚空へ向けて弾丸のように跳躍した。

浮遊する島から島へと、彼女は自身の重力を制御するだけで、まるで無重力空間を泳ぐようにやすやすと飛び移っていく。

数分ほど浮遊島を渡り歩いた時、三月の脳内のレーダーが、強烈な殺気と空間の歪みを捉えた。

ギチチチチッ……!!

頭上の巨大な浮遊神殿の裏側から、空間の断層を縫うようにして這い出てきたのは、禍々しい紫色の体液を滴らせる、巨大な八本足の怪物。

第32層の主――「虚空紡ぎの次元蜘蛛ディメンション・ウィーバー」。

全長三十メートルを超えるその巨大な蜘蛛は、口から吐き出す糸で「空間そのもの」を縫い合わせ、あるいは切り裂くという、極めて理不尽な生態を持つ魔獣だった。

「シャァァァァァァァッ!!」

次元蜘蛛が奇声を上げ、前足を鋭く振り抜いた。

その瞬間、三月の目の前の空間が「ズレ」た。

目に見えない、不可視の「空間断裂の刃」。

物理的な斬撃ではないため、いかなる強固な装甲であろうとも、空間ごと切り離されてしまえば防御の意味をなさない、必殺の不可避攻撃。

だが、三月は「自動透過の理」を使うまでもなく、ただ右手を軽く前にかざした。

「極小のブラックホールでも、光や空間を曲げるのよ」

三月は右の手のひらの極小の一点に、莫大な魔力と「重力操作(微)」の出力を極限まで圧縮した。

生み出されたのは、光すらも逃がさないほどの超高密度の「極大重力点」。

蜘蛛が放った不可視の空間断裂の刃が、三月の手のひらの前でその異常な重力場に引っ張られ、不自然にぐにゃりと軌道を変えていく。空間を切り裂く刃は、彼女の頬の数ミリ横を通り過ぎて、後方の浮遊島を真っ二つに両断した。

空間魔法など使えなくとも、極限まで高められた重力は空間そのものを歪ませる。

三月は、人間という枠組みを完全に超えた異次元の力技で、敵の必殺攻撃を涼しい顔で処理していく。

「あなたの糸は、うちの洋服のほつれを直すのには使えそうにないわね。……消えなさい」

三月は背中に背負った、超質量の「特製星鉄封印鞘」から、新しく生まれ変わった相棒――(新)双極の魔刃・黒月を抜き放った。

鞘から漏れ出す極寒と爆熱の魔力が、星鉄の刀身に完璧に定着し、真紅と蒼碧の極光を放つ。

次元蜘蛛は、本能的にその大剣の危険性を察知し、自らの前に幾重もの「空間の断層の盾」を展開した。空間を何層にも切り離し、いかなる物理攻撃も届かない絶対の安全圏を作り出す。

「無駄よ」

三月は一気に踏み込み、空中に展開された空間の断層の盾ごと、大剣を横薙ぎに一閃した。

地上の金属の数十倍という異常な質量を持つ星鉄。そこに三月の「怪力(中)」と、限界突破した極大の魔力が乗った、一撃。

それはもはやただの斬撃ではなく、空間の断層を「質量と魔力による純粋な暴力」で強引に叩き潰す破城槌だった。

絶対の安全圏であるはずの空間を物理的に粉砕された蜘蛛の眼球に、信じられないものを見るような驚愕の色が浮かんだ。

その懐へと、限界まで高められた「氷結(真)」と「爆熱(微)」の相反魔力が叩き込まれる。

「【熱衝撃波サーマル・ショック】」

極度の凍結が蜘蛛の巨体を一瞬で硬直させ、直後に爆発的な熱膨張が内部から凄まじい勢いで炸裂する。

「絶魔の竜血(小)」の血管コーティングを持つ三月は、もはや極大出力による魔力の自壊バックバウンドを一切恐れる必要がない。

星鉄の刀身は一切の熱を持たず、ただ純粋な暴力の奔流となって階層主を粉砕した。

パリィィィィィンッ!!!

空間を操る未知の深淵の主が、鼓膜を裂くような破壊音とともに、分子レベルで木端微塵に爆砕される。

「……本当に、この新しい黒月は最高ね。空間の断層を叩き斬っても、全く腕に負担がかからないわ」

三月は完璧な切れ味と魔力伝導を誇る(新)双極の魔刃・黒月を軽く振り、鞘へと納めた。

そして、宙を舞って足元に転がってきた、巨大な次元蜘蛛の魂(魔石)を拾い上げ、口へと放り込む。

流れ込んでくる「空間断裂」や「次元潜行」といった強力なスキル群。

だが、三月は一切の迷いなくそれらを棄却した。彼女の極大重力と熱衝撃波があれば、小賢しい潜行や断裂など魔力回路の邪魔になるだけだ。

彼女は魂の莫大なエネルギーを、純粋な「魔力許容量の拡張」と基礎ステータスの強化へと全て変換する。

器がさらに巨大に広がり、神経の末端まで圧倒的な力が満ちていくのを感じながら、三月は小さく息を吐いた。

「さて。明日のお昼は、残った肉じゃがをリメイクしてコロッケにしようかな。拓也、コロッケ好きだもんね」

人類未踏の第32層を、ただの「重力」と「物理・魔力の圧倒的暴力」のみで蹂躙し終えた少女の頭の中は、明日の献立のことでいっぱいだった。

両腕に消えない怪物の証(傷跡)を隠し持った少女は、家族の待つ温かな食卓を守るため、ただひたすらに冷徹に、次の深淵を噛み砕くための歩みを進めるのだった。

今回は武器の名前を、これまでの「双極の魔刃・黒月」から、星鉄を噛み合わせて完璧に生まれ変わった性能にふさわしく「(新)双極の魔刃・黒月」へとマイナーチェンジいたしました!

「(新)」の一文字が加わるだけで、自壊の限界を突破した新しい強さが視覚的にも際立ちますね。

重力で空間を捻じ曲げ、星鉄の超質量で空間の盾ごと一刀両断する。三月の容赦のない戦闘スタイルが、この新しい武器とともに完全に噛み合っています。

次回の更新もどうぞお楽しみに!

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