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魂喰い覚醒で最強へ成り上がるFランク少女、意識を奪う闇と共に歩む  作者: beck2026


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第八話:他者の目と、蹂躙の夜

第二層のさらに奥、青白い燐光すらも届かない完全な暗闇の領域。

そこでは、激しい金属音と、人間の荒い息遣いが響き渡っていた。

「くそっ、なんでこんな場所に『アイアン・スパイダー』が三匹も同時にいやがるんだ!」

大盾を構えた前衛の男が、必死の形相で叫ぶ。

彼の胸元で揺れているのは、経験と実績を積んだ証である『Dランク』の探索者バッジ。

通常、第二層を安全に狩るための適正ランクである彼らだったが、

今、彼らのパーティは完全に崩壊の危機に瀕していた。

視線の先には、漆黒の外殻を鈍く光らせた、三匹の巨大な蜘蛛の魔獣。

一匹だけでもその堅牢な防御力で手を焼く相手だ。

それが三匹同時に、完璧な連携を持って襲いかかってきた。

「魔法が……っ、奴らの外殻に弾かれる! 効いてないわ!」

後方から放たれた炎の弾丸が、蜘蛛の背中に命中する。

しかし、爆炎が晴れた後に現れたのは、煤がついただけで傷一つない漆黒の装甲だった。

第二層の魔物は、第一層のそれとは命の硬さが違う。

現代兵器を拒絶するダンジョンの理が、より色濃く働いているのだ。

「ギシャアアアアッ!」

一匹のアイアン・スパイダーが鋭く吠え、槍のような前脚を突き出してきた。

ガキィィン! と重い衝撃が大盾を構える男の腕を痺れさせる。

足元がずるずると岩肌を後退した。

「おい、嘘だろ……。俺たちの武器じゃ、あいつらの装甲を傷つけることすらできねえ……!」

戦士の男が握る自慢の鋼鉄の剣は、先ほどの打ち合いですでに刃がガタガタに潰れていた。

じりじりと下がれば、背後はすぐに冷たい壁に行き着く。

全滅の二文字が、彼らの脳裏をよぎった、その時だった。

カツン、カツン、と。

激しい戦闘の音に混ざって、場違いなほどに静かな、規則正しい足音が近づいてきた。

「……誰か、来たのか?」

絶望に染まりかけていた探索者たちが、一縷の望みをかけて通路の奥へと視線を向けた。

高ランクのパーティが助けに来てくれたのか。

それなら生き残れるかもしれない。

しかし、闇の中から現れたその人影を見た瞬間、彼らは別の意味で言葉を失った。

そこにいたのは、小柄な一人の少女だった。

衣服の上に安物の革鎧を纏っただけの、どこにでもいる、少し細身の十八歳ほどの少女。

その腰のバッジは、驚くべきことに、最低辺を示す黒い『Fランク』だった。

「おい、馬鹿! 何しに来た、逃げろ!」

「ここはFランクが来ていい場所じゃない! 死ぬぞ!」

パーティの男たちが必死に声を張り上げる。

しかし、少女――如月三月は、彼らの制止の声を完全に無視していた。

彼女の瞳は、目の前の人間たちを映していない。

その妖しく昏い視線がじっと見つめていたのは、三匹のアイアン・スパイダーだった。

「……いた」

ぽつりと、掠れた声が三月の唇から漏れる。

彼女の胸の奥では、怪物の気配を察知した『飢え』の怪物が、狂ったように暴れ回っていた。

蜘蛛たちの身体から立ち上る、冷徹で硬質な魔力のオーラ。

それが、三月には世界で最も甘美なご馳走の香りのように感じられていた。

三月は無造作に右腕を動かし、腰の鞘から武器を引き抜いた。

引き抜かれたのは、お世辞にも美しいとは言えない、黒く無骨な鉄の塊。

筋力自慢の探索者でも両手で持て余すという『魔鉄の塊剣』。

それを、三月は細い右腕一本だけで、まるで軽いおもちゃのように片手で構えてみせた。

「な、んだよ……あの剣……」

Dランクの戦士が、その異常な光景に息を呑む。

華奢な少女が片手で扱える質量ではない。

だが、驚愕する彼らを置き去りにして、三月の身体が動いた。

「ギシャッ!?」

侵入者の存在に気づいた一匹のアイアン・スパイダーが、ターゲットを三月へと切り替え、

猛烈な速度で地を這いながら突進してきた。

突き出される、鋭利な槍の如き前脚。

「危ない!」

探索者の叫び。

しかし、三月は避けることすら、もはや退屈だと感じていた。

十層のオークの突進を経験した彼女にとって、この程度の速度は恐るるに足りない。

三月は『俊敏(微)』のスキルを持って、前脚の刺突を首を僅かに傾けるだけで回避。

無駄のない滑らかな動きで、その攻撃を紙一重でかわしてみせる。

すれ違いざま、右腕の『怪力(小)』を爆発させた。

黒鉄の塊剣が、蜘蛛の側頭部へと容赦なく叩きつけられる。

ドグシャアアアッ!!

