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魂喰い覚醒で最強へ成り上がるFランク少女、意識を奪う闇と共に歩む  作者: beck2026


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第84話:灰雪の廃都、動き出す地上の知略と隠蔽の理 迷宮都市の裏路地。

表通りの喧騒から切り離されたような、薄暗く埃っぽい通りに、その店はひっそりと佇んでいる。

黒鉄堂くろがねどう』。

カンッ、カンッ、という重厚な鉄を打つ音が、店の奥から絶え間なく響いていた。

店主である鉄山厳てつざん げんは、赤々と燃える炉の前に立ち、上半身裸で大槌を振るっている。

彼の鍛え抜かれた丸太のような腕が振り下ろされるたび、火花が散り、強靭な魔鋼がその形を変えていく。

「……」

無言で鉄と向き合う鉄山の背中は、一介の鍛冶師というよりも、歴戦の戦士のような威圧感を放っていた。

カラン、と。

店の入り口のくすんだベルが鳴り、一人の客が足を踏み入れた。

「いらっしゃい。悪いが、今は注文が立て込んでてな。冷やかしなら帰ってくれ」

鉄山は炉から目を離すことなく、ぶっきらぼうに言い放つ。

しかし、背後から近づいてきた男――ヨレヨレの白衣に丸眼鏡をかけた青年、東雲慧しののめ けいは、怯むことなく鉄山の背中へと声をかけた。

「素晴らしい槌音ですね。魔素を帯びた金属の不純物を、純粋な腕力と技術だけで叩き出している。……これほどの腕を持つ男が、なぜこんな裏路地でくすぶっているんでしょうかね」

「……あ?」

鉄山の手が止まった。

ゆっくりと振り返った彼の眼光は、ただの客に向けるものではない。明確な『警戒』の色を帯びていた。

「何の用だ、あんた。同業者の偵察か? それとも協会の犬か」

「どちらでもありませんよ。私はただの、しがない学者です。東雲慧と申します」

東雲は薄く笑いながら、名刺を差し出すような仕草で一枚の紙切れをカウンターに置いた。

そこには、手書きでこう書かれていた。

『護民のイージスについて』

その文字を見た瞬間、黒鉄堂の店内の温度が、物理的に数度下がったように感じられた。

燃え盛る炉の熱を完全に打ち消すほどの、凄まじい『殺気』が鉄山の巨体から立ち昇ったのだ。

「……学者先生。あんた、自分がどこに足を踏み入れたのか分かってんのか」

鉄山は手にした大槌を床にドンッと突き立てた。

それだけで床板がミシミシと悲鳴を上げ、東雲の足元まで地響きが伝わる。

「随分と物騒ですね。ですが、私の興味はあなた自身や、あなたの組織の成り立ちにはありません。私が知りたいのはただ一つ」

東雲は殺気に当てられて冷や汗を流しながらも、決して笑みを崩さず、狂気的な探求心を目に宿して言葉を続けた。

「なぜ、あなたが作り上げた『護民の盾』が、一介のFランク探索者に過ぎない『如月三月』の家族を、組織総出でガッチリと守っているのか。……彼女は一体、何者なんですか?」

ピクリ、と鉄山の眉が動いた。

この白衣の男は、ただの勘で動いているわけではない。明確に『如月三月の異常性』に勘付いて、確信を持った上で探りを入れてきている。

「……帰れ」

鉄山は短く、地を這うような声で告げた。

「あの嬢ちゃんが何者だろうと、あんたには関係のない話だ。これ以上、あの家族の周囲を嗅ぎ回るようなら……『護民のイージス』ではなく、俺自身があんたの口を塞ぎに行くぞ」

それは明確な脅迫だった。

しかし東雲は、恐怖よりも好奇心が勝ったように肩をすくめた。

「手荒な真似はご免です。ですが……深層の遺物が地上に現れた以上、もう止まることはできませんよ。彼女が深淵から何を持ち帰ってくるのか、私は学者として、特等席で見届けさせてもらいます」