金属音ではない。

強固な装甲が、それ以上の圧倒的な質量と暴力によって、内側の肉ごと強引に「圧砕」される音だった。

アイアン・スパイダーの巨体が、一撃で横吹きに飛び、岩壁に激激突して激しく痙攣した。

「は……?」

Dランクの探索者たちの思考が、完全に停止した。

自分たちが魔法を浴びせ、自慢の武器を傷だらけにしても傷一つつけられなかった怪物が、

目の前のFランクの少女によって、たった一撃で、文字通り粉砕されたのだ。

しかし、三月の蹂躙はそれで終わりではなかった。

「次……」

三月は地面を強く蹴り、残る二匹との距離を急速に詰める。

目にも留まらない、というほどの異常な速度ではない。

だが、その一歩一歩が極めて正確で、一切のブレがない、無駄を削ぎ落とした鋭い踏み込み。

それが、進化した『俊敏』の力だった。

残された二匹の蜘蛛が恐怖に複眼を揺らす。

だが、対応する間もなく、三月の黒い剣が横に一閃された。

二匹のアイアン・スパイダーの脚が、まとめて数本、根元から強引に叩き折られる。

「ギガッ……!?」

バランスを崩して地面に転がる怪物の脳頭蓋へ、三月は容赦なく黒い剣を突き立て、トドメを刺した。

わずか数十秒。

Dランクパーティを全滅寸前まで追い込んだ三匹の恐怖の魔獣が、

一人の少女の手によって、完璧に、一方的に殲滅された。

「化け、物……」

戦士の男の口から、引きつった声が漏れる。

救われた安堵感など、そこにはなかった。

あるのは、目の前にいる「少女の姿をした何か」に対する、根源的な恐怖だけだった。

しかし、本当の恐怖はここからだった。

三月は動かなくなった蜘蛛の死体に歩み寄り、その頭部に両手を押し当てた。

「あ、あぁ……っ……」

三月の口から、吐息混じりの、淫らなほどの歓喜の声が漏れる。

視界を真っ赤に染めながら、彼女は固有スキル『魂喰い』を発動させていた。

ズウゥゥン、と空気の密度が変わる。

探索者たちの目の前で、アイアン・スパイダーの巨体から、

青白い光の塊――『魂』が引き剥がされ、少女の中へと吸い込まれていく。

エネルギーを失った怪物の肉体は、

みるみるうちに輝きを失い、灰色に干からびた石のようになって崩れ去っていった。

それは、ダンジョンが定めたドロップの法則すらも歪める、完全なる異端の力。

三匹分の蜘蛛の魂が、三月の体内に流れ込み、

彼女の細胞を、魔力を、さらに強固なものへと作り替えていく。

【アイアン・スパイダーの魂の捕食を完了しました】

【身体能力が上昇します】

【スキル『俊敏(微)』が『俊敏(小)』へと進化しました】

脳内に響く冷徹なアナウンス。

スピードを強化するスキルが、また一つ、上の段階へと進化した。

「ふぅ……、あはっ……」

すべての魂を喰らい尽くし、三月は満足そうに息を吐いた。

地面には、三つの綺麗な青い魔石だけが、ぽつんと残されている。

三月はそれを無造作に拾い上げると、ポケットの奥へと仕舞い込んだ。

そして、腰の鞘に黒い剣を収め、

背後でガタガタと震えているDランクの探索者たちの方を、ゆっくりと振り返った。

彼らは、恐怖で完全に硬直していた。

自分たちを助けてくれたヒーローを見る目ではない。

いつ自分たちをも喰らい殺すか分からない、未知の天災を見る目だ。

三月は、そんな彼らを見つめ――。

一言も発することなく、興味を失ったように視線を外した。

彼らのランクも、名前も、今の三月にとっては一円の価値もない、どうでもいい事柄だった。

「まだ……足りないな」

ぽつりと、自分自身にだけ聞こえる声で呟き、

三月は彼らの横をすり抜け、さらに深い、第二層の暗闇の奥へと歩みを進めていった。

残された探索者たちは、ただ呆然と、その小さな背中を見送るしかなかった。

Fランクという偽りの仮面を被った、本物の怪物の背中を。

今回はDランクパーティの前に三月が現れ、アイアン・スパイダーの群れを圧倒するエピソードでした。「人間の目で見えない速さ」ではなく、無駄のない洗練されたステップ(俊敏)と圧倒的な筋力(怪力)による恐怖の戦闘描写に変更いたしました。

他人の目の前で堂々と「魂喰い」を行い、怪物を塵に変えていく彼女の姿は、周囲からは完全に「化け物」そのものです。

少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマークや**評価(↓の☆☆☆☆☆)**で応援していただけると非常に励みになります!

それでは、第九話でお会いしましょう。

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