東雲は背を向け、カランとベルを鳴らして店を出て行った。

一人残された鉄山は、大きく舌打ちをする。

「……厄介なのが湧いてきやがったな。嬢ちゃんのデタラメな力が、いよいよ地上の連中にも漏れ始めてる」

鉄山は店の奥にある黒電話を取り上げ、ダイヤルを回した。

『……はい』

「俺だ。斎藤か?」

『ご無沙汰しております、ボス』

電話の向こうから、如月家の周囲を警護している斎藤の冷静な声が響く。

「如月家の護衛レベルをもう一段階上げろ。協会の連中だけじゃなく、勘のいいネズミが一匹、嬢ちゃんの正体に気づきかけてる。家族には絶対に手出しさせるな」

『了解いたしました。蟻一匹、如月家には近づかせません』

通話を切り、鉄山は再び炉の前に立つ。

彼が今打っているのは、三月の次なる戦いに備えた『黒月』の専用鞘の調整だった。

「……地上こっちの面倒事は俺たちが引き受けてやる。お前は心置きなく、迷宮の底をぶっ壊してこい。嬢ちゃん」

鉄山の槌音が、再び裏路地に力強く響き渡った。

その頃。

地上の喧騒や思惑など一切知る由もない如月三月は、自身のこじ開けた『漆黒のポータル』を抜け、第24層へと足を踏み入れていた。

「……雪? いや、違うわね。これは……」

転移の光が収まると、三月の視界は一面の「灰白色」に覆われていた。

空からは、雪のように細かい灰がとめどなく降り注いでいる。

『空間把握(中)』で周囲の地形を探ると、またしても旧世界の都市の残骸だった。

巨大なスクランブル交差点の跡。そして、半分溶け落ちた円柱形の巨大ファッションビルの残骸。

かつての「渋谷」の中心地が、すべてを焼き尽くされた『灰燼の廃都』として横たわっていた。

「ゲホッ……」

三月は思わず口元を押さえた。

肺に吸い込んだ灰が、ただの粉塵ではないことに気づいたからだ。

この灰は、呼吸と共に体内の魔力を急速に奪い取り、内側から肉体を乾燥させていく「魔力喰いの灰」だったのだ。

(第23層の猛毒瘴気より厄介ね。吸い込むだけでステータスが削られる)

だが、三月はすぐに脳内の『精密魔力循環』をフル稼働させた。

さらに、昨日手に入れた『流体操作(微)』を応用する。灰は固体だが、空気中に舞っている状態であれば「流体」として干渉できるのだ。

「私の周りから、退きなさい」

三月が意思を込めると、彼女の周囲数メートルの空間から、降雨のように舞い散る灰が綺麗に弾き出され、完全なクリアスペースが生まれた。

呼吸の苦しさも、魔力の減少もピタリと止まる。

「本当に便利な能力ね、これ。さて、この階層の『お出迎え』はどこかしら?」

三月が『黒月』の柄に手をかけた、その瞬間だった。

ドドドドドッ!!

足元に高く積もっていた灰の海が突如として爆発し、中から巨大な顎が飛び出してきた。

体長十メートルを超える、灼熱のマグマで構成された巨大なワニのような魔獣。

『深淵の灰焔獣アビス・サラマンダー』。

灰の中に潜み、魔力を奪われて弱った獲物を超高熱の牙で丸呑みにする、この第24層の生態系の頂点だ。

「シャァァァァァッ!!」

灰焔獣の口から、鉄骨すら瞬時に蒸発させる数千度の火炎放射が放たれた。

一直線に三月を飲み込もうとする紅蓮の炎。

「熱いのは、嫌いなのよ」

三月は一切退くことなく、空いている左手を前に突き出した。

『堅牢(中)』の出力を限界まで引き上げ、自身の前面に分厚い魔力の断熱障壁を展開する。

ゴオォォォォォンッ!!

凄まじい火炎が三月の障壁に衝突し、周囲の灰を巻き上げて巨大な火柱を上げる。

常人なら熱線だけで炭化する温度だが、三月の魔力被膜は一切揺るがない。

だが、三月は着ている『漆黒のロングコート』の袖口が、熱波でわずかに焦げたのを見て小さく舌打ちをした。

「……お母さんに買ってもらったコートが、焦げちゃったじゃない」

三月の瞳に、絶対零度の殺意が宿る。

彼女は障壁を展開したまま、『重力操作(微)』で自身の体重をゼロにし、火炎放射の圧力そのものを利用して、空高くへと舞い上がった。

「その口、永遠に閉じさせてあげる」

空中で背中の『双極の魔刃・黒月』を抜き放つ。

『多重並列処理』を起動。右の回路から『爆熱』、左の回路から『氷結』。

灰焔獣が上空の三月を見上げ、再び火炎を吐き出そうと大きく顎を開いた、まさにその瞬間だった。

三月は重力を一気に「下」へと反転させ、落下エネルギーを乗せた黒月を、開かれた巨大な口の中へと深々と突き立てた。

「『熱衝撃波サーマル・ショック』」

ドガァァァァァァァァァァンッッ!!!

怪物の体内で、相反する極大エネルギーが激突した。

内部から発生した超急激な温度変化による真空状態が、マグマでできた強靭な肉体を内側から完全に粉砕。

断末魔を上げる暇すらなく、灰焔獣の巨体は文字通り「爆散」し、周囲の灰と混ざり合って消滅した。

「ふぅ……」

舞い散る火の粉を『流体操作』で払い除けながら、三月はふわりと灰の海へと着地した。

焼け焦げた怪物の残骸の中心に、赤黒く脈打つコアが転がっている。

三月は迷わず左手を突き入れ、その魂を喰らった。

圧倒的な熱量の記憶と、環境に溶け込み獲物を欺く本能が、彼女の器に流れ込んでくる。

光が収まると、新たな理が刻み込まれた。

『魔力隠蔽(中)』の獲得。

自身の莫大な魔力や気配、ステータスを周囲の環境に合わせて完全に偽装・遮断する能力。

これまでは『気配察知』で相手を探ることしかできなかったが、このスキルを使えば、探知能力に優れたSランク探索者や高性能な魔力測定器であっても、三月のことを「ただの無力な一般人」や「ただのFランク探索者」としか認識できなくなる。

「……これは、すごく良いものを手に入れたわね」

三月は満足げに微笑んだ。

協会や裏社会の人間がどれだけ探りを入れてこようとも、この『魔力隠蔽』があれば、地上での日常をより完璧に偽装することができる。

(まるで、私が地上で「ただの女子高生」を演じるためのスキルみたい)

三月は、新しく得た理を早速起動してみた。

彼女の身体から溢れ出ていた深淵のような規格外の魔力が、スッと内側に収束し、完全に気配が消失する。

今の彼女は、どこからどう見ても、何の脅威も持たないただの少女だった。

「完璧ね。さあ、コートがこれ以上焦げないうちに、ちゃっちゃとこの階層を終わらせましょうか」

如月三月は、魔力喰いの灰が舞う渋谷の廃都を、音もなく疾走し始めた。

地上で動き出した知略と、深層でさらに完璧な隠蔽能力を手に入れた怪物。

両者のすれ違いが、物語をより深く、予測不能な方向へと加速させていく。

第84話をお読みいただきありがとうございます!

今回は地上と深層、それぞれの思惑が交差するエピソードでした。

地上では、ついに迷宮学者の東雲が鍛冶師の鉄山へと接触しました。「護民のイージス」を動かして如月家を裏から守る鉄山と、探求心から三月の異常性を暴こうとする東雲。大人たちのヒリヒリとした駆け引きが本格的に動き出しています。

一方で深層の三月は、魔力を削る灰の渋谷を難なく突破! 新たに獲得した『魔力隠蔽(中)』は、地上で彼女の正体を探ろうとする東雲たちに対する、図らずも「最高のカウンター」となりました。

知略で迫る学者と、強大な力を手に入れつつさらに完璧に気配を隠す三月。この両者のすれ違いが今後どのような展開を生むのか、ぜひお楽しみに!

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